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FF14 光の連続小説 【とある喫茶店のバックヤード 第8章】

ピアノバーの黒いピアノの音色は聴く者の心の奥底まで響き、
ミコッテの淹れるコーヒーと歌声は聴く者の心を癒した

© SQUARE ENIX

第8章 とある歌姫の話

 シトシト雨が降っている。次第に夜もふけてきた。

 少し前のバハムート襲来からの雷雨ほどではないにしろ、それから雨は降り続いていた。まるで世界が泣いている様だ。

 とはいえそのおかげで火の勢いも大きくならずにいる。どちらにしろ生き残った俺たちは歩んでいかなければならない。

 現状把握は早いほうがいい。

 俺たちはマーニュを起こさないようにそっとソファーに寝かせ、静かに周りを見渡した。

 俺たちの今いる地下はと言うと、1階から持ってきた荷物でごちゃごちゃしているもののそこまで被害はなかった。ただ唯一、雨水が溜まった1階からの水漏れはあり、至る所に滴が落ちてくる。とりあえずピアノだけは濡らさない様にと倉庫へしまった。

 次にランプを手に取り階段を登り、1階を見てみる。

 1階は俺の直した振り子時計を除き、全壊とまでは言わずとも内装は目も当てられない状態だった。

 屋根の一部が壊れそこから無常にも雨が降り込んでいる。雨水で床は濡れ、シャンデリアは落ち、足の踏み場はない。奥の居室はそんなに被害はなさそうだが、そこへ辿り着くのはなかなか困難な状況だ。

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 先ほどは振り子時計に夢中で、あまり周りを見ていなかったが、改めて見てこれからどうしたらいいのか、途方に暮れるくらいだ。

「おばさん、僕たちこれからどうなっちゃうの」

「そうね、とりあえず休養をとりましょう。ロビン君もゴブちゃんも動きっぱなしだったでしょう」

 おばさんはこんな状況だが落ち着いていた。

 子供二人、ゴブ一匹、大人は自分だけという状況を、大袈裟でもなく諦めるでもなく正しく受け入れ、その目は先を見つめている様に見えた。

 ぴちゃん。

「いやあああ」

 その時地下からマーニュの叫び声が聞こえた。

「大変!きっと雨漏りがマーニュにあたったんだわ」

 俺たちは急ぎ地下へ戻った。

 おばさんの予想通りマーニュの寝ていた辺りにも雫がいってしまっている。

 マーニュは混乱して取り乱していた。あんなことがあってやっと寝ついたばかりだ。仕方ないかもしれない。

「ママ、何か私の顔についたの、ママぁぁ」

「大丈夫よ、マーニュそれはただの雨だから」

「うそ!おうちで雨なんてふらない!そうだパパ、ねえパパとって!」

 マーニュは寝ぼけている……。

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「マーニュ、パパは英雄さんのお仕事からまだ帰ってきてないんだよ」

「うーパパぁ。ピアノひいてよう。マーニュにピアノひいてよう」

 どうやらマーニュは眠いやら、気持ち悪いやらで。混乱していた。

「困ったわねえ…そうだ!」

 おばさんはマーニュを拭きつつ、滴る雨漏りを見て何か思いついた様だ。

「ごぶちゃん、ロビン君グラスを並べてくれる?雨の落ちてくるところに」

 なんだろう?疑問に思いつつも俺たちは周りにあったグラスを、雨もりが落ちてくる場所にひとつづつ並べた。グラスは雨漏りの箇所の多さに比べ足りる量ではなかったが、置いたところから水がたまり、落ちてくる雫が音を奏でる。

 ぽちゃん、ぴちゃん、ぼちゃぁん、ぴちゃっ。

 それぞれ微妙に音の高さが違う。

「ほら、聞こえる?パパがマーニュのためにピアノ弾きにきてくれたよ」

 …正直ピアノの音とは程遠い。それにグラスの数も足らなく、床や家具に落ちる雑音の雨音も混じっている……。

「ちがう!こんなのパパのピアノじゃない!パパのピアノはもっとキレイな音でそれにもっといろんな音する!」

「マーニュわがまま言うな!せっかくおばさんが…」

 俺はマーニュのわがままっぷりに、いいかげん口を挟みそうになった。

「いいのいいの、ロビン君。そうだ、一階の私たちのお部屋に私のコレクションのカップがまだある!ちょっととってくるよ私」

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 そう言うとおばさんは俺に「マーニュを見てて」と言い、ゴブをつれ一階へ急いで向かった。

