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葦と桃は名コンビ?

前々回の記事で、諸橋大漢和辞典に掲載されているアシ製品を拾い出しましたが、前回の記事でご紹介しなかったものの中に、葦に超自然的な力を見出している熟語がかなりありました。

葦について最初に書いた記事でも、葦と関係する神事を取り上げましたが、昔の中国や日本では、葦に特別な力があると信じられていたように思えます。

葦茭(ヰカウ)
あしをたばねたつな。古、夏至の日に門に飾り、邪氣祓ひとした。

葦索(ヰサク)
あしをたばねたなは。神荼・鬱壘の二神が鬼を執へる縄であるといふので、門に飾って邪氣祓ひとする。

(ヰサク)
あしでつくったつな。葦索。

諸橋轍次 著 大漢和辞典『葦』大修館書店

「葦索」の定義に出てくる神荼・鬱壘という神様について調べてみました。

旧中国において歳末になると,入口の左右の扉にはって魔よけした門神のの名。〈しんとうつりつ〉とも読む。2神はもと人に災いをなす鬼(亡霊)を葦の縄でしばり,虎に食わせた兄弟であるという(《風俗通》祀典篇)。2神の信仰は後漢以降とされ,初め桃の木で作られた人形であったが,六朝後半には,すでに絵となり,後世,美しい印刷物となった。清代,一般に甲冑に身をかためた武将像の門神が用いられ,俗説に2神のことともいう。

コトバンク『世界大百科事典 第2版「神荼・鬱塁」の解説』

神荼・鬱壘は、鬼を葦縄=葦索で縛って退治した兄弟に由来する2神です。
ネットで画像検索すると、いかにも強そうな2神をみることができます。

神荼・鬱壘の由来となった2人の兄弟は桃の木の下に住んでいたそうです。中国では桃は長寿をあらわす植物で、生薬としても用いられます。魔除けの植物として、神話の中にもよく登場します。
日本の神話でも、イザナギが黄泉の国から逃げてくる際、追っ手に桃を投げて逃げ切っていますね。

諸橋大漢和には、もう1つ、桃と葦のコンビが登場します。

葦矢(アシノヤ)
葦を以て作った矢。十二月晦日追儺の式に、方相氏が桃弓と併せ持ち、疫鬼を追ひ射たもの。

諸橋轍次 著 大漢和辞典『葦』大修館書店

追儺(ついな)は、疫鬼を追い払う行事で、日本でも宮中行事として行われた他、節分の豆まきのことを指すこともあります。

異なる場所に生息する桃と葦がコンビを組んでいるのが不思議な気がしますが、生命力が強く、水をきれいにする葦と、邪気を祓う桃は名コンビなのかもしれません。

いろいろ疑問がでてきます。
少しずつ調べていきたいと思いますが、昔の人は、植物が持つ力をよく理解していたんだな、と感心させられます。

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