29番→193番「先輩たちはTwitterもやっていてスゴイ」(夜~翌日出勤)

 誰かのために尽くす。それはとても素晴らしいことだ。

 けれど、

 誰かのために尽くし続けることはとても難しいことだ。

 私は先輩方のようなメイドになれる日は来るのだろうか。

 私は自分の部屋のベッドの枕に顔をうずめながらTwitterを眺める。

アカリ「今日も先輩方はTwitterにいらっしゃるなぁ」

 今の世の中、はなれていてもネットで繋がれる時代だ。

 便利ではあるけれど、便利であるがゆえに現実とプライベートの差がうすいとも言える。

 私はそのまま眠りについた。

アカリ「私には先輩方のようになにか良いところなんてあるのかなぁ」

 翌日、私は奈子さんと出勤日が重なった。

アカリ「私はプライベートはプライベートでゆったり過ごしたいなぁ。なんで先輩たちはあんなにも楽しそうに過ごせるんだろうか。やっぱり上辺だけなのかな、メイドさんなんて」

 私はぼそっとそんなことをつぶやいていた。

 帰宅後もお客様サービスの素晴らしいフェリシー。また急な体調不良もきちんと報告する、連携スピード。

奈子「あら。私の息子、なにかあった?」

アカリ「息子じゃありません。アカリです。いえ、先輩方はすごいなぁって思ってて」

奈子「なになに。もしかして、私に惚れちゃった? もう、アカリちゃんってかわいいんだから」

アカリ「・・・」

奈子「なんて、冗談よ。なにか悩みがあるなら話しちゃいなさいな。チョコミン党の私にできることならなんでもするわ!」

アカリ「あ、だったら、セクシーポーズを」

奈子「だめよ。アカリ。推し活は課金から始まるのよ」

アカリ「・・・」

奈子「って、冗談はこのくらいにして、さて話を聞きましょうか」

アカリ「えっと・・・、先輩方ってスゴイって話です」

奈子「わたしからしたら、アナタの方がスゴイと思うけれど」

アカリ「え?」

奈子「アナタ、右も左も分からないのに、他の新人と同じように研修を受けて今ここにいる。私だったら、怖い怖い言って動けないと思うの。だから、辞めずにここにいるアカリちゃんは素晴らしいと思うわ」

アカリ「で、でも・・・! 私は、もこさんや奈子さんみたいにTwitterでファンサービスなんて出来ないし。。」

奈子「・・・なるほどね。アカリはそう思っているのね」

アカリ「・・・はい」

 奈子さんがいつになく真剣な眼差しを私にむける。それはいつもの茶化してくる奈子さんではない。

奈子「アカリちゃんにとって、また行きたくなるお店ってどんなところ?」

選択肢
①店員さん同士の仲が良い
②値段が良心的であること
③お客様を大事にすること

①店員さん同士の仲が良い

アカリ「店員さん同士の仲が良いお店には行きたくなりますね」

奈子「そうね。店員さん同士、仲がいいとお店の雰囲気がよくなるものね」

アカリ「でも、なんだかアットホームすぎて逆にこわいかも」

奈子「あらあら。そういう側面もあるかもしれないわね。じゃあまた行きたくなるお店ってどんなところ?」

②値段が良心的であること

アカリ「お店の値段が良心的であることですかね。やっぱり少しでも安いところがいいですし」

奈子「そうねぇ。でも、最低限のマナーは必要だと思うわ。でも、値段でそのお店が良いか悪いかなんて判断はできると思う?」

アカリ「うーん。一回行ってみないことには分かりませんね・・・」

奈子「そうね。だったら、値段よりも大切なことって何かしらね。また行きたくなるお店ってどんなところかしら?」

③お客様を大事にすること

アカリ「お客様を大事にすることですか」

奈子「そうね。お客様は神様とも言うから。でも、お客様にずっと従ってばかりいるとどうなると思う?」

アカリ「えっと、人間として扱われなくなる?」

奈子「ふふ。そうね。そこまでひどいことをする人はマレだと思うけれど、図にのってあれやこれやと無理難題を言うお客さんに遭遇しそうよね。だったら、また行きたくなるお店ってどんなところかしら?」

アカリ「んーーーー。」

 私は私の中にあった答えをすべて言ったつもりだけれど、奈子さんの中ではどれも的を射ていないようだ。

奈子「アカリの言った店員さん同士仲がいいこと、値段が良心的であること、お客様を大事にすること以上に大切なことがあるわ」

アカリ「え、なんですか」

奈子「何かしらねー」

アカリ「え、そこはごまかさないでくださいよー」

奈子「アカリから見れば、私やもこがTwitterでやっていることはただのファンサービスと映るのでしょうね」

アカリ「はい。そうですそうです。だから、プライベートまで時間を割いててスゴイなぁ。って思ってます」

奈子「そうねぇ。でも、私、ファンサービスなんて一回もしてないわ」

アカリ「え」

奈子「私は私らしくあるだけ。ただそれだけよ。アカリちゃんにも何か好きなことはないの? わたしたちはただ素を出して、それをファンであるお客様と一緒になって楽しんでいるだけなのよ」

アカリ「え・・・。そんなことって良いんですか」

奈子「そんなことも何も。好きなことをして好きなことを認めてもらえるなんて、人生楽しいじゃない」

アカリ「それもそうですけど。でも」

奈子「でも、じゃない。素を出すのよアカリ。最初はたしかに恐いかもしれない。だけど私という個性を好いてくれる人は必ずいるわ。その時を願ってただただ素でいることを受け入れればいいのよ」

アカリ「・・・」

奈子「アカリは、自分に噓をついたままで接客をされて嬉しいと思う? 店員さんが仮面をかぶったまま接客をしてきたらどう思う?」

アカリ「私はそれでも、仕事だからいいと思います」

奈子「そうねぇ。そういう考えも一理あるわね。なら、もし自分の友人が仮面をつけて話してきたらどう思う?」

アカリ「・・・それは何だか距離を置かれている気がして、嫌です」

奈子「そうそう。そういうことよ。ということは、アカリちゃんは普段からどうしたらいいと思う?」

アカリ「私は・・・、気丈にふるまうのではなく、私らしく生きたらいいんですか」

奈子「そうそう。そういうことよ。分かってるじゃない。アカリちゃんはアカリちゃんにとっての理想を胸に抱えていきていけばいいと思うの。そこに正解はないし、私たちメイドだって各々抱えている理想象は違うわ。大丈夫、アカリちゃんのように悩めるということはそれだけで気遣いのきく良い子であるという証拠だわ。ただただ働きにきている子は悩まないもの」

アカリ「そういうものなのでしょうか」

奈子「そうよ? 一度胸に手を置いて考えてごらんなさい」

アカリ「はい」

奈子「良い子良い子」

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