「おばさん散らかってるから気をつけて!」俺はそう言うのがやっとだった。

 ランプを手にし、おばさんとゴブは一階へ向かう。

 

(俺はなぜ今まで気づかなかったのだろう)

 

 二人は階段を駆け上がる。暗さもあってすぐ見えなくなる。

 

(急いでいたとしても、手順を踏んでれば)

 

 二人が1階の瓦礫をどかす音が聞こえる。

 

(おやじの様にちゃんとやってれば)


「きゃっ、あっ……うっ……え……」

「オ、オイ、ドウシタ」

 遠くに聞こえる不穏な声に俺は嫌な予感がした。そしてある事を思い出す。

「工具……しまい忘れている!」

「モジャオ、ココへ来イ!」ゴブが俺を呼ぶ。

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 俺はマーニュにここで待つよう言い、直ぐに1階へ向かった。

 1階では瓦礫の間でおばさんが、お腹を押さえ倒れていた。

 近くには俺が直した振り子時計…俺が片づけず置きっぱなしにしていた工具。そしてその工具には血がついていた……。

「おばさん!俺……工具……慌ててて、違うんだ、忘れてて……」

 俺は気が動転してた、おばさんのお腹から血が流れ出ている。

「モジャオ!シッカリしろ!タスケルゾ」

 ゴブの声に俺は我を取り戻した。

「そうだまず血を止めなくては!」俺は何か抑える布はないかと辺りを見渡す。そんな時だった。

「うわーん!みんなどこ行ったのーこわいよーうわーん」

 地下からマーニュの泣き声が聞こえる。

「この忙しい時に……」俺は思わずイラつき声をあげようとする。

「待ってロビン君、怒らないで」

 それを察知し制したのはおばさん。

「お願いがある…今はマーニュに怒鳴らないで。マーニュに……これ以上ストレスを与えると……あの子……壊れちゃう気がするの。それよりも……」

 俺はおばさんの必死の声に耳を傾けた。

「私の部屋に上着があるから、それとってきて。その後私をマーニュのとこまで運んで欲しいの……そしたら……」

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 俺は今なんでそんな事をと思いつつ、まだ何か言いたそうなおばさんの続く言葉を聞く。

  ー わかりました。

 おばさんの頼みに「それどころじゃ」と本心には思っていた。だけれど俺にはもう何かを判断する力はない。とりあえず言われた通りにと思った。

 ゴブは俺が話を聞いている間にもおばさんの上着を取ってきていた。

 おばさんに上着を着せ、ゴブとおばさんをマーニュの元へ運ぶ。

「マーニュ、今みんなで行くからちょっと待ってろ。ここは危ない」

 マーニュを血だらけのここへ来させるわけにはいかない。俺はあらかじめ声をかけておいた。

 階段をゆっくり下りる。地下の直ぐのところに泣いているマーニュの声が聞こえる。おばさんの上着の下から血が滴る。おばさんは精一杯明るくマーニュに声をかける。

「ごめんねえ。マーニュ。ママ転んじゃってねえ」

 マーニュがおばさんに駆け寄る。俺はさりげなく飛びつかないように間に割り込む。

「ママ、私ひとりぼっちでこわかったよう。ぴちゃんぴちゃんはパパのピアノじゃないよ。こわれたピアノだよーえーん」

「ごめんね。でもねママ、パパのピアノの代わりにいい事思いついたんだ」

 おばさんが俺にウィンクする。俺は蓄音機にレコードをセットした。

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「マーニュが安心して寝れるようにあの歌、唄ってあげる。さあこっちにおいで」マーニュがおばさんの腕に包まれる。それを合図に俺は曲をかけた。

  

   ーエンディングー

  ひとつ  ふたつと もうひとつ

  きょうは いいこと あったかな

  

  ひとつ  ふたつと もうひとつ

  きょうは やなこと あったかな

  

  ぜんぶ  ぜんぶ だきしめて

  マーニュ だけの たからもの

  

