137番「写真撮影によるカメラマン 奈子」(平日午前~午後)

 フェリシーにはチェキという特典が存在する。

 チェキは一般的なインスタントカメラに加えてプリンター機能をそなえたカメラのことで、その場一枚かぎりの思い出を記録できるものとして、日本では人気のカメラである。

 メイドリフレクソロジィとしてのお店の方針としては、施術を何よりも重んじているのであるが、お客様としての要望、そしてメイドたちからの願いもあり、四年ほど前からチェキの販売や特典としての提供をつづけている。

 メイドさんとの思い出の一枚、ぜひ心のフィルターに保存してみませんか。

 ということで

 わたしことアカリは朝からチェキトレーニングもとい、チェキ撮影に励んでいた。

 ・・・撮れない。。。

 チェキは見た目のポップな可愛さとは裏腹に撮るのがむずかしい。

 これはだれかに訊かないと分からないかも。。

アカリ「もこさん、チェキの取り方わかりますか」

もこ「ん? チェキの撮り方?」

アカリ「そうです。チェキカメラがうまく撮れなくて」

もこ「そっかぁ。なるほどね。どんな感じに撮れないの?」

アカリ「えっと、どうしても暗くなっちゃって」

もこ「うんうん。それなら、私よりも奈子ぴに聞いてくれる?」

アカリ「奈子さんですか」

もこ「そそ。奈子ぴはプロだから。私もよく撮影ではおせわになってるしね」

アカリ「そうなんですね。聞いてみます」

 今日の奈子さんは午後から出勤のはずだ。待ってみよう。

 ガチャリ。

 玄関ドアの開く音がした。

 あ、奈子さんだ。

 奈子さんは休憩室に入り支度をする。

 私は奈子さんにすぐ聞けるようにチェキの準備をすませる。

アカリ「奈子さん、今日もお綺麗です」

奈子「あら。今日は丁寧ね。ありがとう。わが息子」

アカリ「息子じゃありません。アカリです」

奈子「あらあら」

アカリ「奈子さん、チェキの撮り方教えてください」

奈子「あらあら、このわたしに教えをこうのかしら」

アカリ「はい。もう奈子さんに頼る他ないので」

奈子「そう。。なら、息子」

アカリ「はい?」

奈子「いわなくてもわかるでしょう」

もこ「奈子さんにはプレゼントが有効ですよ。アカリちゃん」

 もこさんが後ろから小言でわたしに教えてくれる。

アカリ「わかりました。こんどお持ちいたします」

奈子「アカリは素直でいい子ね。私のもちうるテクニックを教えてあげるわ」

 こうして、奈子さんの推し活との対価にチェキ講座を受けられることになった。

奈子「アカリ! そこで、タッチ、ターン、ジャンプよ!」

アカリ「え、えとコレに何の意味が」

奈子「いいから私の言う通りになさい!」

アカリ「は、はい!」

 私は奈子さんにチェキを撮るためのレッスンを受ける。

 アイドルのように可憐な笑顔で

 さらに

 ヨーロッパ貴族に仕えるように優雅に上品にターンを踏み

 そして

 バレリーナのようにふわりと舞う

 そうそれはまさしくメイドの鏡・・・

奈子「はい! カットォォ! 素晴らしいわ! アカリ! 
あなた才能あるわっ!」

 奈子さんが興奮を露わに私につめよってくる。

アカリ「はぁはぁ」

 奈子さんの演技指導の熱に促され、必死の演技に邁進する。

アカリ「あ、あの、奈子さん」

奈子「アカリ! 口ごたえしない!」

アカリ「は、はいぃ!」

奈子「次は腕の振り付けね。燃えてくるわ」

 こうして奈子さんと私とのレッスンは丸一日中つづいた

奈子「よくがんばったわね。これ以上わたしから何も教えることはないわ」

アカリ「はぁはぁはぁはぁ。やばい、激しい。。それと何かちがうような。。」

奈子「今日はここまでにしましょう」

アカリ「あ、あの、奈子さん。。私アイドルになりたいわけじゃなくて」

奈子「え? あら、そうだったの? なら、なんで私のところにきたの」

アカリ「チェ、チェキの撮影の方法を聞きたくて」

奈子「何ですって? チェキ? それならそうと早く言いなさいな」

アカリ「なんども言おうとしたのに」

 一日を通してアイドルの基礎訓練が身についた。

 このスキルは使い道はあるのだろうか。

奈子「いや、考えてはだめよ。感じるのよ」

 奈子さんは強い。


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