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初期コストだけで数百万円の社内向けAIチャットボットは高いのか:割安でしょう

企業が社内業務で使うチャットボットのなかには、無料や数万円程度のものがある一方で、初期コストだけで数百万円というAIチャットボットもあります。
数百万円は業務支援システムの費用としては高いほうですが、AIチャットボットが企業にもたらすメリットを考えると割安と考えることもできます。
AIチャットボットのコストについて解説します。


チャットボットの費用の相場~なぜ無料から数百万円まであるのか

チャットボットはいくらなのか。
この質問に正確に答えるなら、無料から数百万円、となります。
しかしこれでは幅がありすぎて、導入するかどうかの判断に使えないでしょう。そこで次のような相場観を提示します。

【レベルごとのチャットボットの費用】
●お試し感覚で利用するレベル:無料~数万円
●ビジネスで使えるレベル:数十万円
●本格的にチャットボットで生産性を上げるレベル:数百万円

価格差が大きいのは性能差が大きい

チャットボットの価格にこれだけの差があるのは、使用するコンピュータの性能の差が大きく、できることがまったく違うからです。
これまでチャットボットを使ったことがなく、どのようなものなのか試してみたい、といったレベルでよければ、単純なプログラミングでつくられたチャットボットで十分なので無料または格安で入手できます。
しかし無料のチャットボットではビジネスで使えないでしょう。ビジネスで一定の成果を挙げたいのであれば数十万円規模の高性能チャットボットが必要になります。
ただし数十万円のチャットボットでも、単純作業は代行できても、複雑な仕事はこなすことはできません。
複雑な仕事をこなすには高度なAIが必要で、そうなると費用は百万円単位になっていきます。

安いか高いかはコスト回収次第

企業が業務支援システムのコストを考えるとき、「高い=導入メリットなし」か「安い=導入メリットあり」かで判断するはずです。
チャットボットもシステムなのでコストについては同じ考え方をします。つまりチャットボットの導入コストを回収できれば安いみなすことができ、短期間で回収できればすごく安いという評価になるわけです。
短期間で回収できるほどコスト回収性は高くなり、導入したほうがよい、と判断できます。

コストの回収性の計算式

コストの回収性は数字で出すことができますが、計算式によって算出される数字が違ってきます。計算式は複数あり、例えば以下のとおりです。

●計算式の例1
コスト回収期間=コストの額÷1年間のメリット

●計算式の例2
コスト回収期間=初期費用÷(1年間のメリット-1年間の維持費)

例1は、コストの額を1年間に得られるメリットで割ったものです。これでコスト回収期間を割り出すことができます。数字が小さくなるほどコスト回収期間が短くなるので、コスト回収性は高くなります。
例えば、200万円のAIチャットボットを購入して、これによるメリットを1年間に50万円分創出できれば4年間(=200万円÷1年50万円)でコストを回収できます。
企業の経営者やIT担当者が、4年を短いと感じれば「安い=導入メリットあり」と判断できます。
例2は、コストを初期費用と維持費にわけて計算しています。
コスト回収性のカギを握るのはAIチャットボットのメリットなので、次にこの算出方法を解説します。

人件費の減額分をメリットとみなしてコストの回収性を測る

AIチャットボットの導入メリットを金銭に換算する方法の1つに、人件費との比較があります。
例えば、業務Aを年収500万円のBさんが担当していたとします。また、Bさんは業務Aに自分の労働時間の10%を割いていたとします。
このとき業務Aのコストを年間50万円とすることができます。計算式は以下のとおり。

●業務Aのコスト=担当者Bさんの年収500万円×労働時間の10%を費やす=年50万円

もし業務AをAIチャットボットで代行できたら、導入メリットは年間50万円とみなすことができます。
このAIチャットボットの価格が200万円なら、4年でコストを回収できます。

●コスト回収期間=導入コスト200万円÷導入メリット年50万円=4年間

実際のメリットはさらに増す

200万円のAIチャットボットを購入して4年で回収できるのであれば、導入する意義は十分あるといえるでしょう。
しかし「4年では遅い」と不満に感じる経営者もいるかもしれません。実は、より厳密に計算するとコストはもっと早く回収できます。

なぜならBさんが業務Aから解放されることで、より収益性が高い仕事に着手できるようになるからです。
例えば、業務AをしなくなったBさんが営業担当者のサポートに回り、そのお陰で営業担当者たちが効率良く営業できるようになり売上高が増えたとします。Bさんの営業サポート業務が毎月30万円の営業効果を生み出したら、年間360万円(=月30万円×12カ月)のメリットを会社にもたらします。つまりこれだけでAIチャットボットの200万円を1年未満で回収できてしまうわけです。
コスト回収に4年もかかることに不満を持つ経営者も、1年未満で回収できるのなら満足できるでしょう。

絶対的な金額が高額なのはAIだから

コストの回収性の高さを考えると、AIチャットボットは「安い=導入メリットあり」といえます。しかし経営者というものは支払うお金の絶対額も気にするはずです。なぜなら支払う金額が膨らめば、例えコスト回収性が高い投資であってもキャッシュフローが悪化するからです。
ただ、複雑な仕事を代行できる高性能AIチャットボットを導入するには、どうしても数百万円規模の支払いが必要になります。それはAIだからです。

ここでは、企業が、総務部に寄せられる社員からの質問に回答するAIチャットボット(以下、総務対応AIチャットボット)を、システム会社から購入するケースで説明していきます。

