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世界

以前、諸橋大漢和辞典の第一巻をめくっていて、「不」という文字に、そしてそこから「至」へと、たどり着いたという記事を書きました。

これが意外に面白かったので、もう一度やってみることにしました。
そして、たどり着いた字が「世」。世界の世か。これはいい!

大漢和では、説文解字を典拠とし、三十を表す部分と、右下に長く払われる部分を組み合わせ、三十年一世代、親のあとを継いでから子に引き継ぐまでの期間、ひいては世の中を指すとしています。

一方、ネットで調べてみると、もう一つ、白川静の説が出てきます。葉という漢字の中に世の字が含まれていることから、「世」は、分かれた木の枝に芽が出ている形を示す象形であり、そこから一生、生涯、寿命、世の中などの意味が生じたとするものです。

どちらの説をとるにせよ、「世」という漢字は、もともと人の一世代、一生、そして次世代に引き継がれる、というニュアンスを持っており、そこからさらに広い意味へと広がったようです。

次に「界」を調べてみました。

田んぼと、分かつを意味する介を組み合わせて、境を意味するそうです。

では世界とは?

世の字は人の一生、もしくは一世代。
人がいて、それを取り巻く空間、すなわち界がある。
それが世界なのでしょうか。

ちょっと話がそれますが、英語のworldも、もともとは人間を中心に置いた言葉で、人間の存在や人間の時代を表しています。

古英語のworuld、woroldは「人間の存在、生活の事柄」を意味し、また「長い期間」や「人類、人間性」も指します。これはゲルマン語派特有の言葉であり(中略)、文字通り「人間の時代」という意味で、プロト・ゲルマン語派の*weraldi-から派生したものです。これは*wer「人間」(古英語wer、現在もwerewolfで使用されています。virileを参照)と*ald「時代」(PIEルート*al-(2)「成長する、養う」から派生)の複合語です。

woridの意味、語源、由来、英語語源辞典・etymonline


大漢和の「世」の項目に、「世界」の定義がありました。

「世界」の定義は、この世、宇宙、天地から始まります。
そして、一番文字数を割いて、目を引く定義が5番目の仏教用語。
過去・現在・未来が世。上下四方が界。つまり、時と空間全体を指すのが世界、というわけです。


時と空間全体を表す世界。
そこに存在する人間が、次世代にバトンを渡すための時間は三十年。


三十年前の世界を思い出してみました。
インターネットの黎明期。私はその存在を職場で知り、ネットワークが世界をつなぎ、世界が変わる、と同僚が言った言葉にまったくピンときませんでした。携帯電話も存在はしていましたが、一般に普及するまで、もう少し時が必要でした。
湾岸戦争、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件。想像もできないような出来事が起き、渦中にはいずとも、それらの出来事の端っこに巻き込まれました。
近所の景色も、住む人も変わりました。

三十年は、世界の景色を変えるのに十分な時間です。
私が、三十年後の世界を見ることができるかどうかはわかりません。
では、その時に時代を背負っているであろう世代に、どんな景色を残すことができるでしょうか。

自分の時間が終わっても、次の世代に世界がつながる。
大きなことはできないけれど、私が一つ行動すれば、世界が少しでも良くなる。大きな時間の流れの中に、自分を位置づけて、日々の選択をしていければと思います。

おまけ

2つ記事を紹介させてください。

昼と夜の間を飛び交うような、蝶の様子を描写した句が投稿されていました。時間と空間の広がりは、身近なところで感じられるものなのかもしれません。

近所を歩いていても、前には見かけなかった植物が、いつのまにか勢力を伸ばし、当たり前の景色になっていた、というのはよく経験するところです。この関連で、印象に残っているのがこの記事です。


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