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おうちDE茶の湯④ - 自然と共生する

自然と折り合ってきた日本の文化には、ひと、そして環境との共生の知恵があります。これは世界に発信する価値のあるものだと考えています。受け継がれてきたお茶の点前には、自然の力を借りなければ、お茶の一服もままならなかったことを気づかせてくれます。今日は、自然と共生することについて綴ります。


「茶の湯とは ただ湯を沸かし 茶をたてて
飲むばかりなるものと知るべし」    - 利休百首


千利休が茶人の心得として残した百首の冒頭に、このような和歌があります。礼儀作法やお点前の所作など、茶道には決まりごとが多くありますが、究極の目的はいたってシンプルに「おいしいお茶を点てること」。これに尽きるという教えです。

昔の茶人は、湯を沸かすために、夜明けに名水を汲みに行き、木を切り炭を作り、灰型を整えて火を起こしました。山に入り野の花を摘み、床の間をかざり、時間をかけて石臼でお茶を挽き、土をこねて茶碗を作り、竹の茶杓と茶筅でお茶を点てました。

450年間変わることなく受け継がれてきたお茶の点前には、先人たちの暮らしぶりやもてなしの様子が生き生きと再現されています。そして、自然の力を借りなければ、お茶の一服もままならなかったことを気づかせてくれます。


自然と寄り添う暮らし
春、夏、秋、冬と四季があることを、私たちは当たり前と思いがちですが、世界的にみて、日本のように刻々と季節が巡る土地は実はとても稀です。地球上には、一年が雨季と乾季だけの土地、常夏の国、あるいは、つかの間の夏以外は長い冬の寒さに耐えなければならない場所も珍しくありません。緯度の高さや、海に囲まれた地理的な条件から、日本には世界のどの国とも異なる豊かな自然があるのです。

日本人は古来より、その四季を1/6に分けて二十四節気、さらにもう1/3に分けて七十二侯としました。これは、一日として同じ日はないことを肌感覚で理解し、自然に寄り添う暮らしのための知恵でした。

一年を通して、良いことばかりではありません。地震、台風、熱波、干ばつ、豪雪... さまざまな厳しさとも折り合ってきました。その結果、自然に対する畏れと敬愛が交錯し、そこにはいつも祈りがありました。

タイトルの写真は、三年前、伊勢内宮での献茶式に参列後に神宮茶室にて撮影したものです。直前まで降っていた雨があがり、むせるような新緑が辺り一面を輝かせた瞬間です。脇を流れる五十鈴川のせせらぎが、清らかに響いていました。祈りが形に極まった心を打つ情景で、この時期になるといつも思い出します。



微生物とも共生
微生物との共生についても考えてみましょう。微生物はヒトの誕生より遥か以前より地球に存在していました。日本の住空間は開放的で、建材には土にかえる有機物が使われてきました。藁葺き屋根、土壁、畳には、多くの微生物が共生しています。また、伝統的な食べ物には、味噌、醤油、かつおぶし、ぬか漬けなど、様々な発酵食品があります。私たちの体内にもたくさんの微生物が存在し、健康を支えてくれているのです。

こうして考えてみると、自然の恵みは、私たちを取り巻く環境にも、そして私たちを構成する体内にも大きく影響していることに気づきます。

自然に寄り添い、折り合ってきたことが、日本の文化、精神を形づくっています。茶の湯の点前は、そのような生活様式を究極に洗練させた型です。そこには共生の知恵があり、世界に発信する価値のあるものだと考えています。


茶道の原点に立ち返る
さて、現代の日本はどうでしょうか。
科学が進歩し、快適で便利な都会での暮らしに、
自然を感じられる瞬間はどれほどあるでしょうか。
畏敬の念をもつ謙虚さはあったでしょうか。
母なる大地に身をゆだねる、心のゆとりを持てていたでしょうか。

いま、新型コロナウィルスの広がりに世界中が揺れています。
高度に進化した文明におごりはなかったか。こんな問いを突きつけられている気がしてなりません。

湯を沸かす、茶を点てる、自然の恵みに感謝していただく。

茶の湯の原点に立ち返り、お点前に込められた祈りに静かに耳を傾ける。
利休居士の教えは、今も多くの示唆に富んでいます。


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