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8.3 なんで空の写真を撮っちゃうんだろう

 何かを覚えておきたい、という気持ちを人はどれくらい抱くものなんだろう。あてもなく車を走らせて、気がついたら人里から遠く離れていたなんてことがよくある。山際のゆらぎ。深い土の匂い。車を降りた時のひんやりとした湿り気に感動しながらも、この感覚はまた味わえるものだと私はもう知っている。知っていても出会うたびに美しいと思う。その喜びを忘れる前にここへまた来れるという安堵は、大人になってから覚えたものだ。
 思春期の頃はもう、空がきれいと思うたびに自転車を停まらせて写真を撮っていた。高校からの下校時、空は大体綺麗なもので、同じような写真ばかり携帯に保存されていくことに少しがっかりした記憶がある。あんなに特別で二度と出会えないと思った景色は、結構普通にエンカウントできるものだった。それ自体は喜ばしいことのはずなのに、なんだか不服だったのだ。自分の感動そのものは再生産できるものではなく、それをうまく記録できないと思ったからかもしれない。記録しておきたいのか、誰かに見せたかったのか、手癖かよく分からないけど、今でも海を見ればカメラを向けてしまう。カメラロールには同じような海の写真がたくさんあって、これはなんでなんだろうなあとたまに思う。

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