見出し画像

❇ 彗星 制作時のアレコレ 片耳イヤーカフ&イヤリング

彗星をイメージした、イヤーカフとイヤリングを使い片耳を飾る作品です。
イヤーカフとイヤリングはチェーンで繋がっていて、左右どちらの耳にも着けられるようになっています。
※MINNE の掲載はこちら

●ただの星とは違う「彗星」ならではのインパクト

こちらは、彗星をテーマとした作品を作ってみよう、という所から制作をスタートしました。作品を作る時は、テーマイメージから思い付く物もあればアクセサリーの形から先に決まる時もあるのですが、今回はアクセサリーの形から思い描きました。

テーマである彗星についてまずイメージをふくらませたのですが、「箒星」の別名の通り、1番のポイントは長い尾だと最初に考えました。
美しく長い尾をどう表現するかと、ピアスやイヤリング、バレッタ、ヘアカフ等の作れるアクセサリーに当てはめて考えた時、垂れ下がる形の尾にするなら耳飾りが適しているだろうと思いました。

そこで最初はピアスを作るかと考えたのですが「しかし彗星と言えば流れ星とかとは何というかインパクトが違うのでは…?」という壁に当たりました。
ただの星ではなく、テーマは彗星。私の中で彗星と言えば真っ先に「ハレー彗星」を思い出し、続けて彗星にまつわる様々な不吉の予兆を思い起こします。これは、いつの事かはすっかり忘れてしまいましたが学校教材にもなったというドラえもんの「空気がなくなる日」という話を見た記憶が残っているからだと思います。
ひと目見た瞬間にハッとするような、思わず2度見してしまうような、そんなインパクトがほしい。そうでなければ彗星とは言えない。
さて、ただのピアスで果たしてそんなある意味“深刻”な印象を与えられるのか…?また、ファッションとして考えた時、それほどに印象的なデザインを両耳に着けるだろうか?

このような考えから、イヤーカフとイヤリングを合わせ片耳を大きく飾るデザインにチャレンジする事にしました。


●宇宙に潜む「神秘」を示す色

イヤーカフ&イヤリングに決めた時点で、彗星の箒部分はチェーンタッセルにしようと決めました。チェーンタッセルの優雅で美しい印象は、繊細さを含む星の美しさを表すのにピッタリだと思ったのです。

下半分が決まれば後は箒より上の部分、言わば“頭”をどうするか、となりました。印象的で美しい彗星をイメージする“頭”とは…?
ここで彗星からふくらませたイメージで2番目に来る「色」も表す必要がありました。
青に、赤に、黄に緑に…。私は様々な色調を含む複雑な色合いこそが宇宙的な、神秘的な美しさだと思っています。あれは流れ星でしたが、ジブリの「ハウルの動く城」に描かれるカルシファーや、またこちらはもはや星と関連しませんが新海誠監督の「天気の子」の蠢く(笑)水滴などのイメージです。調和した多色の美しさですね。
色彩を踏まえ、頭とするイヤーカフには大きめのスワロフスキーをあしらう事に決めました。彗星の主とする色合いは青というイメージから表面加工されたブルー系を見比べて、ライトサファイアシマーを選びました。

上はスワロフスキー、下はチェーンタッセルという大まかな基本形の方針はこれで決まりました。
しかしまだまだ道半ば。より詳細なデザインを決めなければなりません。具体的には「どのサイズを、いくつ、どの位置に配置するのか」というのが次の課題でした。


●デザインの「数」に秘める意味

これはある意味ハンドメイドアクセサリーの醍醐味だと考えていますが、同じ素材を使っても、サイズや配置が異なれば全く違う印象のアクセサリーが作れます。
例えば今回の作品なら、3ミリのスワロフスキーを1粒と糸のように細いチェーンを2、3本束ねたタッセルを使ったとしたら、夏の夜空に幽き(かそけき)光で瞬くセンチメンタルな星のイメージにはなっても、とてものこと、ともすれば人類に滅びをもたらす凶悪な彗星はイメージできないでしょう。

さてここまでの検討で、私の描く彗星を示すキーワードは「衝撃的」で「神秘的」である事が読み取れます。
衝撃的で神秘的なイメージを、大きさや数や配置で表すならどうするか?
「衝撃的」は簡単でした。インパクトがあるというなら大きく・数多く、だろうという方針になりました。
しかし「神秘的」を表現する手段はあるのか…?

