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【映画の感想#21】聖の青春

私が本当に熱心に将棋を見ていた時代に、村山聖という将棋の棋士がいた。大柄で何となく見た目が不精で、愛想も微妙な感じで、ちょうど野球の伊良部投手みたいな感じだった。元々将棋界って変わり者が多いけども、羽生さんのようなスタイリッシュな棋士も増えてきた時期で、私はちょっと苦手なタイプの棋士だった。

でも将棋の腕は素晴らしく、間違いなく当時の将棋界を引っ張る一人であった。特に「終盤は村山に聞け」と言われるほど終盤の読みは鋭く、プロ棋士からも高く評価されていた。定跡に名前を残すまででは無かったけども、当時人気のあった横歩取りという戦法ではたくさんの新手を繰り出していて、ファンとしてプロ棋士の凄さ、定跡が作られていく様子を楽しんで見ていたのをよく覚えている。

しかし非情にも、村山は幼い頃からネフローゼ症候群という肝臓の病気を患っていた。そのためずっと病魔との戦いをしつつ棋士として将棋を指していた。そして29歳というまだまだこれから活躍する年齢で亡くなった。当時、週刊将棋という将棋の専門紙でこの訃報を知りびっくりしたのを思い出す。この頃は村山が病気持ちだと知っていたけれども、これほど重い病気だとは知らなかったので衝撃的だった。後に彼の生き様が書かれた小説が出版され、壮絶な人生を知った。そしてこの作品はその映画版である。

ここまで書いた通り、本当に自分が見てきた人間で思い入れの強さもあり、役者が演じるのを見て納得できるのか自信がなくてこれまであえて見ていなかったのだけど、評判の良さを聞いていたのでそろそろ見てもいいだろうという事で見た。

将棋の棋士も凄いけど、役者も凄いなと感激した。村山聖を演じた松山ケンイチ、羽生善治を演じた東出昌大の二人の演技がとてつもなくすごい。もちろん似ているとはいえ本人との区別はつくけれども、その人が発するオーラみたいなものが完全に本人としか言い様がない。村山の師匠である森信雄七段がロケを見学しに来た時に、村山が戻ってきたと思ったのも頷ける。

ついでに言うと、この村山の師匠の森信雄を演じたのがリリーフランキーで、これもまたよく似てる。みんなカッコよくなって映像化されているようで、ちょっとほのぼのした。大変静かな、あまり起承転結のない作品なのだけれども、この二人の仕草はずっと見ていられる。私にとっては懐かしさを感じる作品で、何となく嬉しかった。

なお本作は所々作り話の部分があるようだ。この作品に対して将棋ファンから指摘されていたりするけど、当時の記事など読んだ記憶では、概ね考えていた事は間違っていないのではと思う。私としては演出程度のもので、逆に当時の雰囲気をよく描けていると思うので、そういうコメントは気にせずに見て頂けたら将棋ファンとして嬉しい限りだ。

#映画 #感想 #聖の青春 #村山聖 #羽生善治 #松山ケンイチ #東出昌大

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