最前列で観劇をした話①/雪組宝塚大劇場公演『Lilac(ライラック)の夢路』-ドロイゼン家の誇り-

宝塚は席種にこだわりなく公演中一回は見られたらいいな、という位のライトファンなので
まさか最前列のお席が当たるという幸運が我が身に降りかかるとは思ってもみなかった。
私は何度目かの、同行した母は初めての宝塚大劇場。
心躍らせ席についた最初の感想は、
もちろん「近い」しかなかった。
センターのやや上手寄りのお席で、
眼前には銀橋、見回さないと全貌が見えない緞帳、振り向かないと見えない時計。
母と共に喜びはしゃいだが、内心
(これはどうなってしまうんだろうか……)
と期待と共に恐怖のような感情も抱きつつ、開演を待った。


奏乃組長のアナウンスと共に幕が開き、
初舞台生の口上が始まる。
今回の観劇での楽しみのひとつだ。
初々しくも堂々とした姿に、輝く瞳に心打たれる。
美しい立ち姿、爽やかな歌声。
109期生の皆さんの希望に満ちた表情に、
私も彼女たちの未来に幸多からんことを願った。

一度幕が下り、彩風咲奈さんのアナウンスで芝居の幕が開いた。
白い乙女たちの清らかでかろやかなダンス、
登場した朝美絢さんの凄まじい美々しさを覚えている。
(正直後で起こることの鮮烈さが強烈すぎたため
記載する内容に間違いがあるかもしれないが御容赦願いたい)
美穂恵子さんと雪組が誇る歌姫たち演じる夢人が誘う幻想的な導入からはじまり、
夢から覚めた彩風咲奈さん。ポスターにもなっているワイン色の衣装が華やかでとてもよく似合っており、このシーン以降の衣装も実に品がよくおしゃれで、それらを着こなしているのは流石。
笑顔が眩しい和希そらさん、
あのグリーンとマスタード色の軍服がプロイセンの史実の軍服と同じなのかはわからないけれど、
配色のおかげか軍人でも厳格すぎないイメージで役のイメージと合っている。
朝美絢さんのダークブルーと黒のストライプの上着とグレーのズボンは
和希さんの軍服と対照的に官僚的な真面目さをよく表現しているように感じた。
この赤、青、緑の色の対比が美しいな〜と思っていたら
それらが仲良くわちゃわちゃしながら上手から銀橋に走り込んできてしまった為
思わずワッ…と声が出て私はちいかわと化した。
朝美絢さんが通過していき、彩風咲奈さんが通過していき、見上げればそこに和希そらさんが踊っており、
三美神の降臨に私はただそれを口を開けて仰ぎ見るしかなく、
まだ始まって間もないのにこのまま美しさを浴び続けたら心が保たんぞ、と思ったが、
なんか鉄の良さについて歌ってるな?と気づき、三人が下手側に踊りながら移動したこともあってだいぶ冷静になれた。


ライラックの夢路、良いお芝居だった。
おや?思ったのは、終盤夢白あやさん演じるエリーゼがまとまった資金を得られるだけの鉄製のアクセサリーを徹夜で作ったというくだり。
細かい細工のあるペンダントのように見えたので、ペンダントトップだけだとしても一日でそんなに量を生産できるのかな?
急にハインドリヒから鉄でアクセサリーを作ってみたら?と雑な提案をされて実際やってみるエリーゼ、
バイオリンの名手であるだけでなくアクセサリー作りにも才能を発揮し、同時にフランツとディートリンデの仲を取り持つなど超人が過ぎる。
ポスターの印象だとエリーゼは儚げなイメージだったけれども、良い意味で裏切られた。

一禾あおさん演じる四男ランドルフの出番が少なめだったのが残念だったけれど、その中でも生き生きと演じられていたと思う。
叶ゆうりさん、恐妻家の貴族のおじ様のお役で、奥方の買い物の箱をたくさん抱えた姿、細かいお芝居がかわいらしくも小気味良かった。
聖海由侑さん、製鉄所の職人の若者を快活に演じておられて、今後の活躍を楽しみに注目している一人。

最前列だからこそ見える表情や場面、息遣いや音を感じられたのは本当に貴重な経験だったと思う。
終わった瞬間ため息が漏れた。
美への感嘆と礼賛がこもったため息でもあるし、
第2部への期待と緊張でもあった。

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