ここで思い至ったのが「数秘術」「エンジェルナンバー」といった、数そのものに意味を持たせた考え方です。
これらの思想は解釈の違いが多々ありますが、時代や洋の東西を超えて共通するイメージもあります(なおこれは数に限らず、色についても同じ事が言えます)。
神秘にまつわる数は、特に3と7。
これは、例えばキリスト教における三位一体や、神霊に通じる三角形。また七不思議やラッキー7といった物を考えていただくとナルホドと思われるでしょう(多分きっと)。

これらを踏まえまして、大きな8ミリのスワロフスキーを3つ使い、幅広で特徴のあるチェーンを7cmずつ7本まとめたタッセルにしようと決めました。


●挑戦的で「使える」アクセサリーで在ること

片耳を大きく飾るデザインにすると決めた時、イヤーカフ&イヤリングの他にも候補がありました。
例えばイヤーカフやイヤリングの土台に透かしの座金を複数繋げて大きな台を作ったり、ワイヤーワークで台を作ったり。またイヤーフックにする事も出来たでしょう。

では何故、イヤーカフ&イヤリングを選択したのか?
1つ目の理由は、まだチャレンジした事の無いデザインを作りたかったからです。
私は、もちろん職人的な技術力もとても素晴らしいと思っていますが、それよりも「新しい発想」に心惹かれます。これはちょっと言葉で説明し辛いのですが、そもそもの人として社会の中で生きるに当たり根本的な事として、多様で多角的・多視的である事をとても重視している為だと思います。新しい発想・着想を得るには、仮定(発想)の上に仮定を積み重ねるより、仮定を検証・実証した上で仮定を立てる方が私は効率良く考えられます。
なので大体、私が作品を作る時はどこかしらに新しい挑戦が含まれます。今回はそれがイヤーカフとイヤリングを組み合わせる事でした。

2つ目の理由は、より「使える」デザインにする為でした。
耳飾りに限らず、アクセサリーはデザインによっては右側しか使えない、上下が決まっているなどといった制限が生まれるものです。先に挙げた他の候補で言えば、留め具に固定した台座にタッセルを付けて下げるとしたら、左右どちらか専用となったでしょう。
ですがそういった制限は無い方がやはり使いやすいものですよね。道具は「使える」事に価値があると考えています。アクセサリーもまた、様々な意図で身を飾るために使われる道具です。中にはごく限定的な目的の為に最適化する物品もありますが、そのような場合は言ってしまえばオーダーメイドに当たるのですから、詳細な条件を想定しなければ目的に沿わない意味のない物となってしまいます。
彗星をイメージしたデザインで、左右いずれの耳でも、誰でも使えるデザインを…と考えた結果、イヤーカフとイヤリングをチェーンで繋ぐというデザインに至りました。


●イメージを伝える、最後の「ストーリー」

スワロフスキーや手持ちの座金、チェーン、その他のビーズetc. を引っ張り出して、見比べては細かな箇所や使い勝手を再検討する工程を繰り返し、最終的に今回の作品の形に作り上げました。
さてここで、作品が先に出来たので後追いでテーマイメージとなるショートストーリーを考える事になりました。
もちろんストーリーが無くても本来は構わないのですが…上に挙げたようなアレコレを作品紹介に書くよりも、案外ストーリーにしてしまう方がより心にイメージを訴えられるので、ストーリーを書いています。

ストーリーもその時々で、書き方というか思い付く順というか、仕上げる方法が変わります。
今回は冒頭の「走れ走れ、ほうき星」と「7つの色御羽」がふと浮かびました。1句目は迫りくる彗星のイメージと特徴的な別名から、2句目はデザインの試行錯誤の経緯からきっと浮かんだのでしょう。
後はこれに凶兆であった歴史的な背景や、私の中の「神秘」といったキーワードを入れようと考えました。そこから推敲を重ねる内に思い付いたのは、彗星を「あなた」と擬人化した書き方にする事と、冒頭句を繰り返す事の2点でした。

彗星を“あなた”と書いたのは、中段に書いた神秘的で魅力的だという文言を、ストーリーを読んでいる本人に宛てたかのような印象にしてみようと思い立ったからです。このアクセサリーを身に着けた“あなた”はきっと人目を惹く。“あなた”はとても美しく魅力的ですよ、というメッセージに仕立てました。

冒頭句を繰り返したのは、思い付いた句の語呂が良すぎたのか、頭から全く離れてくれなかったからです。頭の中で冒頭句がリフレインする、他の文言が出てこない…ええぃ、ならばもう1度書いてしまえ!という事情でした。あれは中々に困った…。多分、冒頭句を書いた時にウッカリかの有名な「走れメロス」も思い出しちゃったせいで離れがたくなっちゃったのでしょうね(笑)。

※ストーリーはこちら→
❇ 彗星 〜天空の来訪者 Queue de Comète (クゥ デ コメット)〜 ❇
https://note.com/charmant_chambre/n/n05605bd53816


●あとがき

以上がこの作品制作における四方山話でした。
制作過程の思考を言葉に書き出したのはこれが初めてだったので、予想以上に長々書いてしまい自分でも驚きです。後、書き上げるのに優に半月位掛かってる事も驚きです。
意外な苦行ではありましたが書く事で思い出す事もあり、楽しくもありました。この長文に挫けずここまで読んでくださった方が居たら、この記事を楽しんでくれた方が居たら、この上ない幸いです。
もし皆様に楽しんでいただけたのなら、また違う作品のアレコレも書いてみたいと思います。

御拝読に感謝。
(Charmant Chambre シャルマン・シャンブル 担当:ひゆみ 著)