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日本神話好きの「君たちはどう生きるか」考察妄想


今回はアオサギについて。

この作品は恐らく様々なモチーフやモデルがある中で、日本神話のみに注目した考察になります。
全てがこの考え方だと主張するものではなく、こんな要素もあるよねという優しい目で見てください。
私の考察という名の妄想話・独自解釈なので、それでも良ければ目を通していただけると嬉しいです。
作品内のセリフやシーンを書いているところもありますが、うろ覚えですので完璧には再現できていません…


前回↓


以下ネタバレあります。


アオサギのモデル

①鳴女

ベッドの上で目が覚めた眞人は、屋根の上にいるアオサギの足音に気がつき、木刀を持ってアオサギを追いかけます。
庭の池に降り立ったアオサギは「母上の元へお連れしましょう。」と、眞人を異世界に誘います。
眞人が飲み込まれそうになった瞬間、ナツコが弓矢でアオサギを威嚇し、異世界に引き込まれるところを阻止します。
眞人は正気を取り戻し、異世界に行くことはなく、ベッドの上で目が覚め、全て夢であったことに気づきます。

このシーンによく似た話が日本神話にあります。

天若日子(アメコワカヒコ)は大国主神の娘下照比売(シタテルヒメ)と結婚し、葦原中国を得ようと企んで8年たっても高天原に戻らなかった。そこで天照大御神(アマテラスオオミカミ)と高御産巣日神(タカミムスビ)は雉の鳴女(ナキメ)を遣して戻ってこない理由を尋ねさせた。すると、その声を聴いた天佐具売(アメノサグメ)が、不吉な鳥だから射殺すようにと天若日子に勧め、彼は遣わされた時に高皇産霊神から与えられた弓矢(天羽々矢と天之麻迦古弓)で雉を射抜いた。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/アメノワカヒコ


こっちの世界(葦原中国)にいる眞人(アメノワカヒコ)に、あっちの世界(高天原)へと誘うアオサギ(ナキメ)。
それを弓矢で撃退する。

厳密には異なる点もありますが、日本神話好きにはこのシーンがアメノワカヒコの神話によく似ているように見えました。

また、夏子の放った矢が鳴鏑だったことから、八咫烏のお話の要素もあるように思いました。

『古事記』では兄宇迦斯・弟宇迦斯兄弟に神武天皇への帰順を求めるために遣わされるが、兄に鳴鏑で追い返されたとされる。一方『日本書紀』では兄磯城・弟磯城兄弟にそれぞれ帰順を求め、兄には「聞天壓神至而吾爲慨憤時、奈何烏鳥若此惡鳴耶。」と言われ弓矢で追い返されてしまうが、弟はこれに恐れて「臣聞天壓神至、旦夕畏懼。善乎烏、汝鳴之若此者歟。」と言い、葉盤八枚に食べ物を盛って烏に献上した。それで烏は神武天皇のもとへ戻り、兄磯城に反抗の心がある旨を報告したと伝えているなど、両書の伝承に若干相違がある。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/八咫烏


②八咫烏

眞人に追い詰められたアオサギ。塔の上層階に大叔父が登場し、アオサギに向かって「愚かな鳥よ、お前が案内しろ。」と言って退場します。
アオサギの力によって下の世界(根の国)に到着。
旅の途中、眞人に「お前の仲間でも友達でもないんだよ」と言いながらも、嘴の穴を眞人に塞いでもらったりしながら、旅を続けます。
眞人とヒミがインコに捕まってしまった時もアオサギはインコの巣(?)に潜伏し、助けてくれます。
アオサギは物語の最後まで眞人を助けてくれる存在でした。

八咫烏は、日本神話に登場するカラスであり、導きの神。神武東征の際、高皇産霊尊によって神武天皇のもとに遣わされ、熊野国から大和国への道案内をしたとされる。一般的に三本足の姿で知られ、古くよりその姿絵が伝わっている。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/八咫烏

まず、大叔父がタカミムスビというほうが簡単かもしれません。

高御産巣日(タカミムスビ)とは、
日本神話の冒頭より、天地開闢の時に、天之御中主神(あめのみなかぬし)神産巣日神(かみむすび)と共に出現した造化三神の一柱です。造化三神はいずれも性別のない神、かつ人間界から姿を隠している「独神(ひとりがみ)」とされていますが、一説には神産巣日神を女神、高御産巣日神を男神とする説があります。

