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酒税法上の「日本国産ウイスキー」と産地規定《JW定義④:最終回》

■前回までのまとめ

・日本ではウイスキーの法的定義は、酒税法の中で言及されているウイスキーの定義しかない。そのため、他の「5大ウイスキーの定義」と比較した場合、明らかに規定が不足している部分がある。

・世界のウイスキーの定義は、スコッチウイスキーの定義がベースとなっている。

・スコッチウイスキーの定義は、主に
 「ウイスキー足り得るための規定」
 「スコッチ足り得るための規定」

の2つの視点に分類することができる。

・日本の酒税法上のウイスキーの定義は、スコッチ法規定の「ウイスキー足り得るための規定」と比較した場合、2つの問題点がある。
 《問題点①》木樽熟成の規定がない。
 《問題点②》スピリッツの混和が可能。

今回は、日本の酒税法上のウイスキーの定義を、「スコッチ法規定のスコッチ足り得るための規定(産地規定)」と比較してみたいと思います!


■問題点③(産地規定に関して)

ずばり答えからです。
日本の酒税法上のウイスキーの定義には、

《問題③》「産地の規定」がない

という問題点があります。

そもそも酒税法では、「日本国産ウイスキー」という文言(フレーズ)を定義しているわけではありません。

日本の酒税法では、

こういうお酒を「ウイスキー」として、
税金(酒税)を取りますよ!

という課税の対象を書いているだけです。
産地についての記載はありません。

だって酒税法は、主目的は「このお酒に課税しますよ!」という法律なので、ブランディングの観点(産地発想)がないというのは、そりゃそうだというお話です。


■他の5大ウイスキーの法定義

一方で、5大ウイスキーの日本以外の4ケ国のウイスキーの法定義には、明確な『産地規定』があります。

なぜなら、各国はウイスキーではなく、
・スコッチウイスキー
・アイリッシュウイスキー
・アメリカンウイスキー(≒バーボンウイスキー)
・カナディアンウイスキー

を、法律によって規定しているからです。

繰り返しますが、日本には法律によって、「日本国においてウイスキーとして課税するお酒(=日本国産ウイスキー)」については規定していますが、法律上の「ジャパニーズウイスキー」の定義はありません。

近年、日本のウイスキーが世界的に人気となると、「ジャパニーズウイスキー」の定義がないだけに、各メーカーが自己解釈「うちのジャパニーズウイスキーをどうぞ!」と世界へアピールして輸出するようになりました。

そこで、問題が発生しました。


■「産地規制がない」ことに起因する問題

日本の酒税法で認められた「ウイスキー」を、
日本で製品化して、
「ジャパニーズウイスキー」として
海外へ輸出する。

文言だけ見れば、問題はなさそうです。

ただ、こんな事例が発生します。

輸入したスコッチウイスキー原酒のみを使って、
日本でブレンド・瓶詰めして、
「ジャパニーズウイスキー」として
海外へ輸出する。

でも、それを「ジャパニーズウイスキー」と言ってしまうのは、ちょっとモラルが・・・というお話なのですが、法律違反ではありません。

なんなら「ジャパニーズウイスキーとして海外へ輸出して販売する」に留まらず、「ジャパニーズウイスキーとしてコンクールに出品しちゃった」なんて事例もあるようです。


■ジャパニーズウイスキーの定義がなかったから・・・

日本には、トラディショナルなスピリッツとして焼酎があります。

スコッチウイスキーの法規定では、麦芽(=麦芽由来の糖化酵素)の使用が必須となっています。

しかし、日本の酒税法上のウイスキーには、「麦芽の糖化酵素」を使用しなければならない規定はありません。
(そして実はアメリカも同様で、ウイスキーの法規定で麦芽由来の糖化酵素の使用が規定されていません。)

今度は、こんな事例が発生します。

木樽熟成をさせた麦焼酎※を、
「ジャパニーズウイスキー」として
アメリカへ輸出する。

※麦焼酎は、糖化酵素として、「麦芽」ではなく「麹」を使います。
(この麹によるお酒づくりはアジア圏の特徴でもあり、独特の吟醸香などが感じられます。)

これも、それを「ジャパニーズウイスキー」と言ってしまうのは、ちょっとモラルが・・・というお話なのですが、法律違反ではありません。


■そしてジャパニーズウイスキーの定義が誕生

この「ジャパニーズウイスキー」というフレーズについて、統一見解がなく、それぞれのメーカーが勝手に

「うちの商品はジャパニーズウイスキー!」

と言っているのはマズいということで、日本洋酒酒造組合がジャパニーズウイスキーの定義を策定し、2021年に発表しました。

下記の日本洋酒酒造組合HPから一部を抜粋

自主基準|日本洋酒酒造組合(公式ホームページ) (yoshu.or.jp)

おおよそ、スコッチの定義に沿ったものですが、

・水の採水地規制がある
・ブランド命名についての規定がある

など、スコッチの規定よりも踏み込んだ内容もあります。


■2024年4月

このジャパニーズウイスキーの定義については、3年間の移行期間が定められていたので、2024年4月から完全施行となっています。

世界的なウイスキーのコンクールでも、ジャパニーズ部門に出品する際には、「日本洋酒酒造組合の定めるジャパニーズウイスキーの定義に合致したウイスキー」という出品規定になっています。

ただ、海外の空港免税店などでは、
「ジャパニーズウイスキーっぽいラベルの日本国産ウイスキー」
を、まだまだ見かけます。

そして現状では「ジャパニーズウイスキーの定義」は法律ではないので、「日本洋酒酒造組合の定めるジャパニーズウイスキーの定義」と異なる解釈で「うちの商品はジャパニーズウイスキーです!」とアピールされても、止めることはできない状況でもあります。

これについては、「ジャパニーズウイスキーの法定義化」を求める動きも起こって来ています。
一方で、ジャパニーズウイスキーというフレーズに、国際的なGI(地理的標示)を与えるというやり方もあると思いますし、日本洋酒酒造組合が「ジャパニーズウイスキーに関する公正取引規約」を策定して、公正取引委員会に承認してもらうという方法もあると思います。

今後の展開から目が離せません。


以上で4話に渡りました「酒税法の定めるウイスキーの定義」「日本洋酒酒造組合が提唱するジャパニーズウイスキーの定義」についてのお話でした!

お付き合い、ありがとうございました!!


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