孟冬の揺らめき

濡れたイチョウの葉を踏みしめた匂いが、

舞い上がって寒空に消えていく。


何度も嗅いだ匂い、何度も感じた感覚。

今日も灰色で何もかも包み隠すような曇天の世界を、狐のようにずる賢く生き延びる。

かつては彩度が高く透き通って見えた、そんな景色も今ではくすみきっていて

どうやったらあの頃の薄く青みのかかった半透明を取り戻せるのか躍起になってもがいて、もがいて

それでも思い出せなくて。

押し寄せる感情の波に冷えきったからだじゃ、耐え切れる訳もなく。




足元が冷えて仕方がないとふと視線を下ろすと、

濡れたイチョウの葉を踏みしめた匂いが舞い上がる。

何度も嗅いだこの匂い

くすんだ世界に無理矢理色をつけるように

ゆらゆらと、立ち上る。

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