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ウイスキーというお酒は、どこで誕生したのか?? 《アイルランド?》

■前回からの続きです。

「ウイスキーというものは、どこで誕生したのか?」について、「5大ウイスキーのうちの、どこかで誕生しただろう」と当たりをつけて、前回までに4ケ国を検証しました。

◇世界5大ウイスキー

・スコッチ
・アイリッシュ
・アメリカン(≒バーボン)
・カナディアン
・ジャパニーズ

◇アメリカ / カナダ / 日本

これらの3ケ国はウイスキーの歴史が浅く、アイルランドスコットランドの影響を受けて、ウイスキーづくりがはじまっているので、ウイスキー発祥国ではない。

◇スコットランド発祥説の2つの根拠

① 大麦の蒸溜酒製造について、最古の『文献記録』が残っている。

② 琥珀色へ『木樽熟成』させる工程を発見したのはスコッチの密造者と言われている。

ただ、「アイルランドにも言い分がありますよ!」というところまでが前回です。

で、今回はそのアイルランド側の主張です。


■アイルランド説の根拠

まずは、「ウイスキーはアイルランドが発祥だ!」という人たちの主張を聞いてみましょう!

◇アイルランド発祥説の主張

大麦からのアクアヴィテ(蒸溜酒)
をつくっていたのは、
スコットランドよりアイルランドの方が
早いから!

シンプルというか当たり前というかですが、これがアイルランド発祥説の主張となります。

で、なぜスコットランドよりアイルランドの方が、アクアヴィテの歴史が古いと言えるのでしょうか?


■アイルランド発祥説①《文献》

アイルランド発祥説を唱える人の意見の1つをを聞いてみましょう!

ウイスキーの最古の文献記録である、1494年、スコットランドの「修道士ジョン・コーにアクアヴィテをつくらしむ」よりも古い記録が、アイルランドには残っているぞ!

おお!
じゃあ、アイルランドが最古ではないか!!

しかし、このアイルランド側が主張する文献が、微妙なんです。

解説したいと思います。


■アイルランド発祥説①《文献》 疑念その1

文献を根拠にした「アイルランド発祥説」の詳細を確認してみましょう。

蒸留酒に関する伝聞では、イングランド王ヘンリー2世のアイルランド侵攻時の記録が(1172年頃)が最も古く、この時代にすでにアイルランドでは「命の水」が飲まれていたとされるが、これはそれを証明する記録が見つかっていない。

ウイスキーコニサー資格認定試験教本2021 下巻 P15
発行:ウイスキー文化研究所

ぬぬ。微妙な表現・・・
証明する記録が見つかっていないのに、どうしてそんな噂があるの??

教本をもうちょっと読んでみましょう。

1172年
ヘンリー2世の兵士が土地の蒸留酒・ウスケボーについて報告をしたとされる(ネトルトンの書物などで紹介されるが、原典は不明)。

ウイスキーコニサー資格認定試験教本2021 下巻 P46
発行:ウイスキー文化研究所

つまり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1172年頃にアイルランドに行った兵士が
「ウスケボー(=命の水)があったよー」と言っていた
という記録※①
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

があるよと書いてある書物※②があるよ!

ということです。

②は、ネトルトンさんの書物etc.ということですね。
ただ、①の原典が確認できないので、正式な文献としては認められないのです。

ということで、正式に確認できる最古の文献としては、

1494年のスコットランド王室の財務係の記録
(修道士ジョン・コーの話)

となってしまうのです。


■アイルランド発祥説①《文献》 疑念その2

またこの1172年頃のアイルランド発祥説については原典が不明な点以外にも、下記のような記述もあります。

1170年、ペンブルック伯爵を屈服させるために、イングランドのヘンリー2世の兵がアイルランドに入った。(中略)帰還したイングランド兵は、アイルランド人が「アクアヴィタ」「オスケバウ」を飲んでいるという報告をもたらした。これは強い蒸留酒のウイスキーだったのでだろうか? アイリッシュ・ウイスキーの熱心な愛好家はそう考えるが、確かなことは誰にもわからない。報告書にはその飲み物の特徴は述べられていないし、それをつくるための成分を示すものもない。

ウイスキーの歴史 P88
ケビン・R・コザー著 原書房

文中にある「アクアヴィタ(アウアヴィテ)」「オスケバウ(ウスケボー)」ですが、それぞれラテン語ゲール語『蒸溜酒』を意味します。

ただ、「何を原料にした蒸溜酒」かは、このワードだけでは判別できません。

蒸溜酒=「アクアヴィタ」「オスケバウ」といっても・・・

 ブドウが原料     → ブランデー
 大麦が原料      → モルトウイスキー
 じゃがいもが原料   → コルン
 サトウキビが原料   → ラム
 竜舌蘭が原料     → テキーラ 
                   など

なんとなくですが、

「アクアヴィタ」と「オスケバウ」を飲んでいる

という表現が本当だとすれば、それぞれを別物として扱っているので、

アクアヴィタ 
= 葡萄を原料にした蒸溜酒 → ブランデー

オスケバウ
= 大麦を原料にした蒸溜酒 → ウイスキー

である可能性が高い気がしますが、原典がないので結論は出せないのです。


■アイルランド発祥説②

このように、アイルランド発祥説を、
1172年前後のイングランド兵の報告』
を根拠に主張するのであれば、

・原典が不明

(仮に原典が見つかったとしても)
・原材料が不明

ということになり、かなり厳しいです。

でも、「ウイスキーのアイルランド発祥説」には、『状況証拠』が揃っているのです。

次回に続きます!


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