またタカミムスビは、アマテラス大御神より優位に立って天孫降臨を司令しているため、本来の皇祖神だとする説があります。

ヒミは火を扱う巫女のような存在だったため、アマテラスをモデルにしていたとすると、
ヒミと大叔父の関係は、アマテラスとタカミムスビの関係とよく似ています。

さらにタカミムスビは、自分の子孫である瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に大和を平定して欲しいと願っていました。後にイワレビコ(神武天皇)が大和を平定するのですが、
眞人がニニギ、イワレビコだとすると、大叔父=タカミムスビであると言えると思います。

また、大叔父の居た世界(高天原)が崩壊した際に、背景が宇宙であったことも、タカミムスビが天地開闢の原初的な存在(=宇宙創生など)であったからだと説明できます。

つまり、タカミムスビである大叔父に道案内を命じられたアオサギは八咫烏であり、眞人はイワレビコと言えると思います。


画像はイメージです



アオサギの見た目について


物語の内容から察するに、鳥の種族は「出雲系」「スサノオ」の家系であることを示しています。(以下、国津神とします。)
そして、人である眞人やヒミ、大叔父などは「アマテラス」の家系を示しています。(以下、天津神とします。)


八咫烏は事代主やアヂスキタカヒコネと同一視されており、どちらも大国主(国津神の主宰神)の息子にあたります。
大国主は記紀通りだとスサノオの息子、もしくは六代目の子孫となっています。

スサノオは根の国の支配者となっており、大国主はアマテラスへの国譲りの後に幽冥界の主となっています。
つまり、国津神は下の世界へ追いやられているのです。

鳥=国津神だとすると、鳥が下の世界に追いやられていることともリンクします。


そして、アオサギの正体が仮説通り「八咫烏」であるとすると、「鳥」でありながら「人」の味方に着いたアオサギは、
「国津神」でありながら「天津神」の導き手として暗躍した八咫烏の関係に非常に類似します。

アオサギが元々鳥サイドだったことは、作中でも確認することができます。

ヒミと眞人は、インコの巣の中で石の壁に触れようとすると電流のようなものが走りました。ヒミが「手で石に触れるな、石は私達を歓迎していない。」と注意します。
つまり、ヒミと眞人は下の国(根の国)を拠点とする鳥達にとっては敵、部外者なのです。

逆に、大叔父の居る上の世界(高天原)にインコ大王とインコの家来達が光る道を通る時は、鳥達はビリビリと結界か呪詛かの力を受けていました。
これは上の世界にとって、インコ達は部外者ということです。

同様に、上の世界に行くためにアオサギと眞人が光る道を通っていた時、眞人は光る壁の影響は受けていませんでしたが、アオサギはビリビリと受けていました。
つまり、アオサギは鳥(国津神)だから結界の影響を受けていたということが分かります。

また、序盤で眞人がペリカンに襲われたシーンでも、キリコが眞人に持っている矢を見せるように言われたシーンでも、「アオサギか、通りでペリカン達がお前を食えなかったわけだ」と笑います。
これも、アオサギは鳥という仲間だからペリカン達は食べられなかったのかもしれません。

作中で何度も「アオサギは嘘つき」というのも、天津神のスパイだった八咫烏のことを言っているように感じました。

これらのことから、「人」と「鳥」で敵味方が明確に区別されており、
アオサギは「鳥サイドの裏切り者」というイレギュラーな存在だったことが分かります。

先程の神武天皇の東征神話から分かる通り、出雲の王である父の大国主を裏切り、神武天皇を大和まで導いた八咫烏とアオサギはかなり関係が似ています。

それを裏付けるかのように、アオサギのビジュアルは人か鳥か分からないような見た目と、大きな鼻が特徴的です。
出雲の祖であるスサノオはイザナギの鼻から生まれました。

磐座の産屋について


眞人とヒミは、ナツコが横たわる磐座に辿り着きました。
ヒミは「私は入らない、ここで待っている。」と言い、眞人だけが産屋に入ります。
眞人がナツコに呼びかけると、ナツコは「どうしてここに居るの!」「貴方なんか大嫌い!」と激怒します。
顔や体に貼り付く紙垂を払いながら、眞人はナツコに「母さん!」と呼びかけます。
その言葉にはっとしたナツコは「ここから逃げて!」と叫びます。眞人は紙垂に磐座の外まで追いやられ、ヒミと共に磐座の奥の何者かの波動にやられ、気絶してしまいます。