ドメイン固有の知識をAIに組み込む必要があるから

AIチャットボットが高額になるのは、AIにドメイン固有の知識を組み込む必要があるからです。
ドメインとは範囲、領土、住所という意味ですが、AIチャットボットにおけるドメインとは、そのAIチャットボットが仕事をする領域という意味になります。

企業に総務対応AIチャットボットを導入するとき、そのドメインはその企業の総務部となります。
その総務部にはそこ特有の知識や用語があり、総務部の担当者はその知識や用語を使って仕事をします。したがって総務対応AIチャットボットも、その知識や用語を使えるようにしなければなりません。これがドメイン固有の知識をAIに組み込む作業です。
どのように組み込むのかというと、総務部の業務の過程や対象を最小の要素にまで分解して、要素とデータの関係や、要素と要素の関係を明らかにして、それをAIチャットボットに覚え込ませるのです。
これは手間がかかるのでAIチャットボットは高額になります。

情報やデータを集める必要があるから

AIチャットボットが大量の情報やデータを必要にするのも、その費用を押し上げます。
AIチャットボットが非AIチャットボットより優れているのは、業務内容に合わせられるからです。
非AIチャットボットには学習機能がないので、企業がチャットボットに代行させる仕事は限定されます。一方AIチャットボットなら、その企業特有の事情に合わせて対応させることができます。AIチャットボットにその企業の総務部の業務を学習させれば、次々とその業務を処理していきます。
ただしAIチャットボットに大量の仕事を任せるには、総務部の情報やデータを大量に入力する必要があり、それには手間がかかるのでコスト高になるのです。

情報やデータを前処理する必要があるから

総務対応AIチャットボットの学習には、関連文書や既存のFAQ(Q&A)、マニュアル、過去のチャット・ログなどの情報・データを使いますが、このままではAIのコンピュータが理解できません。これらの情報やデータをAIチャットボットに理解させるには、前処理が必要になります。
前処理には、データ形式を統一したり、不足しているデータを補充したり、不要な情報の削除したり、テキストを正規化したりする作業が含まれます。
前処理も手間がかかりコストを押し上げます。

AIモデルを使うから

企業に総務対応AIチャットボットを販売しているシステム会社は、既存のAIモデルをベースにして、その企業の総務部で使えるようにカスタマイズします。
例えばアクセサリー職人は金属の塊を加工してアクセサリーをつくりますが、これと同じようにシステム会社は、既存のAIモデル(金属の塊)をカスタマイズして(加工して)その企業の総務対応AIチャットボット(アクセサリー)をつくっていきます。
システム会社は多額の費用をかけてAIモデルをつくっているので、そこからつくるAIチャットボットが高額になるのは仕方がないところです。
金でつくるアクセサリーとステンレスでつくるアクセサリーが、デザインが同じでも値段が異なるようなものです。

そのほかにもさまざまな作業が発生するから

AIモデルにドメイン固有の知識を組み込み、前処理した情報やデータを入力すると、総務対応AIチャットボットは社員の質問に回答できるようになりますが、しかし誕生したてのころはまだチャット(会話)がぎくしゃくします。
そのためシステム会社は、クライアント企業から要望を聴き取って対話フローを設計してAIチャットボットに適用していきます。対話フローとは、AIチャットボットが人との対話を進行するための計画や設計です。対話フローがAIに、人とどう対話すべきか指示を出します。
例えば人がAIチャットボットに「コーヒーが飲みたい」と問いかけると、AIチャットボットが「どのコーヒーにしますか。アメリカン、エスプレッソ、カプチーノなどがあります」と回答します。これが対話フローです。
対話フローを適用してようやく、総務対応AIチャットボットを実用化できます。その企業の社員たちは総務対応AIチャットボットに問い合わせることで、総務関連の問題を解決できます。

それでも実用化当初は、総務対応AIチャットボットが不適切な回答をする可能性があります。システム会社は総務対応AIチャットボットの回答を評価したりテストしたり間違いを訂正したりして鍛えあげていきます。この作業をデプロイメント(使える状態にすること)といいます。
また、総務対応AIチャットボットをほかの社内業務支援システムに統合させることもでき、これもデプロイメントの1つになります。

AIチャットボットはいったん完成してもフィッティングにこれだけの作業が必要になるので、やはりコスト高になります。

まとめに代えて~結論、安いといえる

数百万円のAIチャットボットは結局、高いのでしょうか、安いのでしょうか。
安いといえるでしょう。
導入した企業がAIチャットボットの能力を最大限活用できれば、数百万円ぐらいすぐに回収できるからです。
それでも1個の業務支援システムが数百万円というのは高すぎる、という印象を払拭できない人はいると思います。しかし、数百万円もするから価値があるともいえるのです。

非AIチャットボットを導入している企業はかなり増えましたが、高度な業務を代行できる高度なAIチャットボットを導入している企業はまだそれほど多くはありません。それはAIチャットボットが高額だからです。
そのため今AIチャットボットを導入すれば、その企業は他社よりはるかに生産性を高めることができます。
コンピュータ技術は進化して普及するにしたがって安価になるので、AIチャットボットもそのうち安価になるでしょう。しかしそのときは多くの企業が導入しているはずなので差別化が難しくなります。
他社と差別化するなら今です。そして差別化できることを考え合わせると、AIチャットボットは安いといえるのです。

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