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一瞬の記憶のよみがえり 義母を訪問して

日本の実家から韓国に戻ると、決まって義母は聞いた。
「お母さまお父さまはお元気だね?」
「はい」
私の返答を聞いて、
「それは良かった」
と義母は嬉しそうに言う。
日本から帰った後で会うと、必ずそのやり取りがあった。
時にはそれに、
「弟は一緒に住んでいるの?」
「いいえ、東京にいます」
「仕事してるの?」
「はい」
「結婚してるの?」
「いいえ」
といった会話が付け加わることもあった。

去年のお盆休みに、夫の2番目の姉と住む義母を訪ねた。
義母はソファーの横で布団にくるまって眠っていた。義姉によると、
「昼も夜も、眠っている時間が長い」
とのことだった。
「せっかくあんたたちが来たんだから、起こそう」
義姉は、
「オンマ!オンマ!」
と大きな声を掛けた。何度も呼ばれてゆっくり目を覚まし、起き上がったが、取りたてて反応がない。今は周囲の人の顔もわからなくなっていると聞いた。だが、夫や息子の名前には反応し、また、私のことを、
「これ誰かわかる?嫁の○○だよ。日本人の」
と言われると、うなずいていた。
私は義母の表情を凝視せざるを得なかった。今、本当に思い出してくれているのだろうか。それともただ適当に返事しているだけ?
「日本に行ったこと、覚えてる?」
と義姉。義母は「うん」と言い、また「すごく広くてきれいな公園があった」とも言った。
確かに、当時存命だった義父と義母を車で市内の公園に案内していた。義父は大感激するほどそこを気に入り、翌日もまた行った。
義母は本当に思い出しているのだろうか?そして義母は、
「お母さまとお父さまはお元気だね?」
と私に聞いた。
「はい」
「それは良かった」
何年も前にあったやりとりが、そっくり繰り返された。突然窓が開いて、以前の義母が顔をのぞかせた、そんな風にしか思えなかった。
部屋の壁には、昔の写真がいっぱいに貼られていた。義姉が義母のために貼ったのだった。中年時代の義父と義母、若い義姉たちの姿もあった。だが圧倒的に多かったのは、私があげたうちの子供たちの写真だった。
子供たちが小さかった頃、写真をプリントするたびに義母にも孫の写真をお裾分けしたが、それらが数多く貼られていた。
子供たちの写真は別に書類ケースにもまとめられていて、義姉は「これは持って行って」と渡してくれた。今それはうちの本棚にある。

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