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しずくのぼうけん

「しずくのぼうけん」という絵本をご存じでしょうか?ポーランドのマリア・テルリコフスカという作家が書いた子供向けの絵本です。バケツからこぼれ落ちた水のしずくが、様々な形に姿を変えながら旅をするという絵本です。物語という形ですが、水が氷になったり水蒸気になったり、水道水になって循環するといった、科学的な要素を小さい子供に教えるには良い題材なのかと思います。
http://www.pictio.co.jp/museum/recommend/4883

自宅で蛇口をひねったら、水が出て、その水が排出されますが、この水はどこから来て、どこに行くのか?また、降った雨はどこに流れていくのか?この問いに正確に答えられる人は、大人でも多くないのではないかと思います。我々が住んでいる都市には、地下に上水道や下水道が敷設されていて、水源地から水を取水し、浄水場を経由して水道管で蛇口まで移送され、使用された水が下水管で下水処理場まで運ばれ、浄化されて川に放流される。放流された水は河口まで河川で運ばれ、海にたどり着く。そういうシステムが出来上がっているのですが、上下水道の大部分が道路の下に地下管路として存在しているため、その存在を知るのはマンホールや浄水場、下水処理場などの施設以外になかなか人目に触れることが無いため、大半の人はその存在を知ることなく暮らしているのです。こうした上下水道関係のインフラ施設や、河川の堤防などを整備するのも土木の重要な仕事です。

南大沢で降った雨は、どこに流れていくのでしょうか?そういわれても答えられる人はほとんどいないと思うので、答えを書くと、このようになります。
 1)降った雨は、まず雨どいから側溝を経由して、下水管(雨水管)に
   集められる。
 2)雨水管の水は、大きな雨水管に集められ、河川に放流される。
 3)南大沢駅近くの雨水管の水は、「大田川」に流される。
 4)大田川は、京王堀之内駅付近で「大栗川」に合流する。
 5)大栗川は、聖蹟桜ヶ丘駅付近で「乞田川」と合流し、その下流で
   「多摩川」に合流する。
 6)多摩川に合流した川の水は、ここから多摩川を約30km強流れ、
   東京湾にたどり着く。
距離にして約50kmの旅です。

ずいぶん前置きが長くなってしまいましたが、この流れを実感すべく、子供が小学生のころ(もう8年前になりますが・・)に、夏休みの自由研究の一環として、実際に歩いて橋や上下水道施設などをたどり、海まで歩く(数日に分けて)ということを行いました。半分お父さんの趣味に子供を付き合わせてしまった感も無くはないのですが、ある意味良い社会見学になったと思います。

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スタートは、1kmほど上流に寄り道して、都立小山内裏公園の「大田切池」です。ここは、もともと大田川の源流だったところを、下流で開発を行うためにせき止めて公園内に池を作り、洪水時の流量調節と生態系保存を兼ねた場所になっています。写真に見える小高い丘のようなところが、本当の「源流」で、ここは「尾根緑道」というジョギングや散歩が楽しめる場所となっており、この緑道が多摩川水系の大田川と、境川水系との「分水嶺」になっています。

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大田川は、池の下流にあるこの枡から、しばらく暗渠(雨水下水管線)としての旅をすることになります。

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しばらくは、南大沢の住宅街の中の遊歩道の地下を暗渠として流れます。

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大田川の最上流を示す標識です。

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南大沢駅の東側で、暗渠が地上に顔を出します。今はここからが「大田川」としての流れになります。

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大田川は、3kmほど下流の京王堀之内駅付近で、大栗川と合流します。合流部分は公園になっています。(左が大田川、南が大栗川)

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大栗川は、聖蹟桜ヶ丘駅付近を流れ、多摩川に合流します。

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大栗川0km。ここまで南大沢から約15kmの旅です。ここは、多摩川右岸の河川敷の交通公園などがある部分です。

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多摩川は、聖蹟桜ヶ丘駅付近は、「河口から35km」地点になります。多摩川には1kmごとにこのようなキロポストが設置されており、両岸にサイクリングロードが整備されているので、歩いて散策するのは非常に気持ち良いです。

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多摩川を歩いていると、上下水道の施設にたくさん出くわします。これは、北多摩一号水再生センターという下水処理施設の放流水路です。

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橋巡りも非常に楽しいです。これは調布市の京王相模原線の鉄橋。

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取水堰という施設も何か所か設置されています。農業用水に水を取水するために川を一部せき止めて分流させる施設です。こういう施設の近くでは、シラサギが堰を流れ落ちてくる魚を狙っており、それを眺めるのは楽しくて飽きないです。

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多摩川周辺は、都市化が早かったためか、年代物の水道管路施設などがみられます。これは「六郷水門」です。下がレンガ積みになっており、かなり年季の入った施設です。銘板には「昭和6年」との記載があります。

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昔の東海道に架かっていた、旧六郷橋のモニュメント。橋の架け替えで使われなくなったのですが、大切に残されています。

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羽田周辺まで来ると、河川の脇に漁港が見られます。羽田は古くからの漁師町として栄えたところです。堤防がレンガ積みで、その背後に船が停泊しています。

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羽田空港脇の穴守稲荷の鳥居。空港工事で移転させましたが、神社を移転させた際に、災厄が生じたということで、動かしてはいけない鳥居、ということで知られています。ここまでくれば、多摩川の最下流まであとわずか。

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この丸い印が、多摩川の下流から0kmポストになります。「建設省多摩川 0.0k」の文字があります。ここは、羽田空港国際線ターミナルビルのすぐ近くです。しずくはここで完全に海にたどり着くことになります。

こんなわけで、南大沢で降った雨は、このルートではるばる約50kmを旅して、羽田空港の脇の多摩川に流れ着くということです。河川の流域という考え方は、こうした体験をすると身をもって知ることができます。興味のある方は、自分が住んでいる場所から河口までたどって歩くのを実行されてみてはいかがでしょうか。その途中に新たな発見や癒しのスポットも必ずあるはずです。(この時は真夏だったので、照り付ける太陽との闘いだったのですが・・)



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