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あの蝉の前世、絶対人間や

秋に引っ越す。今住んでいるところから、少し遠くへ行くので、会いたい人に会うようにしている、今日この頃。約2年ぶりに大学時代の友だちに会った。久しぶりに会ったけど、そんな感じがしなくて、何となく懐かしかった。彼女は相変わらず。私も相変わらず。ときどき行動が似ているのも相変わらず。暑い中列に並び人気の洋食屋さんでランチして、デパートで買い物をして、商店街でアイスコーヒーを飲む。
このただの日常、ひとときが、もう当分来なくなると思うと、ようやく少し寂しさが出てきた。私は新生活のワクワクと不安しか想像できていなくて、自分のことばっかり考えていた。
大切なひとときは、一瞬にして過ぎ去る。なんでもない瞬間。だからこそ、写真を撮るぞ、撮るぞと心に決めていたのに、案の定、忘れていた。ランチで食べたオムライスだけは、フォルダにちゃっかり残っていて、まぁ、それも通常運転な気がした。

土曜日は天気が良かったから、私にしては珍しく布団を干したり、シーツを洗ったりしてずいぶん張り切っていた。暑すぎて10時には(ちょっと盛りました。実際は9時過ぎだったかも。)リビングをクーラーで冷やして快適な中でダラダラして。これぞ夏休みな空気感。ゴロゴロして、ウトウトして。満足。ふと、布団をぽんぽんしに行かねばと、思い出して立ち上がった。扉を開けるとそこには蒸し暑い廊下が待っていた。足が動かなくなりかけた。いかん、いかん。早く終わらせてまたゴロゴロするのだと心に決め、早足で階段を駆け登った。ベランダのカーテンを開けた。そして、布団を叩く棒(布団たたき?)を手に取り、いざ出陣した。
ぽんぽんを楽しんでいるとき、急にベランダに蝉がやってきた。勢いよくこっちに向かってきた。このままだと家の中に入ってしまう。急いで網戸を閉めたら、網戸に弾かれてなんとかガードできた。すると次の瞬間、空にキラキラっとしたものが輝いた。あれは一瞬の出来事だった。
オシッコをかけられたのだと、すぐに気付いた。
なんということだ。
家に入ってこようとして、阻止したらわざわざ洗濯物にオシッコをかけるなんて。あいつ〜。
滅多にしない人が布団を干した日に限って。
前世は人間だったに違いない。
私に何かちょっかいをかけたかったのだ。

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