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長女の初お遊戯会、「やきそば」を演じることに

突然の宣告 

「あのさ~!パパ~!あのさ~!焼きそばすることになった!」

 大変なことである。筆者の長女は幼稚園の年少さんになった。よくありがちな近所にあるキリスト教系の幼稚園に通っている。

 とにかく声がデカイ。家中に声が響き渡る。どこまで行っても追いかけてくる。風呂に入りたくない!ということをなだめすかして一緒に風呂に入ろうとすると「オキンタマ見せて!」とトンデモナイしてくる。我が娘ながらちょっと怖い。

 そんな長女だが、幸いなことに毎日楽しそうに幼稚園へ行く。「あ~やばいやばい!急がなきゃ~!」と言いながら、近所に止まっている乗用車のナンバープレートに書いてあるひらがなを全部読みながら行く。野に咲く花に見とれながら歩く。マイペースは良いことだと思うが、親としてはいささか心配になることもある。

 先述したとおり、長女の幼稚園はキリスト教系の幼稚園なので、クリスマス会を盛大にやるらしい。クラスごとに出し物があるようだ。(コロナになってというもののそもそも保護者が園に行くことが少なく、実態を把握し切れていない)

 年少さんと言えば3~4歳のクラスなので配役はあらかじめ決まっていた。その配役がまさかの 

 やきそば

 この世には色んな人がいる。生まれや職業で差別されることがあってはならないし、筆者はわりとそういうのに寛容な立場を取っている。だが、まさか長女の初めての配役が「やきそば」になるとは思わなかった。



■「青のりや紅ショウガを使えばイケる」


 あまりのことに面を食らったが、やきそば女優は嬉々としてそのことを語るので、筆者は傷つけまいと大変気を遣いながらこういった。

 「青のりとか、紅ショウガとか、衣装イケてる感じになるね」

 なにがイケてるのかは全く分からないが、本人は「そうだね~。ママがつくってくれるんだよね~」と極めて前向きに捉えていた。

 我が娘ながら、才人である。

■「やきそば」はかわいいか

 妻(元風俗嬢の元ヤン)も筆者に報告してくる。
「クリスマス会でやきそばやるんだって!かわいくね!?」
 なんだかうれしそうである。

 筆者は「やきそば」に目玉焼きがのっているか否か、ソースか塩か、カップか鉄板焼きかくらいは気にしたことがあったが、やきそばがカワイイかどうかは考えたことがなかった。もっとも、日本のある側面の「美」はカワイイとして国際的な人気を誇っているし、そもそも筆者の家は女ばっかりなので、そうした価値観を持っていない方がおかしいかもしれない。

 だが、「やきそば」……?

 こう見えても、筆者はそれなりに教養がある。もちろん、大学時代にそれなりに勉強したというのもあるが、近年はたくさん多くの本を読んでいる。子どもたちを芸術に触れさせようと、それっぽい人が沢山いる街に引っ越したりもしている。
 

 だが、舞台芸術の世界でも、アートの世界でも、おそらく「やきそば」がしゃべる定番はないはずだ。しかもこの配役は先生が決めているというのだから、脚本がすでに完成されており、「あまつぶさんところの長女にはやきそばがピッタリ」と誰かが考えたはずなのだ。前衛芸術である。

 赤瀬川源平や篠原有司男などが関わった「ハイレッドセンター」やマリーナ・アブラモヴィッチなどの前衛芸術のブームはとうに過ぎたが、今、海外で再評価の向きが出ているという。そういたブームを捕まえた「焼きそば歌劇」が今、繰り広げられようとしているのだ。

 もちろん、幼稚園のお遊戯会の話なので、脚本は手元に届かないだろう。みんなでいっせーのせで練習するのだろう。しかし、どんな文脈でやきそばが登場するのか、やきそばまで引っ張り出してきて、その話をどのように収集をつけるのか。これは腕の見せ所である。

 3歳にしてこの国の前衛を任される長女が、若干不憫であることは確かであるが、これからの世代はなんでも挑戦していかなければ行けない世代である。仮にその道がやきそばであっても、父は背中をぽんと押すだけだ。

 がんばれ、長女。

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