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チャットボットの正しい選び方〜導入する企業が押さえるべき3つのポイント

人の質問に答えることができるロボット「チャットボット」は、すでに多くの企業が導入して顧客対応や情報提供などに使っています。業務の効率化に定評のあるチャットボットですが、種類によって得意技が異なるので、導入を検討している企業は自社のニーズにマッチしたチャットボットを選びたいものです。
企業の担当者が自社で使うチャットボットを選ぶときは、以下の3つのポイントと、チャットボット選びに失敗する方法を押さえておいてください。

ポイント1:チャットボットの種類と機能を知る
ポイント2:自社の課題を把握する
ポイント3:複数のチャットボットを比較して採点する
番外編:チャットボット選びに失敗する方法

チャットボットの正しい選び方と、選定に失敗しない方法を解説します。


チャットボットの種類と機能を知る【ポイント1】

何か商品を選ぶとき、普通は「これをしたい」と思ってから「この商品がよさそうだ」と考えるでしょう。つまり、ニーズ→商品選定、という順番です。
しかしチャットボットを選ぶときは、商品選定→ニーズ、の順に進めていったほうがよいでしょう。
なぜならチャットボットは新しいビジネス・ツールであり今も新しい製品が出続けているので、これでできることの把握が難しいからです。企業の担当者は、まずはチャットボットでできることを把握してから、「それなら当社のこの業務をチャットボットに任せられそうだ」と検討してみてください。

チャットボットの種類

チャットボットには大きく次の3種類があります。

  • シナリオ型チャットボット

  • 辞書型チャットボット

  • AI型チャットボット

この順にグレードが上がっていき、最新版は今話題のAIを搭載(連携)しています。

シナリオ型は質問も回答も限られる

シナリオ型チャットボットでは、想定される質問とその回答を用意しておき、質問者に回答を選択してもらう仕組みになっています。
例えば企業が顧客の質問に回答するチャットボットを導入したとします。シナリオ型チャットボットは次のように仕事を進めていきます。

■シナリオ型チャットボットの仕組み
●質問者がチャットボットにアクセスすると画面に「お尋ねになりたいのは、納期のことですか、お支払いのことですか」と表示される(チャットボットが質問する)

●質問者が「支払い」を選択する

●チャットボットがさらに「お支払いでお尋ねになりたいのは、現金支払いですか、カード支払いですか、電子マネー支払いですか」と尋ねる

●質問者が「現金支払い」を選択する

●チャットボットが現金支払いの方法を説明した文章を画面に表示して完了

質問も回答もシナリオのように決まっています。

辞書型はフリーワードで検索でき、チャットボットが答えを辞書のなかから探す

辞書型チャットボットでは、質問者はフリーワードで質問できます。
例えば質問者がチャットボット画面に「現金による支払い方法について教えて」と入力したとします。するとチャットボットが事前に登録していた情報のなかから現金支払いの説明を選んで、質問者に提示します。
事前に回答が用意されている点はシナリオ型と同じですが、辞書型チャットボットはフリーワードから求められている答えを推測して、最も適した回答を探しているところに進化がみられます。

AI型はどんどん賢くなって正答率が高くなる

AI型チャットボットは、あたかも質問者(人)の話を理解して、最適な答えを考えて回答します。チャットボットが自分が持っている答えのなかから回答を導くところは、AI型もシナリオ型も辞書型も同じなのですが、AI型チャットボットは教師役の人から教わることでどんどん回答を増やしていくことができます。
シナリオ型や辞書型の場合、新しい回答を答えさせるにはプログラムを追加する必要があります。しかしAI型チャットボットは教師役の人が「その答えは間違っているので次はこう答えるように」や「それは正しい答えだが、このことも伝えるように」と教えればそれを学習して次回はより正確に答えられるようになります。

3種類とも一長一短、併用も有効

AI型チャットボットは確かに質問者の意図を汲むことができ、より高いレベルの回答ができるのですが導入コストは高額になります。したがってチャットボットを導入する企業が簡単な作業しかチャットボットに任せないのであれば、安価なシナリオ型でも効果が得られます。
一方、多種多様なサービスを提供している企業が、すべてのサービスの顧客対応を1つのチャットボットに任せる場合、シナリオ型や辞書型を導入してしまうとメンテナンス作業が増えてしまいます。高度かつ複雑な仕事を任せるのであれば最初からAI型チャットボットを導入してしまったほうが長い目でみるとコスト安になるでしょう。
シナリオ型と辞書型はルーティン・ワークが得意な人で、AI型は次々新しい仕事を覚えていく人、といったイメージです。

またシナリオ型とAI型を併用している企業もあります。よくある質問についてはシナリオ型チャットボットに回答させ、込み入った質問にはAI型チャットボットが回答します。AI型チャットボットでも回答できない質問には、人のオペレーションが対応するようにしているのです。