  ぜんぶ  だいじに だきしめて

  きょうは おしまい おやすみ

 

 ひーとつ、ふたつと、もうひとつー……。

 マーニュは再び眠りについた。おばさんからの視線を感じた俺は、ゴブにも手伝ってもらい、マーニュをおばさんから受け取る。

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 おばさんはそのまま座っていたソファーに倒れ込んだ。

「おばさん!」マーニュをおろした俺たちはおばさんにかけよる。

「ロビン君、ごぶちゃん、マーニュの寝顔見て。かわいいでしょ、私の宝物」

 マーニュは安心した顔ですやすや眠っている。

「二人にね。お願いがある。……私は多分もうダメだと思う」

「おばさん、シッカリして!大丈夫、止血しておいしい物食べたら……」

「お願い聞いて、時間があまりない」おばさんは笑顔で俺を制した。

「朝になってマーニュが起きる前に、二人で私をマーニュの見えないところへ運んで欲しいの。倉庫がいいかな」俺たちは頷くしかない。

「そしてロビン君、マーニュが起きてきて私を探したら、私はパパのところへお弁当届けに行ったって伝えてくれるかな」

 マーニュには嘘をつくことになる。だがこの短期間でおじさんとおばさん、両親を一気に失う事は、確かにマーニュの心を壊してしまうかもしれない。

「その後外が落ち着いていたら、私をこっそり東のお庭の隅の方に埋めて欲しい。そして出来たらそこにアサガオとか植えてくれると嬉しい。そしたらいつも光の方…お父さんたちの方見ていられるでしょ」

 おばさんは苦しい顔みせずに、精一杯笑ってくれている……。

「おばさん、ごめんなさい、俺工具ちゃんと片付けてれば……」

「ううん、ロビン君のせいじゃない。私が勝手に転んだんだよ。それよりも振り子時計直してくれて嬉しかった。ありがとう」

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 おばさんはそう言うと俺の頭を撫でた。

 そしてそのままその腕は力を失った。

 

 次の朝、マーニュが起きてきた。

「ママーどこー」

 俺たちは一睡もしていない。夜中を通しておばさんを倉庫へ隠し、血を洗い流していた。

 俺はフラフラではあったが手はず通り、マーニュにこう伝える。

「おばさんはおじさんのところへお弁当届けに……」

「チガウ!」

 え、おい、ゴブ何言うんだ、やめろ。

 ゴブはマーニュの手を引き倉庫へ連れて行き、横たわるおばさんを見せる。

「ママはシンダ。ガレキにツブサレタ」

「あのやろう……」俺はゴブを突き飛ばし、マーニュに弁明しようとする。

「こ、これは違うんだ、マーニュ、おばさんまだ寝てて……」

 しかしもう既に遅かった。

「え……ママ、なんで……起きてよ……」

 動かないおばさんに触った小さなマーニュの手は、赤く血に染まる。

「いやあああああーー」

 マーニュはそのままその場に倒れた……。

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第8章 とある歌姫の話 おわり


幕間コーヒーブレイク⑧

 著者Charle Magneによる、舞台でもある喫茶店のスタッフさんへの突撃インタビュー。第4弾となる今回は、マスターのマーニュさん。

Charle Magne(以下しゃる)
 マーニュさん、今回はお店のバックストーリーの取材含め、こうして皆様にご協力頂きありがとうございます。

マーニュさん(以下マーニュ)
 いーえ。こちらこそ私達の事ご紹介いただきありがとうございます。

しゃる:このお店は不思議な魅力ありますよね。今この本書でご紹介させていただく事で、少しでも読者の方にお店の魅力が伝わればと思います。

マーニュ:お客さん増えるといいな♪

しゃる:きっと読んでくれた方、来てくださると思いますよ!

マーニュ:うん!とりあえずコーヒーだけど、乾杯でもしましょうか。

しゃる:ですね。お互いにお疲れ様ということで。

しゃるる・マーニュ:カンパーイ!


第9章へつづく



※作中に登場した楽曲『エンディング』は
Fainal Fantasy 14 © SQUARE ENIX
内の楽曲にありますが、歌詞についてはこの小説オリジナルのため、楽曲とは関係ありません。


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