【本編】Change the World第22章〜身体に先行して体験を創る。
1990年代末に日本の競馬界で活躍したサイレンススズカというサラブレッドがいました。個性的なレーススタイルでターフを沸かせ、多くの競馬ファンを魅了したこの名馬があなたに願望実現のヒントを与えてくれます。
競馬ではその馬の能力や性格に応じて、得意とするレーススタイルがあります。先頭集団の中でレースを進めるのが「先行」、中段からやや後方あたりでレースを進めるのが「差し」、最後方からレースを進めるのが「追込」、最後の直線でスパートを掛けるのはどのレーススタイルも同じです。
サイレンススズカが得意としたのは、スタートから先頭に立って、レース中も常に先頭を走り、そして最後の直線でスパートを掛けてくる後続の馬たちを振り切ってそのままゴールする「逃げ」というレーススタイルでした。
逃げというレーススタイルは、スタート直後から他の馬よりスピードを上げて先行する分、レース中にスタミナを消費してしまうので、最後の直線でスタミナを温存していた後ろの馬たちに抜かれてしまうことがよくあるのですが、サイレンススズカは一味も二味も違いました。
サイレンススズカは逃げの中でも更に極端な「大逃げ」というレーススタイル。スタート直後から何十メートルもの圧倒的なリードを取って走ります。その大逃げっぷりは「影さえ踏めない」と言われたほどでした。
そんな暴走のようなレースをしたら、普通の馬なら後半でスタミナが尽きて後続の馬たちに次々と飲み込まれてしまうところですが、どの馬もサイレンススズカには最後まで追い付けませんでした。スタートからゴールまで一度も先頭を譲らないまま、大差をつけて逃げ切ってしまうのです。
後方では他の馬たちがサイレンススズカに追い付くために、そして一つでも着順を上げるためにスパート合戦を繰り広げていますが、そんな争いは彼にとってはどうでもよく、ただ前にあるゴールだけを見て駆け抜けました。その痛快なレーススタイルと強さは、今でも語り草となっているほど鮮烈な印象を残した個性的な名馬でした。
ただ一頭ぶっちぎりで先頭を行くサイレンススズカ。対戦した馬たちはいつもサイレンススズカが既に駆け抜けた道を、数秒遅れてなぞるように走りました。それと同じように、あなたが現在と思っている地点は既に何者かが駆け抜けていて、あなたはその道を遅れてなぞるように走っています。
あなたの現在はどこにあるのでしょうか。実はあなたが普段「現在」と思って見ている景色は後続の馬から見た景色なのです。後続の馬であるあなたの前には、常に「何もないと同時に全てある空間」を切り裂いて、自由に世界を創り上げているサイレンススズカが走っているのです。
あなたは、あなたの中のサイレンススズカが創ってくれた道を、少し遅れて追いかけています。サイレンススズカに後続の馬たちの順位争いなど関係ありませんでした。常に先頭を走っていますから視界の先に他の馬たちの姿は見えません。ただ一頭まだ誰も走っていない道を、金色に輝く美しい栗毛の馬体で颯爽と駆け抜けました。
あなたは色々な現実と闘っていると思っているでしょう。それは後方の馬たちとの順位争いを現実として見ているからです。あなたがサイレンススズカの背に乗れば、今あなたが現在と思っている状態がどうあろうと関係がありません。サイレンススズカは、いわば「思考の先端」であり「最新の自分」なのです。
あなたは現在の状態に囚われることなく常に「現在」の先を走り、まだ誰も走っていない空間を思いのままに切り裂いて、後続のための道を創っていけばいいのです。そうすれば後続である「現在」が、その道をなぞって走るようになります。
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