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二級ウイスキーがなくなって、一升瓶ウイスキーもなくなった。《一升瓶ウイスキー⑦最終章》
■前回までのおさらい
◇昭和の地ウイスキー=一升瓶ウイスキー 誕生と終焉まで
① 1973年をピークに日本酒が売れなくなってしまったから、日本酒の酒蔵が当時絶好調だったウイスキーの製造に参入した。
② 既存の一升瓶のボトリング設備を活用したので、「一升瓶入ったウイスキー」という特殊な形態のウイスキーが誕生した。
③ 一升瓶ウイスキーのスペックはそのほとんどが、少量のウイスキー原酒と、多くのスピリッツをブレンドした二級ウイスキーだった。
④ 一升瓶ウイスキーの基本戦略は、低税率の二級ウイスキーによる『低価格戦略』だった。
⑤ 1983年をピークにウイスキーブームが去ってしまった上、1989年に二級ウイスキーというカテゴリーがなくなってしまい、ほとんどの酒蔵は一升瓶ウイスキーの製造から撤退した。
この1989年の「二級ウイスキー」がなくなったという点について、今回、深掘りしてみたいと思います。
■ウイスキーの等級制度がなくなった。
前回記事からの引用です。
◇ウイスキーの等級制度(特級・一級・二級)
《特級ウイスキー》
酒税が高い = 販売価格も高い
《二級ウイスキー》
酒税が安い = 販売価格も安い
※「従課税」という考え方
《英国首相サッチャーさん側の意見》
日本のウイスキーの税率って、おかしくない?
うちらのスコッチ・ウイスキーは、スピリッツを入れたりすることないから、日本へ輸出したら、全部、特級ウイスキーなんですけど!
庶民の安いスコッチから、プレミアム・スコッチまで、ぜーんぶが特級ウイスキー扱いで、高い関税を掛けられたら、そりゃ売れませんよ。(※1)
そもそもウイスキーに等級制度とか日本しかやってないし、その変な等級制度とかいうの、やめなさいよー!! 怒
※1 日本国内のスピリッツ市場占有率
《1987年》
輸入ウイスキー 3.3%
国産ウイスキー 26.7%
焼酎 63.8%
ステファン・ヴァン・エイケン(小学館)
サッチャーさんは
一級・二級ウイスキーと、焼酎の税率が異常に低いから、特級ウイスキーにカテゴライズされるスコッチウイスキーが売れない!
と主張したのです。
そして、その主張は通ります。
■1989年・酒税法改正後の大まかな流れ
◇税金が下がった
・特級ウイスキー
(国産も輸入も=スコッチ・ウイスキーも)
・ビール
・日本酒
◇税金が上がった
・二級ウイスキー
(一升瓶ウイスキーを含む)
・焼酎
・リキュール
焼酎業界はこの頃、ウイスキーに人気を取られダウントレンドだった上に増税されたのです。
この時、焼酎業界は「ダウントレンド&増税」のダブルパンチでした。たまったものではありません!
この増税を『サッチャー増税』と称して、恨み節を言ったそうです。
■サッチャー増税によって
ほとんどの一升瓶ウイスキーが属していた二級ウイスキーはその等級制度がなくなるとともに、大幅な増税となりました。
二級ウイウキーの増税幅は、従来の3倍以上
ステファン・ヴァン・エイケン(小学館)
◇一升瓶ウイスキーの西の雄「西のマルス」
マルス 2級 ブレンデッド・ウイスキー
一升瓶(1.8リットル)
《希望小売価格》
1,630円 → 3,200円
ステファン・ヴァン・エイケン(小学館)
一方で、サントリーやニッカのつくる国産の特級ウイスキー、サッチャーさんが売り込んできた輸入の特級スコッチ・ウイスキーが減税となりました。
そりゃ消費者は、ほぼ2倍の希望小売価格になってしまった旧・二級ウイスキー(一升瓶ウイスキーを含む)を飲む理由がなくなりますよね。
このサッチャー増税によって、一升瓶ウイスキーをつくっていた日本酒の酒蔵は、ウイスキー市場で戦っていくことは難しくなり、そのほとんどが撤退してしまいました。
そのため、現在では、この「昭和の地ウイスキー=一升瓶ウイスキー」は、ほとんど見かけることが無いのです。
■思い通りにはいかなかったサッチャー増税
◇鉄の女・サッチャー首相の心の声
日本のヘンテコな一級ウイスキーとか二級ウイスキーとかいうのはなくなったし、同じスピリッツ商品の焼酎も増税にしてやったから、スコッチ・ウイスキーも、日本でガッツリ売れるはずだわ!!
しかし、「そうは問屋が卸さない」のが歴史の面白いところです。
酒税法が改正になった1989年の日本のウイスキー市場は、1983年をピークとした長いダウントレンドに陥っていました。
一方で、「ウイスキーに押されまくり」&「サッチャー増税」のダブルパンチをくらったはずの焼酎業界が息を吹き返します。
新しいタイプの焼酎「宝焼酎 純」であったり、甲類焼酎をベースとしたサワーが、ウイスキーに変わって台頭してきたのです!!
◾️スピリッツ内のシェアアップでも苦戦
ただ、ウイスキーブームが去って焼酎に押され、ウイスキー全体が苦戦しているとしても、元々シェアが低いスコッチウイスキーが、スピリッツカテゴリー内でシェアを拡大することで、売上を上げる余地はあったと思います。
しかし、大変苦戦しました。
実際にスコッチウイスキーは、減税になった1989年から4~5年は一時的に日本国内でのシェアを上げますが、その後はほぼ元通りで、大した成果は残せませんでした。
◇日本国内のスピリッツ市場占有率
1987年/1989年/1990年/1994年
《輸入ウイスキー》
3.3% / 5.8% / 6.0% / 3.8%
《国産ウイスキー》
26.7% / 23.4% / 19.6% / 13.4%
《焼酎》
63.8% / 61.2% / 63.1% / 74.5%
ステファン・ヴァン・エイケン(小学館)
それは、焼酎が伸びただけでなく、税金が安く&売値も安くなったことで、スコッチの『高級品のイメージ』が崩れてしまったことも一因と言われています。
例えば、「フェラーリがレクサスの価格まで、値段が下がれば売上台数は増えるの?」みたいなお話です。
高級品(嗜好品)は、その価格によりブランドイメージが守られている部分があります。
高級スコッチウイスキーは、その価格の低下により、定期的な売上を確保できていた「お中元・お歳暮」などの『贈答用』の需要を失ってしまいました。
このようにサッチャー増税は、一升瓶ウイスキーを追い詰める効果はありましたが、スコッチウイスキーの売上を上げる効果は薄かったのでした。。
■こうして
「昭和の地ウイスキー=一升瓶ウイスキー」は、ウイスキーのダウントレントという大きな流れの中で、サッチャー増税=二級ウイスキーが消滅するという急激な変化がダメ押しとなり、ほぼ姿を消すこととなったのです。
以上で、一升瓶ウイスキーのご紹介を終了します。
7話に渡ってのお付き合い、ありがとうございました!
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