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ウイスキーとピートの香り《ピート:後編》
■前回は
前回に引き続き、ウイスキーの「ピート香」についての後編です!
◇前回のまとめ
・ウイスキーにスモーキーフレーバーがあるのは、スモーキーな麦芽を使うから!
・麦芽の製造構成は、超ざっくりは「発芽」「乾燥」の工程があるが、乾燥工程が『スモーキーフレーバー』に関係しているらしい。
この続きからです!
■麦芽製造(製麦)の乾燥工程(=焙燥)
◇麦芽の製法(ざっくり編)
① 収獲された大麦の粒を「発芽」させる。
② その大麦の発芽を「乾燥」させることで止めて、保存性の高い『麦芽』にする。
(細かくはもっと色々な工程があります)
水に浸して発芽させた大麦ですが、それ以上の成長を止めるために、乾燥させます。
そのまま大麦の粒を成長させてしまうと、それこそそのまま大麦になっちゃうので、お酒をつくることができません。
じゃあどうやって、湿って芽を出した大麦(グリーンモルトと言います)を乾燥させるのか?
◇湿って発芽した大麦の乾燥方法
《昔バージョン》
網の上に湿った大麦を乗せて、下から炙る。
《現在バージョン》
熱風を吹き付ける。
※ 1825年に、英国で新式の熱風式の乾燥機が発明されました。
■昔バージョンの乾燥方法の熱源
昔は湿った大麦を下から炙って、強制的に乾燥させていたわけですが、その時の熱源がポイントです。
何を熱源にしていたのでしょうか?
日本で普通に考えたら「薪」を燃やすと思います。
これが、アイラ島の場合は「薪」でなかったんです!
燃やしたものは「泥炭=ピート」だったんです!
◇泥炭(ピート=草炭ともいう)
見た目は、ただの泥。
でも「植物が体積した特別な泥」が泥炭。
この泥炭を乾燥させると、元々が植物の固まりなだけに、良く燃える。
アイラ島では、「湿った大麦を乾かすため」だけでなく、古くから「煮炊きをする」「暖をとる」etc.一般的な熱源として泥炭が使われて来ました。
それは以下の理由からです。
◇アイラ島でピートが生活の中の熱源として使われていた理由
① 森林が少ない
② 木を切るより、泥炭をスコップで掘って、ほったらかして乾かす方が楽
③ 島の1/4が泥炭で覆われていて、泥炭がムチャクチャ豊富
②の「薪よりも楽」をもうちょっと詳しく見てみましょう。
■木の伐採より、掘ったピートを乾かす方が楽
木を切り倒して、斧で割って「薪」をつくるのって、相当な労力がいると思います。
一方で「熱源としてのピート」を準備するのは、木を切り倒すよりは楽そうです。
詳しく見てみましょう!
◇熱源としての「ピート」の準備作業
① シャベルで、ピート(植物が体積した特別な泥)を掘り起こす。
![](https://assets.st-note.com/img/1714364858066-C55KyOouxh.png?width=800)
② 乾かしておく = 完成!
![](https://assets.st-note.com/img/1714364893538-lsq6f4Iorj.png?width=800)
■ピートで乾燥させると煙香がつく!
これは想像できるかと思います。
昔は、湿った大麦を、下からピートを燃やして炙って乾燥させていました。
炭化した食物を燃やすので、ムチャクチャ煙が出るうえ、大麦が湿っているので、煙の香りがガッツリ大麦につくのです!
イメージでは、「カツオの藁焼き」で、カツオに香ばしい「藁の煙の香り」がつくのと同じです。
そりゃ、「煙の香りのする麦芽」になりますよね!
英国で、新型の熱風式の麦芽乾燥機が開発されると「ピートを『えっさほいさ』と掘り起こすより楽で効率的!」ということで、そちらに置き換わります。
そうするとピート香りがない、すっきりとした香りの麦芽ができあがるようになりました。
一方で次第に、『あの臭さが堪んないんだよなー』という声も上がるようになります。
今度は効率化とは逆のベクトルで、敢えて香りづけのためにピートを焚くようになったのです。
さらにマニアックなお話をすれば、ピート香は乾燥工程の初期ほど良く香りが付きます!
大麦が湿っている方が、香りがつきやすいからで、ピート麦芽でも最初から最後まで、ずっとピートを焚いたままということは稀です。
(超絶スモーキーなウイスキーとして有名なブルックラディ蒸溜所のオクトモアは、最初から最後まで、ピートを焚きまくるそうですが。)
普通は狙ったスモーキーさ(フェノール値という値で表します)になるまで、ピートを焚いて、その後は熱風に切り替えて乾燥させることが多いそうです。
■アイラ島のピートは磯っぽい!
アイラ島の蒸溜所のほとんどは海際にあるので、その周辺で取れるピートは、山で取れるピートなどと性格が異なり、潮風の塩気や海藻なども含む、「磯の香りのするピート」でした。
これがアイラ・モルトウイスキーの特徴である「磯の香りのするスモーキーフレーバー」に繋がっています。
(ちなみに、アードモアというシングルモルトは、山のピートを使うので「焚火の香りのするスモーキーフレーバー」が特徴的です。アイラのシングルモルトとの飲み比べがオススメです!)
そして特に「ラフロイグ」「ラガヴーリン」「アードベッグ」のキルダルトン3兄弟は、歴史的にアイラ島の他の蒸溜所よりもより海際のピートを使用してきました。
(逆に言うと、ボウモアのピートはキルダルトン3兄弟のものよりも、もう少し海から離れた場所のものだそうです。)
こういう背景から、
アイラモルトの「独特のスモーキーさ」
キルダルトン3兄弟の「強烈なスモーキーさ」
が生み出されているのです!
■とはいうものの①
説明の流れ上、製麦の話をしましたが、今では自社製麦を継続している蒸溜所はあるものの、「自社製麦100%」で賄えているアイラ島の蒸溜所はありません。
(ちなみにフロアモルティング※による自社製麦100%で賄っているのがキャンベルタウンにあるスプリングバンクで、もはやカルト的な超人気ウイスキーになっています。)
※ 製麦の発芽工程を人力で行う昔ながらの製法。いつか記事化します!
どの蒸溜所も少なからず、専門の麦芽業者にスペック(フェノール値・使うピートの産地など)を指定してつくってもらい、購入しています。
その「購入した麦芽」と「自社製麦した麦芽」を、別々の仕込みで使って、別々の原酒に仕上げる蒸溜所もあれば、「購入した麦芽」と「自社製麦した麦芽」を一定の割合でブレンドして原酒をつくる場合もあります。
それは、その蒸溜所の考える方向性次第ということになります。
■とはいうものの②
そして、できあがるウイスキーのスモーキーさは、「使用する麦芽の薫香の強さ(フェノール値の高さ)」に大きな影響を受けるものの、それが全てではありません。
その後の製造工程でも、飲む時に感じる「ウイスキーのスモーキーさ」は大きく左右されるからです。
特に、再溜時のミドルカットのポイントには、大きく影響を受けるようです。
このあたりも、いつか記事化したいと思います!
以上、前編・後半の2話に渡るマニアックすぎるピートのお話でした。
お付き合い、ありがとうございました!
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