チャットボットの機能(できること)

チャットボットは「質問に答える」ことしかできないわけですが、しかしすべてのビジネスが情報のやり取りで成り立っていることを考えると、この機能には大きな可能性があります。
企業はチャットボットを顧客サポートにも、情報提供にも、業務改善にも、エンタメにも使うことができます。

顧客サポート~保険見積もり、レストラン予約

顧客たちは、企業にさまざまなサポートを求めています。ある製品を買った人が使い方を知らなければ、メーカーに聞くしかありません。有名レストランで確実に食事をしたい客は席の予約をするわけですが、これはレストラン側が客の確実な食事をサポートしているといえます。
チャットボットはこのような顧客サポートを代行します。

ある生命保険会社がチャットボットで保険診断や保険見積もりをできるようにしました。客がチャットボットの入力画面に生年月日や希望などを入力すると、最適な保険商品が表示されます。
あるクレジットカード会社は、カード利用者と店舗向けに店舗の予約ができるチャットボットを導入しました。カード利用者は予約を取ることができ、店舗は予約客を増やすことができます。

情報提供~マニュアル、年末調整の方法、受診診療科

企業もビジネスパーソンも事業や仕事を続けていくと保有する情報量が膨大になります。その情報はビジネスに役立つ貴重なものですが、量が多いとアウトプットするのに苦労します。
チャットボットなら、大量の情報を効率良く、さまざまな人に簡単に提供することができます。

例えば紙の作業マニュアル冊子の情報をチャットボットに入力すれば、新人社員がチャットボットに「この仕事のやり方を教えて」と指示するだけで作業方法が提示されます。新人社員は分厚い作業マニュアル冊子から必要な情報を探す必要がありません。
ある人事サービスのアウトソーシング会社は、年末が近くなると顧客企業の給与計算担当者から年末調整の仕方の問い合わせが急増して困っていました。チャットボットに年末調整の方法を回答させるようにして、担当者の業務量を減らしました。
あるアパレル企業は季節の始まりにイベントを開催しているのですが、そのイベント情報をチャットボットで顧客などに提供するようにしました。
あるシステム開発会社は病院向けのシステムをつくっていて、その1つとして受診すべき診療科や、すぐに受診すべきかどうかを回答するチャットボットを開発しました。
ある市は、ゴミの処理方法や税金、水道料金、観光情報をチャットボットで提供しています。
大量にある貴重な情報も、人々が使いやすいように提供できないと価値を生みません。チャットボットの情報提供機能は情報の価値を高めます。

業務改善~学生の就職支援、チェックイン時間の周知、電車の忘れ物探し

作業マニュアルの内容や年末調整の仕方を提供することは情報提供であると同時に、その業務の担当者にとっては業務の効率化になります。
ある大学は、学生の就職活動支援に力を入れていて必要な情報をすべてWebサイトに掲載していたのですが、就職支援担当者は毎年学生から同じ質問を受けていました。その質問の答えはWebサイトに載っているのに、です。そこでチャットボットを導入し、学生の質問に回答できるようにしたところ、就職支援担当者への質問が減りました。就職支援担当者は企業回りができるようになり、その大学の就職活動支援は充実したのです。
あるホテルチェーンがチェックイン・アウト時間や荷物の預かりなどを回答するチャットボットを導入したところ、フロント担当者の問い合わせ対応業務が減りおもてなしに集中できるようになりました。
鉄道会社にとって遺失物の管理や返却は利益を生まない業務ですが、やらないわけにはいきません。そこでチャットボットを導入して、乗客が忘れ物を自分で探せるようにしました。利益を生まないのにやらなければならない業務をチャットボットに任せるのは、究極の業務改善策といえるでしょう。

エンタメ~ゲームのキャラと会話できる

AI型チャットボットは、人と対話しながら業務を処理していきます。この、コンピュータと会話する体験は楽しさを生みます。
あるゲーム会社は、AI型チャットボットを導入してキャラクターがユーザーと会話できるようにしました。ユーザーはもちろんゲームに関する質問ができるわけですが、他愛のない会話もできます。キャラクターと会話できることはエンターテイメントになります。

チャットボットでできることについてはこちらの記事でも詳しく解説しています。ご興味があれば。
企業はチャットボットで何ができ、どれだけ効率化するのか~メリットとデメリットを解説

自社の課題を把握する【ポイント2】

ここまででチャットボットができることをだいぶ把握できたと思います。
ここからは、チャットボットに任せられる仕事を探していきましょう。
企業の課題やニーズには、生産性の向上、効率化、人件費の抑制(人員を減らす)、顧客満足度の向上、新規顧客の獲得などがあると思います。
これらの課題のいくつかはチャットボットで解決できます。先ほど企業導入例を紹介しましたが、解決できた課題と照合してみましょう。

