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署名を始めた人に聞いてみよう。声をあげた瞬間のこと。 [第1回 櫻井彩乃さん]

このインタビューでは、今までChange.orgで「キャンペーン」と呼ばれる署名活動を立ち上げたことがある方に、署名活動を始めた頃の気持ちやエピソードをお話しいただきます。

第1回目は 選択的夫婦別姓導入に向けたエールを!というキャンペーンを立ち上げた#男女共同参画ってなんですか プロジェクト代表の櫻井彩乃(さくらい・あやの)さんにお話を伺います。

4日間で3万を超える賛同が集まったこのキャンペーンを立ち上げた人ってどんな人?彩乃さんがジェンダーに関心を持つようになったエピソード、署名活動を始めた時の気持ち、バッシングに負けず声をあげることの意義などについてお話いただきました。

□櫻井彩乃さん プロフィール
1995年1月生まれ。フリーランス。Torch for Girls、「#男女共同参画ってなんですか」プロジェクト代表。第5次男女共同参画基本計画策定に向け、30歳未満から寄せられたパブリックコメント(通称:パブコメ)を踏まえて提言をまとめて政府に提出。Change.orgで「#いつになったら選べますか」のハッシュタグで選択的夫婦別姓の導入を求めたオンライン署名では3万筆超を集めた。趣味はタイル集め・家庭菜園。

「女は黙ってかわいくしとけばいいんだよ」と言われた高校時代の合唱コンクール

ーー高校生の合唱コンクールの時に、男の子に「ちゃんとやろうよ」と呼び掛けたら「女は黙ってかわいくしておけばいいんだよ」と言われたことがきっかけでジェンダーに関心を持ち始めたという記事を拝見しました。その時の気持ちを教えてください。

彩乃さん:それまで自分の親から「女の子だから○○しなさい」ということを言われたことがなかったので「同世代でまだそうやって性別によって区別する人がいるんだ・・」という違和感と衝撃が最初に来ました。

ーーなるほど。驚き以外に何か感じたことはありましたか?

彩乃さん:そうですね。その後に悔しい・悲しいという気持ちが徐々にこみ上げてきました。合唱コンクールの出番が終わるまでずっと泣き続けていたのを覚えています。

ーーそういった違和感を感じる経験は多くの人にあるかと思いますが、彩乃さんのように何かアクションを起こす人となるととても少なくなると思います。それを受けて彩乃さんが初めて具体的に起こしたアクションはなんでしたか?

彩乃さん:合唱コンクールでのエピソードを母親に伝えると、「まだこれでも良くなった方なんだよ」と言われました。「途上国では女の子ということがわかった瞬間に殺されたり、女の子だからって学校に行くことすらできない子どもたちがいる」ということも。それが衝撃的で自分で途上国のジェンダーの課題についてスマホで調べるようになりました。その時期にたまたま国際ガールズデーのイベントがあったんです。ジェンダーにお詳しい大崎麻子さんと気軽に話せるイベントだったので、そこでいろいろと自分の気持ちを伝えることができたことが最初のアクションだったと思います。

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「何か自分たちでできないかな?」ジェンダーの授業の受講していたメンバー4人で立ち上げたことから始まった


ーー彩乃さんは、オンライン署名を始める前に、学生時代にまずTorch for Gilrsという団体を立ち上げられています。その団体に関して教えてください。

彩乃さん:高校〜大学1年生の時に、途上国をメインで活動されているNGOでインターンとアルバイトをしていた時に様々な現状を知る中で、「日本でもまだ多くの人が女の子だから、男の子だからという理由で、性別という箱の中で生かされている。性別によって人生が左右されているのではないか?」と感じるようになりました。

ーー確かに生まれ持った性別だけでいろいろな不平等で苦しんでいるという意味ではそうかもしれません。そこからどんな経緯があってご自分で団体を立ち上げることになったんですか?

彩乃さん:性別によって生きたい未来を生きられないのではなく、「自分の未来は自分で決める」ことを啓発することがとても大切だと思い、それをサポートするためにTorch for Girlsという団体を立ち上げました。

ーーその時に一緒に動いてくれる仲間はいたんですか?

彩乃さん:はい。当時私は大学1年生で、大崎麻子さんのジェンダー学をかじりつくように受講していたのを覚えています。立ち上げた時の4人のメンバーは、みんなその授業を受けていたメンバーです。授業が終わった後に「何か自分たちでできないかな?」という話から一緒にやろうという話になりました。

ーー同じ授業を受けていたメンバーだったんですね。今も一緒に活動しているんですか?

彩乃さん:いえ、立ち上げの時のメンバーは、立ち上げていく段階でいろいろ厳しさを感じてしまったみたいで、3ヶ月ほどでみんないなくなってしまったので、そこからは私一人で活動していました。

ーー長い間おひとりだったんですね・・。やめちゃおうと思えばいつでもやめられる状況の中で、一人で活動し続けるのは大変だったのではないですか?

