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鬼降る森 続き

その三十三番にわたる夜神楽の舞い方のひとつひとつを、歳のいった男衆が若い者に手とり足とり教えていた。人によっては舞い方を図解で説明した伝来の虎の巻を持っているが、滅多なことでは他人には見せない。口伝えと見様見真似と先達の薫陶によって、繰り返されてきたのである。

髙山文彦『鬼降る森』幻戯書房

高千穂の夜神楽を、ベテランが若い世代に伝える一節です。
膨大な時間をかけて教え、教わった結果、神楽の担い手たちがどのような存在になるかが次に書かれます。

高千穂では「奉仕者」と書いて「ホシャドン」と呼ぶ。神々に奉仕する者、という意味だけではなく、この地により集う人びとの恵みが豊かなれと願う、地に奉仕する者でもある。いわば天と地のあいだに立ち、舞を舞い、音を奏でることによって、天と地のあいだを往還する神人といえる。

髙山文彦『鬼降る森』幻戯書房

人ならぬ世界の舞を人に伝え、土地の中で伝承していくことは、まさに天と地のあいだを往還するということだな、と思います。


この本は、たしか朝日新聞のコラム「折々のことば」で知りました。
たった一行紹介されていた文章に惹かれて手に取った本でした。

いつかこんな文章が書けるようになるのでしょうか。
こんな境地で舞えるようになるのでしょうか。
とてもそうは思えませんが、目指したいところが見えた気がします。

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