■生命保険会社がチャットボットで保険診断と保険見積もりができるチャットボットを導入した

【解決した課題】人件費の抑制(人員を減らす)、顧客満足度の向上、新規顧客の獲得

■クレジットカード会社が、カード利用者と店舗向けに店舗の予約ができるチャットボットを導入した

【解決した課題】効率化、顧客満足度の向上

■作業マニュアルの内容を回答できるチャットボットを導入した

【解決した課題】生産性の向上、効率化

■患者に受診すべき診療科やすぐに受診すべきかどうかを回答するチャットボット

【解決した課題】効率化、顧客満足度の向上

自社の課題を洗い出し、1つひとつ「これをチャットボットで解決できないか」と検討するとよいでしょう。
さらに企業の担当者が社内の全部署にヒアリングして課題を拾い集めると全社的な取り組みになります。

複数のチャットボットを比較する【ポイント3】

企業の担当者が、チャットボットの機能を理解して自社の課題を把握したら、チャットボットをつくっているシステム開発会社に相談しましょう。自社の課題を伝え、そのチャットボットで解決できるのかどうか尋ねます。
企業の担当者は複数のシステム開発会社にコンタクトして、比較できるようにしてください。
システム開発会社に何を尋ねればよいのか、と、何を比較すればよいのか、を解説します。

複数のシステム開発会社に自社の課題を解決できるのか尋ねる

企業の担当者はシステム開発会社に、「この課題を御社のチャットボットで解決できますか」とダイレクトに尋ねたほうがよいでしょう。
企業がチャットボットから得られる最大のメリットは、業務の自動化、無人化、省人化、効率化のはずです。この点は、業務支援システムを入れる動機と同じです。さらにいえば、企業がIT化やDX化を急がなければならないのも、人でなくてもできる作業を次々コンピュータに任せて生産性を上げなければならないからです。
また、チャットボットは種類によってできる仕事が異なるので、あるシステム開発会社が「できない」と答えても、別のシステム開発会社は「できる」と答えるかもしれません。複数社に打診することをおすすめします。

使いやすさを尋ねる

企業の担当者が課題を解決できそうなチャットボットをみつけることができたら、実際の操作者や管理者にデモ用のチャットボットを操作してもらいましょう。デモ用のチャットボットはシステム開発会社が用意します。
チャットボットはツールなので、使いこなせて初めて力を発揮します。したがってもしチャットボットの実際の操作者・管理者が操作できないことがわかったら、別のチャットボットを探すか、操作者・管理者をトレーニングしなければなりません。
システム開発会社のなかには、有償あるいは無償で操作者・管理者をトレーニングしてくれるところもあります。

価格を尋ねる

業務改善で生産性を高めるにはコスト計算が欠かせません。そのため、チャットボットを導入して得られるメリットの額がチャットボット使用料を上回れば、導入したほうがよいと判断できます。
例えば、顧客サポート用のチャットボットを導入してオペレーターの人員を5人から4人に減らすことができるのであれば、チャットボットの年間使用料とオペレーター1人分の年間給与額を比較することができます。

導入後の対応を尋ねる

チャットボットは導入して完了、とはならないコンピュータ・システムです。AI型チャットボットは教師役の人が教え込まないと賢くなりませんし、シナリオ型や辞書型のチャットボットでも導入後に想定していなかった質問や回答が現れるのでそれに対応していかなければなりません。質問者は、自分が知りたい情報が得らないと感じたらもうそのチャットボットを使わないでしょう。
企業の担当者はシステム開発会社に、チャットボットを導入したあとの対応を尋ねてください。アフターフォローが受けられる期間や、有償対応の種類と無償対応の種類を知っておく必要があります。

導入した会社の成功事例と失敗事例を尋ねる

企業の担当者はシステム開発会社に、チャットボットを導入して成功した事例と失敗した事例を尋ねましょう。成功事例からは、どのような業務がそのチャットボットに適しているかがわかります。失敗事例からは、何をして何をしないと失敗するのかがわかります。
また、自社と同じ業界にいる会社がチャットボットの導入に成功していれば、自社の成功確率が高くなると期待できます。

複数のチャットボットを採点する

複数のチャットボットを比較するときは数値化したほうがよいでしょう。例えば次の4項目で評価するとします。

●課題を解決できるか(1、2、3、4,5)
●価格は妥当か(1、2、3、4,5)
●操作性に優れているか(1、2、3、4,5)
●アフターフォローは充実しているか(1、2、3、4,5)

