FF14 光の連続小説 【とある喫茶店のバックヤード 第4章】
新しい世界の扉の鍵は、常にその手の中に
3章までのあらすじ
とある喫茶店『純喫茶クロネコ』で働く新人ショップスタッフのフェイ。
客で通っていた頃から、ピアノで奏でられる店のBGMは大のお気に入りだった。
しかしそのBGMは店内に設置されている蓄音機からではなく、地下でゴブちゃんと呼ばれるゴブリンが弾いているものだと、マスターのマーニュに知らされる。
マスターに背中をおされ、憧れのピアニスト、ゴブと接触してみるフェイ。
しかしながら、言葉選びを間違えたのか、そのファーストコンタクトは失敗に終わった。
気落ちするフェイにマスターはもう一人のショップスタッフ、モジャオを紹介するため、また次の日に来るように伝える。
喫茶店の公式営業日は土曜だが、他の曜日も店は開けている。その他の営業日に店に来て働いているのが通称モジャオことロビンだ。
モジャオはマスターのマーニュと幼なじみで、父親から受け継いだ振り子時計の調整他、店のメンテナンスも店番と兼任していた。
ゴブとも古くからの知り合いで、ゴブがフェイに怒った理由も理解しているようだが…。
第4章 とある新米店員の話
私は夕ご飯を食べ一息ついたところで、出発の準備を始める。
「イケメンさんか〜」
淡い期待と少々の緊張。こういう気持ちも久々だ。
公式営業日ではない日曜日にお店に行くのは、初めてだった。
出勤するわけではないが、出勤する様な感じもあって、なんだか落ち着かない。天気もそんな私の気持ちに合わせた様なのかどんより曇り空である。
今日は傘はシッカリ持っている。初出勤の時のような失敗は冒さない。
お店には降られずについた。いつもは私が点けている外灯も既についていて、店の窓からは灯も漏れている。
「本当に日曜も店開けてるんだ」別に不思議なことではないが、店員の立場ではなくお店にくるのは、なんだか誇らしいような恥ずかしいような気分。
さっさと店に入ればいいのに、私は無駄に庭をウロウロしてみた。
庭にはマスターの栽培している野菜や、開店祝いにもらったという、林檎の木が植わっている。そして東向きに植えてあるアサガオ。
このアサガオもマスターはお気に入りで、時折話しかけてるのを見たことがある。
「アサガオの花言葉は確か、儚い情熱的な愛だったかな……」
無意識にそう呟いて私はなんだか恥ずかしくなった。「これじゃ乙女じゃないか」マスターの言った、モジャオ君はイケメンという言葉が思いの外、頭に残ってたのかもしれない。
私は庭のウロウロをやめ店の扉に手をかけた。
「この扉が新しい世界の扉!」
淡い期待だった私の心は、いつの間にか期待百パーセントになっていた。
「こんばんわー」
カウンターには誰もいない。あれ?誰もいないな。奥にいるのかな?