彩乃さん:周りの大人に本当に支えられました。今私たちが当たり前に持っている権利を獲得するために活動していた、人生の大先輩の方々のイベントに参加したらとても可愛がってもらって、ニューヨークでの国連で行われる会議に連れて行ってもらえたり、気持ちが下がりそうになったらいつも応援してくれたり。いつも周りの人にエンパワーしてもらっていたように思います。


コロナ禍で立ち上げた #男女共同参画ってなんですか  プロジェクト

ーーオンライン署名を立ち上げる前に、#男女共同参画ってなんですかプロジェクトを立ち上げ、30歳以下の若者に男女共同参画計画書のパブコメを書くように呼びかける運動をされていたと思います。その活動を始めたのはいつですか?

彩乃さん:2020年7月の下旬からです。学生時代にやっていた団体の繋がりで国際協力NGOジョイセフにお声がけをいただき、「やろうよ」と話が出てから1ヶ月の準備期間を経て、はじめました。

ーー1ヶ月で。すごいですね。その時に一緒に活動しているメンバーは何人いたんですか?

彩乃さん:参加できる時に手伝ってくれている学生が2人とデザイン担当の学生1人がいました。いろんなテーマの活動をしているユースの人にとにかくDM(ダイレクトメッセージ)を送りまくったんです。すると32の個人・団体の方が共感してくれ、拡散という面でも大きな力になってくれ、そこから1000以上のパブコメを集めることができました。

その時も、「パブコメ送ってね」だけじゃなくて、提言作ってみようよって一緒にアクションを起こせたのもよかったと思います。橋本聖子大臣にも、「いろんな団体が個別で要望を持ってくることが多いので、こうして連帯して一つの大きな力になることは大事」と言ってもらえました。

ーーいろんな人に声をかけて、「私こんなことやってるんです!」って自分の存在をたくさんアピールしたことが功を奏したんですね。

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大炎上したTwitterと、次々寄せられるバッシング

ーーなぜ、パブコメだけではなく、署名活動も始めようと思われたのですか?また、その時の気持ちを教えてください。

彩乃さん:パブコメを集めた時は、同性婚、緊急避妊薬などさまざまな問題解決を求める声が30歳未満の人から1000以上集まりました。その中でも選択的夫婦別姓を求める声が一番大きく、その声が潰されないように署名を通して声をあげようと思いました。

ーーパブコメを提出された際、何か反応はありましたか?

彩乃さん:パブコメを提出した際に、橋本聖子男女共同参画大臣が衆議院の本会議だけでなくそれ以外でもユースの声について話してくれて、自分たちの声が届いている!と実感しました。しかし、11月の下旬くらいに夫婦別姓に反対する自民党の有志の方が議連を立ち上げた時に「これはまずいぞ」と思い、何かしなければと思い署名を集めました。

ーーこれを読んでいる方の中には「自分にも変えたいことがあるけど、バッシングや嫌なことを言われるのが怖い」と感じておられる方も多いと思います。彩乃さんは、周囲から反対意見や心ないことを言われた経験はありますか?

彩乃さん:昨年7月に#男女共同参画ってなんですかのTwitterを開設して3日で大炎上しました(笑)「就職面接でジェンダーに関する研究をしてたと言うと嫌な顔をされた」という方のエピソードを紹介したら、「こいつの能力が低いだけだ」など、めちゃくちゃバッシングされたり。

ーー来ましたね(笑)その時、どんな気持ちでしたか?

彩乃さん:「やってしまった。」と思いました。ただ、だからといって炎上を避けて言いたいことを言えないのは違うと思ったんです。安心・安全にユースが声を上げられる場所を作ることが大事だとより強く感じました。

ジェンダー関連で声をあげている他の方がSNSで炎上しているのを見かけることも多かったので「やっぱりこっちにも来たか」という感じで。ショックというより、「ジェンダーやフェミニズムという言葉に反応してきたんだろうな」という感じでした。

ーー比較的冷静に受け止めておられたんですね。

彩乃さん:とある新聞に署名を提出したことを掲載してもらった時に、2ちゃんねるでスレッドも立てられました。1,000件のコメントが埋まったんですが、そこで新たなヘイトスピーチが生まれていたことの方がショックでした。私のことを韓国籍・中国籍だと言って他の国の人を差別したり、こいつは日本を乗っ取ろうととしている、だったり、意図していない風に書かれたり、そう言った差別が生まれていることは、ショックでしたね。

ーーとても心が痛いです。そういったバッシングを受けて、どのように気持ちを持ち直していましたか?

彩乃さん:「何やっても言ってくる人はいる」「これからってことだよ!」「何かを変えるには批判されて当たり前」「ここからだよ」といってくれる友達がいて、その存在はとても心強いと思いました。

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4日で3万筆を集めたChange.orgでのオンライン署名活動

ーー署名活動を始められる前は、どのくらいの賛同数を想定していましたか?また、不安などはありましたか?

彩乃さん:1日目は500筆集まったので、4日だと2,000筆くらいかなと思っていました。集まった分だけを出そうと思っていたのですが、皆さんの拡散のおかげで起きたらすんごい数になっていて。「何だこれ」と(笑)そこからは、「もっと行けたらいいね!」と思ってどんどん増やそうと思いました。

ーーすごいスピードでしたもんね。たくさんの賛同が集まる中で、自分の中に気持ちの変化はありましたか?