4項目についてそれぞれ1~5点で評価します。例えば3社に打診したら、3種類のチャットボットについて採点します。総合点が最も高いチャットボットを採用すれば成功する確率が高くなるわけです。

採点といえば、いわゆるランキングサイトと呼ばれるようなサイトをネット上で目にする機会があるかと思います。
その大部分のサイトは主に広告収入が目的であり、恣意的な内容・順位付けがされていたりすることも少なくありません。
しかし、チャットボットに限らず、たまに趣味の延長?のような内容が濃い個人のサイトを見かけます。チャットボットを比較する際は、このようなサイトも参考にするといいでしょう。
チャットボット無敵の比較

【番外編】チャットボット選びに失敗する方法

ここまで、企業がチャットボットを選ぶときに検討したほうがよいことを紹介しましたが、ここからはその逆で、チャットボットの選定過程でしてはいけないことをみていきます。
ここで紹介する「穴」に落ちないように用心してください。

機能を求めすぎる

機能を求めすぎると失敗する可能性が高くなります。
AIは驚異的なスピードで進化していて連日ニュースをにぎわせています。したがってAI型チャットボットはこれからまだまだ賢いツールになっていくはずです。
しかし高度な知能を持ったAI型チャットボットは高額になり、チャットボットに任せる業務によっては費用対効果が高まらないかもしれません。
企業の担当者は、チャットボットができることと一緒に、自社の課題を解決できるのかどうかに着目しましょう。

コストを重視しすぎる(必要な機能を無視する)

コストを重視しすぎても失敗リスクが高くなります。
チャットボットの価格は機能・性能と比例していると考えてよいでしょう。できることが多く、より素早くより正確に作業を処理できるチャットボットは高額で、そうでないと低額になります。コストをかけるところにはかけないと、使えないチャットボットを導入することになりかねません。

実際の操作担当者の意見を聞かない

チャットボットを実際に操作したり管理したりする人の意見を聞かないで導入してしまうと、失敗リスクが高くなります。
企業の担当者はチャットボットの操作者・管理者に、比較するすべてのチャットボットに触れてもらってください。実際の操作者・管理者がデモ版のチャットボットを操作すれば、必要な機能がついていないことを発見するかもしれません。その機能を追加で搭載すれば、より使えるチャットボットになります。

セキュリティをチェックしない

セキュリティ体制をチェックしないことも危険です。
チャットボットの多くはクラウドで提供されます。インターネットを経由するのでどうしてもセキュリティ・リスクが発生してしまいます。
企業の担当者はシステム開発会社に必ずセキュリティ体制について尋ねてください。「クラウド・システムを扱っているのだからセキュリティ体制は整っているはずだ」という先入観は捨てましょう。
尋ねたい項目は1)チャットボットと質問者の対話データの取り扱い、2)チャットボットへのアクセスの体制、3)脆弱性テスト、4)データ管理のポリシー、5)顧客のプライバシー保護ポリシー、6)事故発生時の対応、7)コンプライアンス体制、などです。

監視とメンテナンスが欠如しているシステム開発会社に発注する

チャットボットを導入したあとに、監視もメンテナンスもしてくれないシステム開発会社に発注してしまうと後悔することになるでしょう。
チャットボットは実用段階に入ってもメンテナンスと監視が必要です。
チャットボットを導入した当初は、適切に回答できないことがあります。監視することで回答できないケースや不適切回答をチェックできます。そしてメンテナンスすることで正答率を高めていきます。
定期的なメンテナンスや利用者からフィードバックを得て改善することを怠ると、チャットボットの性能が低下し、顧客満足度が下がる可能性があります。

社内にチャットボットについて知っている人がいないのに導入してしまう

企業は、システム開発会社からチャットボットを購入して導入・活用するわけですが、それでも社内にチャットボットについて知っている人が1人もいないと成果はあがらないでしょう。
チャットボットはツールにすぎないので、システム開発会社からツールを受け取ってもそれを使いこなせなければ宝の持ち腐れになってしまいます。
システム開発会社のなかには、チャットボットに関するコンサルタントや社員研修を行ってくれるところもあるので、そのような指導サービスを受けてもよいと思います。

まとめ~とことん尋ねて納得して導入を

金属部品メーカーが加工機械を購入するとき、イタリアンレストランがピザ窯を買うとき、病院が最新の検査機器を導入するとき、担当者は複数社の複数の製品を吟味するはずです。求める機能は搭載されているのか、生産性は本当に上がるのか、自動化できるのか、使いやすいのか、投資額を回収するのに何年かかるのか、導入後はどれくらいケアしてくれるのか、などをメーカーの担当者にとことん尋ねるでしょう。
チャットボットを導入するときも多角的かつ詳細にチェックするようにしてください。担当者が納得できるまで、システム開発会社に質問をぶつけましょう。


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