「あのー誰か……ええと、モジャオ君いませんかー」
誰かが階段をかけあがってくる音がする。
「悪い悪いお待たせ、ちょっと地下へ行ってたんだ。あんた新人の…」
よかった。モジャオ君いたみたいだ。マスターに騙されたかと思った。
え?でもあれ?あのもじゃもじゃ頭……。
「あれ?フェイ!?」
「ええー?なんでっロビン!?」
私は頭が混乱した。
えーと、マスターはなんかもう一人のスタッフ紹介してくれるって、土曜日じゃなくても営業してるって、イケメンスタッフのモジャオ君だって、でも目の前にいるのは昔私が付き合ってたロビンで、 ”新しい世界” がひらけるって……。
「マスターからは新人が来るって聞いてたのに、なんでフェイが……」
私がロビンと呼んだ、もじゃもじゃ頭がぶつぶつ言っている。
「こっちのセリフよ!イケメンのモジャオ君紹介してくれるってマスターに聞いたから私はきたのにー」
「いや、モジャオは俺だけど……」
「はあ?あんたがイケメンなわけないでしょ。この女ったらしが」
「おいおい、じゃあフェイがマスターの言う新人なのか?」
「…まさかモジャオ君ってロビンの事?」
つまりは、マスターは昔私とロビンが付き合っていたことを知らずに、私にはロビンのことをモジャオ君として紹介し、ロビンには私のことを新人店員とだけ紹介した……。
「不思議なこともあるもんだな。またフェイと会うとはな」
「はーもうガッカリだわ。今度こそイケメンと会えると思ったのに」
「また付き合ってもいいんだぜ?」
「女ったらしはお断り」
ロビンの事は別に嫌いではなかった。ただ浮気癖はどうしても許せない。
こいつは私に隠れこっそり私のフレンドを口説いたのだ。
だから次こそ誠実なイケメンをと思ってたのに……。
「まあいいわ。せっかく来たんだしコーヒーの1杯でも出してよ。もちろんロビンの奢りでね」
「やれやれ、偉そうな新人だな」
そう言うとロビンはダルそうにコーヒーの準備をし始めた。
「ねえ、いつからこのお店で働いてたの?私にはそんな事一言も言わなかったのに。あーわかったマスター目当てだ」
「マスターとはそんなんじゃねーよ。ただの幼なじみだ」
「ふーん。だけど別にロビン、特別喫茶店好きなわけでもないでしょ。誘っても一度も行きたがらなかったし」
「……別にいいだろ。ほらコーヒーできたぞ。このカップか?」
店員用のカップ置き場から出した、私の青いカップにコーヒーが注がれる。
「まあいいや、てかこのコーヒーあんまり美味しくないんだけど?」
「マスターのと比べんなよ。マスターのが特別なだけだ」
確かにマスターのコーヒーはすごくおいしい。いつの間にか私もそれが基準になっているのかもしれない。
「確かにそうかもね」私はそう言うと元彼の挿れてくれたコーヒーを1口飲んだ。こういうやりとりもなんとなく懐かしさを覚える。
ふとゴブちゃんのピアノが聞こえてきた。土曜日じゃなくてもちゃんと弾いているらしい。
「ねえ、ロビン。ゴブちゃんてどんな感じ?」
「ゴブ?ああそうか。フェイなんかゴブと揉めたんだってな」
その通りだ私は土曜日にゴブちゃんに『ダマレ』と言われている。
「ゴブはゴブリンなだけあって俺たちとは少し違うけど、まあ悪い奴じゃないぜ。言葉足らずだけどな」
「私そんな変なこと言ったと思えないけど……」
「ちらっとゴブから聞いたけど、フェイ、マスターが忘れっぽいとか、ボケているとかそんな様な事、ゴブに言わなかったか?」
確かにあの時私はゴブちゃんに『マスターは忘れっぽいから日給制にしている』という感じの事言ったと思う。
「ボケているなんて事は言わないけど、忘れっぽいとは言ったかも」
「やっぱりな。普通に考えたら確かに ”忘れっぽい” なんて軽いイジリだろうけど、マスターに関しては……まあ昔色々あってな」
「……何かあったの?」
「フェイもここで働くなら、知っといた方がいいかもな」
そういうとロビンは棚にあったビスケットをテーブルに出し、コーヒーをもう1杯淹れた。
第4章 とある新米店員の話 おわり
幕間コーヒーブレイク④
「フェイちゃんアサガオの花言葉知ってる?」
「お、これはわかりますよ。『儚い情熱的な愛』ですね」
「おーすごいね正解!色によってもいろいろなんだけどね。赤はそれだね。あと紫だったら『冷静』とか、しろだったら『固い絆』とか」
「じゃここに咲いているのはなんですか?ピンクっぽい」
「うんピンクはね『安らぎに満ち足りた気分』だよ」
「じゃあ喫茶店にはぴったりですね」
「うんうん。私たちもお客さんに精一杯提供しなきゃね。このピンクのアサガオのような安らぎの時間をさ」
5章に続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?