産屋に入るという行為は神話において有名な禁忌です。

出産に望んで、豊玉姫は火折尊に「妾産む時に幸(ねが)わくはな看(み)ましそ」と請うた。しかし火折尊は我慢できず、ひそかに盗み見た。豊玉姫は出産の時にヤヒロワニ(『古事記』では「八尋和邇」、『日本書紀』一書では「八尋大熊鰐」)となり、腹這い、蛇のようにうねっていた(『古事記』)。

豊玉姫は恥じて、「如(も)し我を辱しめざるならば、則ち海陸相通わしめて、永く隔て絶つこと無からまじ。今既に辱みつ。将(まさ)に何を以て親昵なる情を結ばんや」と言い、子を草でつつんで海辺にすてて、海途を閉じて去った。これにより、子を彦波瀲武鸕鶿草葺不合尊と名付けたという。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/トヨタマヒメ

この神話になぞると、「ナツコ」は「豊玉姫」になります。
豊玉姫はオオワタツミ(海の神)の子、つまり国津神になります。
日本神話上では国津神と天津神は結婚して交わることで和合するという政略結婚・出産によって国同士の繋がりを結んでいました。

恐らくきみどうの世界では、人とインコ達が出産することで二つの氏族が交わり結ばれるという、大事な儀礼だったのではないでしょうか。

それを覗き見るという禁忌を犯した眞人は、いくら大叔父が大切にしていた存在だとしても、鳥達にとっては見過ごすことができなかったのです。

ちなみにこのシーンで、インコ達は明らかに大叔父を自分達より上位の存在として接していました。
これも国津神<天津神の力関係が表れています。

作中で大叔父は「殿様」で、インコ大王は「王様」でした。
殿様は地方の統治者を指す言葉で、王様は国の統治者です。

このことから、元々インコ大王は世界の統治者であり、大叔父は一部の統治者だったと分かります。
まるで国を譲り渡す前の大国主と高御産巣日の関係かのように思えます。

インコ大王(大国主)が過去に統治していた世界を、大叔父達(天津神)に譲り渡した後、鳥達(国津神)は下の世界(根の国)に飛ばされ、人(天津神)と交わることで種の存続を望み、世界の平和を願いました。
しかし、その大事な儀礼を天津神である眞人が台無しにしたのです。

敵であるはずのインコ大王が「世界を守らねばならん、このままだと滅びるぞ。」と発言をしたことには、こういった理由があったからではないでしょうか。

赤…天津神、青…国津神


ヒサコのモデルについて

しかし、この説を読み進めていくと、ナツコは人間なのに国津神だったという説は矛盾しているかのように思えます。
ここがこの作品の難しいポイントだと感じています。実はナツコだけでなく、ヒサコ(眞人の母親)も国津神としての要素を持っています。

木花之佐久夜毘売は一夜で身篭るが、邇邇芸命は国津神の子ではないのではないかと疑った。疑いを晴らすため、誓約をして産屋に入り、「天津神である邇邇芸命の本当の子なら何があっても無事に産めるはず」と、産屋に火を放ってその中で火照命(もしくは火明命)・火須勢理命・火遠理命の三柱の子を産んだ(火中出産を参照)。火遠理命の孫が初代天皇の神武天皇である。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/コノハナノサクヤビメ


コノハナサクヤヒメはオオヤマツミ(山の神)の子であるため、豊玉姫(つまりナツコ)と同じ国津神になります。

映画の終盤にヒミが眞人に現世に戻る扉に入るところを止められた時、
ヒミは「火は平気だ。素敵じゃないか!眞人を産んで死ぬなんて。」と笑顔を見せます。このシーンから家事で焼け死んでしまったヒサコは、コノハナサクヤヒメをモデルにしていると考察できます。

つまりヒサコとヒミは同一人物ですが、
葦原中国(現世)のヒサコはコノハナサクヤヒメ
根の国・高天原(あの世)のヒミは天照大御神
とモデルにしている神様が違います。

ヒサコやナツコという「現世の女性の人間」は国津神であり、男性とヒミは天津神なのです。


ちなみにニニギとホオリはノンデリエピソードが有名なのでそこも眞人のお父さんっぽさを感じました。笑


産屋の奥のいる謎の存在が一番謎なのですが、ここが一番分からないように描かれているのも古神道好きからしたらたまりません!
古神道日本神話でも厳重に隠されているあの神様かな…?


以上、妄想たっぷり駄文考察まとめでした。

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