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「私とHIV(3/4) ~HIV感染症との歩みをふりかえって~」

CHARM理事長 松浦基夫


●1996年 スマイル

JHCに参加していた陽性者の一人から、陽性者のための勉強会を作りたいので協力してほしいと依頼された。1996年10月に始まったこの会は「スマイル」と命名され、2ヵ月に1回程度、弁天町の貸し会議室で、各方面の専門家を呼んできてレクチャーをしていただいた。毎回10~15人が参加していたと記憶しているが、ほぼ毎回私も参加した。当時はまだネット環境は整っておらず、会の連絡は郵送に頼らざるを得なかった。主催されていた方は、参加者の名簿の管理・案内文の作成・郵送など、大変なご苦労があったものと想像される。特に参加者のプライバシーの保持は難しいものがあり、2年余りで解散せざるを得なくなった。

この頃に堺病院を受診した若い陽性者を、その会のメンバーに紹介して一緒に話をした時の、彼のほっとした顔が忘れられない。

●2000年-2002年 SWITCH

大阪のゲイコミュニティーの中でHIVに関する予防啓発活動をおこなっている「MASH大阪」が中心となり、行政・研究者との協働で「SWITCH 2000」と称するHIV検査イベントがおこなわれた。プライバシーが守られる環境の中で安心して検査を受けられる態勢を整え、5月の連休の3日間で245名が受検した。採血した検体は大阪府立公衆衛生研究所(現大阪健康安全基盤研究所)に運び、スクリーニング検査をPA法で行い、陽性ならばWB法で確認検査をして採血の翌日には最終結果をお知らせするものであり、検査を通じて予防介入すること、相談・支援を組み入れた検査イベントであることが特徴である。このSWITCHは2000-2002年の3年間おこなわれ、計800名近くが検査を受けた。

私は3年間を通じてこのイベントに参加し、HIV検査の「結果お知らせ」を担当した。HIV陽性の結果を本人に伝えることは難しいが、HIV陰性者に対してHIVに対する偏見やスティグマを植え付けることなく陰性の結果を伝えることも難しいことを痛感した。

●2002年-2009年 土曜常設HIV検査・相談事業

2000年前後に関西のエイズ診療拠点病院に複数の外国籍AIDS患者が運び込まれる事態が起こった。いずれも医療保険が無く、AIDSを発症して初めてHIV感染を知った人たちであった。医療と福祉のアクセスから外れている外国籍のHIV陽性の人のニーズに対応する必要を感じた医療従事者やカウンセラーが中心となって、CHARMは設立された。

SWITCH 2000-2002の取り組み中で、大阪のゲイコミュニティーにおけるHIV検査・相談事業の必要性が確認され、「土曜常設HIV検査・相談事業」に引き継がれた。CHARM が大阪府・市よりの委託を受けておこなった事業である。CHARM設立直後に「毎週土曜日、堂山で常設のHIV検査をおこなうことになったので手伝ってほしい」と依頼され、2009年9月までの7年間、毎週土曜日の検査・相談事業に月1回のペースで参加した。「結果お知らせ」を担当したが、参加しているスタッフにHIV/AIDSの基礎知識をレクチャーすることも役割の一つとなった。

7年間で13,953人が受検、13,525人(96.9%)が結果を受け取り、HIV陽性は119人(陽性率0.85%)で、陽性結果を受け取ったのは115人、紹介した医療機関からの受診回答は87件(76%)であった。12,360人(89%)から有効なアンケート回答が得られ、その結果からは受検者の18%がMSM*であった。全国の保健所・保健センターにおけるHIV検査の陽性率が0.2%台であったことに比べると、0.85%という陽性率は高く、HIV感染のリスクの高い状態に置かれた人が受検しやすい環境を整えることができた結果と考えられる。この7年間に、医師24名・保健師25名・看護師14名・カウンセラー7名・その他38名(計108名)が、それぞれの研修を受けた上で検査相談事業にかかわった。

2006年に結果説明用資材として「両面パンフレット」を作成した。A4サイズで、一方の面にはHIV陽性の人へ「最初にこれだけは伝えたい」というメッセージを記載、もう一方の面にはHIV陰性の人に対するメッセージを記載したものである。HIV陰性の人が陽性者へのメッセージを目にすることにより、客観的にHIV陽性の意味を理解してもらえるように工夫した。このパンフレットは大阪府・大阪市をはじめとして多くの自治体で採用され、後にエイズ予防財団で7言語に翻訳されて全国の保健所・拠点病院に配布された。今なお、CHARMの財産といえる。

*MSM : men who have sex with men, 男性と性交渉をする男性

●2009年-2020年 ひよっこクラブ

CHARMの実施するプログラムの一つで、陽性者支援の一環としてHIV陽性とわかって間もない人のための少人数制のグループミーティングである。同じ立場の人同士が集い話をすることでこれからの生活のより良いスタートにつなげていくことを目的としている。進行役はスタッフサポーター1名・ピアサポーター (HIV陽性者) 1名に加えて、医療情報セッションで医師1名が参加する。このプログラムは年に3~4回おこなわれ、各回2~6名が参加した。私は医療情報セッションで「メディカルスタッフ」としてHIVに関する情報をレクチャーする役割を担当した。参加しているHIV陽性者たちは、診察室の中では聞きにくい質問を繰り出してくるので、陽性者がどのようなことに悩み、どのようなことを疑問に思っているのかを学ぶことができ、私にとって貴重な経験となった。

※注:個人の所属、肩書きは当時のものです。

(次号に続く)

※2023年11月発行「Charming Times No.24」の「CHARM設立20周年「私とHIV」」より抜粋
https://www.charmjapan.com/charmingtimes/charming-times-no-24/