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⑭結婚式の会場で強情っぷりを発揮

記憶にあるのが、随分前の親類の結婚式である。親戚が集まり、義母も薄紫のジャケットに長いフレアスカートのかしこまった服装で参加した。私達も夫婦と子供2人で行った。
式の後、食事は他の結婚式やドルチャンチ(1歳の祝いの会)の団体と同じ食堂でとる。私達家族は4人がけのテーブルの一つに座った。職員に「テーブルは順番に、端から詰めて座ってください」と指示された。広くない会場にテーブルをぎっしりと列べてあるので、効率的に客席を回転させるためだろう。
他の親戚と話し込んでいて後からやってきた義母は、隣のテーブルの椅子を持ってきて私達と一緒に座った。すると職員がすかさず制止した。
「端から詰めて空いているテーブルに座ってください」
「子供がお祖母ちゃんと一緒に座りたがってるから」
義母はそう言ってみたが、狭い通路を塞いで座られると困るのは明らかで、職員は否応なしに椅子を片付けてしまった。
さすがの義母も空いているテーブルに他の親戚と座るだろうと思ったのだが、さにあらず。少し離れた所にただ立っている。親戚に「こっちに座りましょう」と声をかけられても、ごにょごにょと何かを言って動こうとしない。
何を目論んでいたのかは数分後に分かった。
「まあ、そう。お祖母ちゃんと座りたいのね」
突然こう大声で言うと、再び椅子を持ってきて私達のテーブルに座ろうとしたのである。職員が飛んできて、椅子は片付けられ、「端から詰めて···」と同じ台詞が繰り返される。
再び退いた義母は、さっきと同じ場所に立つ。ぼんやりとした表情に見えるが、そうではなかった。いつ決行しようかと機を伺っていたのだ。
「まあ、そう。お祖母ちゃんと座りたいのね」
再び、そっくり同じ事が繰り返される。義母が座り、職員がやってきて椅子を片付ける。
「でも、子供がお祖母ちゃんと座りたいって言ってるから」と食い下がる義母だが、夫は「子供は何も言ってないけど?」と笑う。
「さっき言ったじゃないか!」
「そんな事一言も言ってないよ、ずっと」
孫がかわいいのは分かるが、日常的に会っているというのに、同じテーブルに座ることにそれ程執着する理由がわからない。このかわいい子は自分の孫だ、と周囲に誇示したいのだろうか。
私は邪魔にならない所に何とかもう一つ椅子を押し込んで義母の席を作ろうとしたが、夫に止められた。もうそろそろ食べ終わる、さっさと席を立とう、と。
私達が立ち上がった時、義母は既に親戚達と離れたテーブルについていた。
見え透いた芝居を繰り返す義母のことが恥ずかしくもあり、久しぶりに会った親戚に背を向けて孫と座ることに必死になる事が不可解でもあり、子供をダシにすれば何でも通ると思っているらしい思考や、自分を曲げない強情さなど、考えたくないのにどうしても考えてしまうのだった。


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