彩乃さん:多くの皆さんに賛同してもらえて嬉しい一方で、「これをちゃんと届けて、選択的夫婦別姓をチョイスできるようにどうにか持っていけるようにがんばらなきゃ」というプレッシャーも感じるようになりました。

ーーまだパブコメや賛同者が少ない時に支えになったエピソードや人の声があれば教えてください。

彩乃さん:「声を上げてくれてありがとう」「待ってました」「自分が勇気が出なかったけど、それをやってくれてありがとう」という声にはすごく支えられました。そういう方がいたから頑張ろうと思えました。誰かのためになっていることを感じた。


署名だから意味があった。SNS上で声を大きくするだけでは通用しない


ーー署名活動をされることに意味があったと感じますか?もしあれば、それはどのような意味があったとお感じですか?

彩乃さん:すごくあったと思います。インパクト面でもタイミング面でも。おかげで自民党内での12月の議論を盛り上げることができたと思いますし、議員さんに対してはやっぱりSNS上で声を大きくするだけでは通用しないんです。紙にして、それで集まった声を自分たちで持っていくことに意義がある。署名活動が無ければ、パブコメで送った私たちの声がなかったことにされていたかもしれない。あれは署名じゃなきゃだめだったと思います。

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ーーパブコメ・署名提出などを経て、追い風が吹いていると思いきや、結局選択的夫婦別姓という言葉は第5次男女共同参画基本計画から削除されてしまいましたね。

彩乃さん:報道で「削除」とう文字を見た時は残念な気持ちで「ああ、やっぱりか..」と感じた反面、第4次に比べたらちゃんと内容が書かれたなという気もしました。自民党内で議論する言葉難しかった、選択的夫婦別姓について議論されて、書かれた。そのことに関しては前向きに捉えていいのではないかと思いましたね。

あとは3万人の人に申し訳ないと思いました。その声が届かなかったことは残念でした。ちゃんと聞いてくれたのかな?と思って、自民党にファックスしました。

ーーやっぱりそこはファックスなんですね。(笑)

彩乃さん:そうなんですよ(笑)

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ジェンダー=女性に関する問題、という固定概念を無くしたい

ーー彩乃さんの元に届いた印象的な励ましの声はありましたか?

彩乃さん:ありました。私はこの活動は異性愛者の男女だけでなく、LGBTコミュニティの人たちも含め、全ての人が生きやすくなるための活動だと思っています。ジェンダー=女性のための、特に性暴力をなくすためだけの計画だと思っている人も多い。女性が生きづらいなら、女性以外のセクシュアリティの人も行きづらい。性別によって生きづらさを抱えているみんなで連帯して声を上げていきたいんです。性別に関係なく自分らしくいられる国をわたしたち若者からつくろうというメッセージを発信しました。

LGBTコミュニティの方々からも「自分の生きづらさを伝えることができる場所を作ってくれてありがとう」と言われたことはとても印象に残っています。また、SNSに活動について投稿する時も、女性に関するテーマだけでなく、男性の育休などについても触れたりするようにしました。


オンラインで活動することで地方のリアルな声をたくさん届けることができた

ーーコロナ禍での活動だったと思いますが、そのことについて率直な感想を教えてください。

彩乃さん:コロナ禍で外に出れないからこそ、日本中の人、世界中の人から署名やコメントももらえたのは大きかったですね。首都圏だけで首都圏の人だけが参加できるイベントだと、いわゆる”今までのイベント”と何ら変わらない。オンラインで活動することで、会えなかったような人と会えたり、賛同してくださる方も地方に住んでる人も多く、地方のリアルな声をたくさん届けることができたのは、オンラインでやっていたからこそだと思います。


ーー同じくジェンダー不平等に関して声をあげたい方、その他のトピックでも声をあげたいと思っている方に対して、メッセージをお願いします。

彩乃さん:ジェンダーに関するトピックは時に、批判されることも多いです。ただ、共感してくれる人や「私もモヤモヤしてた」っていう人は必ず周りにいます。まずは声をあげてみたほうがいい。できれば同じ思いで既に活動している人がいる場合、その人たちにメッセージを送るなどして、連携して一緒にやっていくことが大事だと思います。SNSで繋がれる時代なので、「一緒にやりませんか?」と声をかけることがまず第一歩につながると思います。

あとは、例えば何かを主張する時に「○○のせいで生きづらい!」といったように誰かを批判することで何かを主張することは控えたほうがいいと思います。ジェンダーの課題に関心があるけど声をあげられないという人は、是非 #男女共同参画ってなんですか 宛に連絡ください。一緒に考えましょう。

ーー最後の質問です。最初に話してくれた高校生の合唱コンクールで感じた違和感は、自分を動かしてくれる原動力になっていると思いますか?

彩乃さん:思います。あれがなかったらそのまま大学に行って、なんとなく就職してたと思いますし。あの一言がなかったらこんなにも性別によって区別されていたり、当たり前に何かを選べないことにこんなにもモヤモヤすることはなかったと思います。今はその彼に感謝してますね。