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麦畑へ 3

前回の記事の続きです。

翌朝は6時出発。通勤時と全く同じ出発時刻で、特別感はまったくなし。通勤カバンの中味を入れ替えて、朝食と水筒の用意。鉢植えに水をやり、留守番の次女に行ってきますとご挨拶。

在来線から新幹線へ、また在来線へと乗り継いでいきます。

新幹線の窓の外。富士山が雲の中を行ったり来たり。この後の天気、大丈夫かな。
お、麦畑?気分がだんだん盛り上がります。

新幹線の中で熟読したのが、以前にもご紹介したこちらの記事。

琵琶湖の北西から竹生島まで、巳白さんが往来されていた頃のことを書かれた記事です。

屋根のない小さな船なので、水面近くをずっと走っていきます。
船の轍と飛沫。その光る瞬間。
島に着くまでは好きにしていて良いので(役得感)、
うまくその瞬間をとらえられるまで何度もシャッターを押しました。
写真撮る日、ドローイングする日、ぼーっと眺める日。
その日の気分で満喫できる贅沢な時間。

水面すれすれの場所で、思う存分シャッターを押す。
麦畑の次に行く竹生島は、これで行こう!
心はまだ見ぬ麦畑と竹生島の間を行ったり来たり。

麦畑への気持ちを盛り上げようと、爽健美茶を買いたかった娘は、結局お目当てをゲットできないまま、コーヒーをちびちびと飲んでいます。

そうこうするうちに、長浜に到着。9:30頃。
3時間半で着いちゃうんだ。

まずは念願の麦畑へ。
相方さんが、駅前に停まっているタクシーの運転手さんと交渉します。

「観光船が出発するまで2時間。
この時間を使って麦畑を見たいんです。
見ている間、タクシーを適当なところに停めて待っていていただけますか。」

交渉成立。回るべき場所は2ヶ所。annon さんが教えて下さったベストスポットへの行き方メモを運転手さんに見てもらいます。

喫茶店の角をまがって。
小学校の方に向かって。
この道路に出て。

地元ならではの、固有名詞付の具体的な指示に、ああ、わかるわかる、と頷きながら、
「すごいなあ、この情報」
と驚く運転手さん。

「あなたたち、どこからきたの?神奈川県?
神奈川県から麦畑を見にきたの?
僕は十年以上タクシーに乗っているけど、そんな人を乗せたの初めてですよ。
麦畑ね。普段からみているから、どこに生えているかわからないよ。」

どんどん滑らかになって行く運転手さんの口。
麦にまつわるいろんな話を聞かせてくださいます。
減反政策で、稲作から麦に変わっていった話。
米のコンバインを麦に使うと、あとで掃除を徹底的にしなければならず、麦栽培は意外に面倒だという話。

そうこうするうちに、車は田畑の中の細い道に入っていきます。

「いいんですか、こんなところまで入っていただいて。
もっと広いところで待っていていただいても。」
「大丈夫、落ちやしないから。」

軽快にハンドルを切って進みます。いやーすごい。匠の技。
そして、最初の目的地に到着。

「適当なところで待っているから、見ておいで。」

ありがとう!運転手さん。

田んぼ。
麦畑。
水路に生える水草。
鳥の声。
カエルの声。
そして蝶。

生命あふれる世界が広がっていました。

人の住む場所と、麦が住む場所が共存します。もっと田舎かと思っていたー。
空に向かって伸びていく。
首を垂れる稲穂とは、全く印象の違う麦の姿。
触ることはできなかったけれど、かたいのかな。

空気、風、音。

視覚的な景観に魅せられると思いきや、一ヶ所目のスポットで印象に残ったのは、音と肌感覚でした。
蝶が対になりながら舞い、終始、姿が見えないのどかな鳥の声に囲まれていました。

少し雲の多い日でしたが、時折思い出したように、風が麦の穂を揺らし、うねり、陽光をまといながら波打っていました。

まるで会話をしているよう。

麦って雄弁な植物だったんだ。

続きます。

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