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2023秋 信州旅行記(その2)

 卒業以来会っていなかった大学時代の友人に会いに、同じく大学時代の友人である在京の2名と信州を訪ねた、1泊2日の旅行記の2回目。松本市から、同市旧安曇村の乗鞍高原へ向かう。

1日目(2023.10.7土)のつづき

夜、西へ

 駐車場に着いた頃には、もうほぼ日は落ちており、かろうじて空には青みが残っていた。再びH氏の運転により、車は西へ向かい始めたが、イオンモール松本周辺の渋滞でなかなか市街を抜けられない。気が付けばもう真っ暗である。

 その間、大学時代につるんでいた連中の近況について情報交換。まあ、卒業から数年もたっていればいろいろあるものである。

 国道158号から県道84号へ入るといよいよ山道。片側1車線の舗装された道ではあるが、つづら折りである。無免許の私は後部座席にのほほんと乗っているだけだが、ほとんどペーパードライバーのA氏、K氏には手に負えない道らしいゆえ、H氏が「うまくはないよ」と謙遜しつつ急カーブを乗りこなしていく様に、2人はいたく感動している様子だった。

 車窓から夜を望めば星空である。元々、乗鞍に宿を取ったのもA氏の、星が見たいという意向からだった。彼女は何度も窓を開けていた。

 私も何度か外を見遣ったが、H氏の運転がいくらうまくても、つづら折りでの無理な体勢では車酔いしかねず、宿に着いてからゆっくり見ようと諦めた。しかし、のちに宿に着く頃には、空は雲に覆われてしまって惜しかった。

宿で夕食

 予定より少し遅れて宿にチェックインした。乗鞍岳東麓・千石平のペンション「ガストホフ千石」である。チェックインしてすぐ、夕食を頂くことになった。

 チキンソテーとイワナの塩焼きをメインに、小鉢もたくさん振る舞われた。写真には撮りそびれたが、この後肉じゃがも運ばれてきた。お酒も頼めたようだが、入浴を控えていることもあり、ここは遠慮することにした。

 独身・独り暮らしの身には、人と話すために酒があり、酒のためにつまみがあり、という場ばかりになってしまう。アルコールなしで、おいしいものを食べていると、自然と会話も食事そのものに関する話になったりする。

 食事がただ食事として、その魅力を湛え、その魅力に一同感じ入る。そういうことに感動する歳になったということなのだろう。

熱い硫黄泉に満足

 食べ終えて、それぞれ入浴したらまた集まろうと決めた。K氏と私の男性陣は部屋に戻り、タオルと着替えなどを手にしてすぐ風呂へ向かった。

 風呂は内湯と露天の2つあり、まず内湯へ行くと脱衣場の時点でもう硫黄のにおいがしている。脱衣場は冷えた。思えば道中、路肩の気温表示は6℃となっていたのだった。宿のフロントそばの談話スペースは、もう薪ストーブが炊かれている。秋の高地はもう寒いのである。

 浴場にはシャワーが2つ。浴槽も、2名でちょうどよい大きさである。先に体を洗い終えたK氏は、風呂に入るなり熱い熱いと言っていた。硫黄泉のにごり湯は確かに熱かったが、私にはむしろこのくらいがちょうどよかった。

 10分程度入ったところで、露天に行ってみることにする。露天はペンションの玄関を出て坂を下った先の離れにある。だから一度体を拭いて浴衣を着て向かうことになる。水を吸ったタオルはたちまち冷たくなった。

 露天湯は2つ、熱めの湯とぬるめの湯があって、札を玄関で受け取り、使用中はそれぞれの浴場入口に札を掛けて借り切り状態にする仕組みだ。すでに熱めのほうは札が取られており、空きのぬるめの方へ入った。やはりここも2名入れば限界の大きさで、私にはやはり湯をかきまぜてもぬるかった。

 もう一度内湯に行こうかとも思ったが、いざ母屋に戻ってみると、思った以上に体は温まっていることに気が付き、再入浴はやめた。脱いだ服を一度部屋に戻して、髪を乾かすべく、ドライヤーが置いてある内湯脱衣場前の鏡台へ向かうと、女性陣のA氏、H氏もすでに浴後で、椅子に座って休んでいた。

サークル時代の作品を眺める

 22時を回り、男性陣の部屋に4人で集まって小宴会となった。

 私は一つ、どうしてもこの日のためにと旅館に持ち込んでいたものがあった。4人が所属した大学時代のサークルは、文章を書くことがその活動の一つにあった。そのときの刊行物である。

 在籍期間の後半、私は自分で書くよりも、人に書いてもらったり、書いてもらった文章を編集したりすることに軸足を置いていた。そうした編集担当としての自分にとって最高の出来だった作品こそ、私がテーマを提案し、H氏に書いてもらった、野球に関する文章だった。

 彼女はプロ野球はもちろん、高校、学生、社会人野球にも詳しく、その知識の幅広さは野球ファンの先輩も舌を巻く。一方の私は、基本的なルールですら大学に入ってやっと理解した程度の人間であるが、文章一般の編集についてはそれなりに持論を持ち、サークルで実践を重ねてきた自負もあった。

 お願いしたテーマや切り口自体は、そう目新しいものではない。プロの媒体なら普通にやっていることではある。しかし野球に関する豊かな識見がなければ書くことはできず、そこいらの学生が多少何試合か見ただけで書けるようなものではない。サークル引退が近づくなか、この好機を逃すまいと、お互いに事実上の引退制作として携わった印象深い作品である。

 実はこの旅行自体も、私とA氏との間でこの作品について話題になり、それならとA氏が発起してH氏に連絡を取ってくれたことから始まった企画である。

 6年越しに、改めて作品を読み合い、H氏と私とで作品を一緒に持って記念写真に収まった。感激した。

『SPY×FAMILY』初回

 宿のテレビをつけると、テレビ信州(日本テレビ系)が日テレの開局70周年特番「THE MYSTERY DAY」を放送していた。みな、話に花を咲かせつつ、横目でテレビを見ていた。笑福亭鶴瓶がちらちら出てくるが、その存在感がすごいので、映るたびに「鶴瓶!」と発声していたら、一同に呆れられた。

 K氏は『SPY×FAMILY』の猛烈なファンだ。この日はテレビアニメのシーズン2初回がテレビ東京系列で放送されることになっていた。

 長野県にはテレ東系列の局がない。リアルタイム視聴は無理だろうと思っていたら、宿のテレビはテレ東が映った。おそらくケーブルテレビの再送信だろう。

 23時になりテレ東へ切り替え、一同鑑賞。オタク陣の盛り上がりを横目に、非オタクの私は酒が進み、もはや眠気が来ている。アニメ終了後まもなく解散となった。A氏、H氏は女性陣の部屋に戻り、男性陣はすぐに消灯した。

(つづく)


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