「生まれた時から洗脳教育が始まる」 旧統一教会に生まれた私が署名活動で声を上げた理由 【#宗教2世に信教の自由を】
安倍元首相の事件をきっかけに、旧統一教会にまつわるさまざまな問題が明るみになっている。高額献金問題や政治家との癒着問題などの実態が徐々に浮き彫りになっていくその裏側には、もうひとつ大きな問題として、生まれながらにして信仰を強制されて育った子どもたちが存在する。
「宗教組織が仕組んだ組織的な虐待によって、多くの子どもたちが苦しんでいます」
そう語るのは、旧統一教会の宗教2世である高橋みゆきさん。生まれた時から旧統一教会の信仰を刷り込まれ、「従わないと地獄に行く」と脅され、教えによって制限の多い子ども時代を過ごしてきた。思春期になると、異性と交流する機会や恋愛の自由も奪われ、結婚という人生の大きな節目ですら自分の意思で決められない。旧統一教会の2世として生まれたというだけで、人生が大きく歪められ、誰にも打ち明けられない悩みを抱え続けてきた。「宗教2世の声に、今こそ耳を傾けてほしい。同じ様に苦しむ子どもたちの連鎖をここで断ち切りたい」と高橋さんは訴える。
社会の裏側で人知れず悩み続けてきた宗教2世が抱える苦悩とは。“宗教虐待”という現実から子どもたちを守るために、社会にはどんな変化が求められているのか。高橋さんに話を聞いた。
■「自由恋愛は最大の禁忌」子どもを束縛・ストーカーする大人たち
高橋さんが最も理不尽だと感じたことのひとつは、旧統一教会の宗教2世には「恋愛の自由」が認められていないことだった。自由恋愛は教会において最大の禁忌として定められており、結婚は基本的に信者同士で、旧統一教会や両親が決めた相手としか結ばれてはいけない。自分の意思で相手を選ぶことは絶対悪とされ、婚前の恋愛もご法度とされている。
「合同結婚した両親から生まれてきた私たち2世が自由恋愛をしてしまうと『普通の人よりもさらに悪い地獄の底に行く』と言われ続けてきました。物心がついた時から親や周りからそんな恐怖を刷り込まれたら、子どもはそう信じ込んでしまいます」
自由恋愛は悪と信じる子どもたちは、やがて思春期に芽生える恋心に罪悪感を覚え、人知れず悩むようになる。教会とは縁を切り、一般の人と結婚した人であっても、「地獄に落ちるかもしれない」という呪縛から逃れられずに、その後も葛藤し続けている人が少なくないという。
その一方で、信者の両親は子どもが異性と交友するのを阻止するために、時にはストーカーのようになりながらも子どもを監視し、束縛する。高橋さん自身、成人した今でも一般の人との結婚を阻止しようとする、両親や他の信者からのストーカー行為や脅迫の被害に悩まされ続けているという。親は、もし子どもが禁忌を犯すようなことになれば、これまで積み上げてきた信仰が台無しになると指導されている。「なんとかして子どもに信仰を強制させなければならない」というマインドセットにさせることで、宗教組織は親を使って子どもを束縛し、信仰させる構造を作り上げている。
「子どもは生まれてくる家を選べない。生まれた時から洗脳教育が始まり、脅迫され、恐怖を刷り込まれて育っている。こんなに残酷なことはありません」
■過去の性交渉や自慰行為の経歴まで……。理不尽だらけの“告白面接”
教会の信者同士が結婚する(旧統一教会の用語では「祝福」と呼ばれている)際のプロセスにおいても、不合理な決まりごとがいくつも存在する。例えば、結婚準備のひとつとして行われる「告白面接」では、教会の祝福担当の職員が面接官となり、今までの人生における罪を洗いざらい話さなくてはいけない。具体的には、過去の性交渉や自慰行為の経歴など、性に関する話も含めて全て告白することを強いられる。
なぜそんなことまで教会にすべて告白しなければいけないのか……。「普通の人だったらそんなことしなくてもいいはずなのにと、納得できないことがたくさんあった」と高橋さんは悔しさに顔を歪める。告白面接で過去に罪があったとされると、罪を清算するために、数日〜1週間程度の断食などが課されるというさらに理不尽な展開が待っている。
面接では「文鮮明氏を唯一無二の救世主として認めるか」「自分たちの子ども(3世)にも信仰生活を送らせ、祝福を受けさせるつもりがあるか」という意思確認も行われる。教会側の望む回答ができない場合は、祝福を受ける権利を剥奪される。
好きになった人との結婚を貫くためには、親と縁を切り、脱会するしかない。しかし、そもそも家庭を重んじる教えと共に育ってきた子どもたちは、親と絶縁するという究極の選択になかなか踏み切れず、悩み抜いた末に、親のために教会内の結婚の道を選ぶという人も少なくない。
■旧統一教会だけではない。宗教組織による虐待という現実
自由に恋愛をする権利もない。本来であれば個人の意思でできるはずのことが、自分たちにはなぜか許されない。単純な体罰に限らず、そういった恐怖による信仰の強制や人生を選択する権利の剥奪は、子どもに対する精神的な虐待のひとつだと高橋さんは訴える。そして、SNSを通じて、旧統一教会以外の宗教2世たちとも関わりを持つようになった高橋さんは、彼らが抱える問題についても知るようになる。
例えば、エホバの証人の子どもたちは、宗教の教え自体に体罰が含まれているため、親はそれに従って子どもに体罰を課す。何か大きな怪我をしても、輸血は拒否する決まりのため、命に危険が及ぶことも起こり得る。中には、組織外の交友関係を気づくことも許されず、進学やフルタイムでの就職が認められていない子どもたちもいるという。
もしもエホバの証人を脱会した場合は、その後一切家族も含めて口を聞いてはいけないという定めもある。数々の理不尽な教義によって、子どもたちは傷つけられ、制限され、自由を奪わる。一般社会から断絶させられて育ち、気づいた時には社会から孤立して行き場がなくなってしまう。
「統一教会だけではなく、他の宗教の子どもたちも、形は少し違えど似たような問題を抱えているんだなと思いました。家庭という閉鎖的な環境の中で、親と宗教組織が結託して子どもに信仰を強制し、子どもたちは自由も人権も奪われる。生まれた時からそんな理不尽な環境に置かれてしまっているんです」
■親子の愛情まで利用される。2世が宗教から抜け出せない理由
そこまでひどい扱いを受けているのであれば、「脱会すればいい」「家を出て独り立ちすればいい」と思う人もいるかもしれない。しかし、生活力のない未成年にとって、それは家庭という居場所を失うことを意味する。成人後であっても、家族との絶縁や社会的孤立を天秤にかけた難しい選択を迫られることになる。
「親は子どもに幸せになってほしいという純粋な愛情から子どもを束縛している。子どももそれがわかっている。宗教の問題さえなければ本当に良い親なのにと思ってしまう……。だからこそ多くの2世たちは、親と今後も付き合いを続けていきたいという一心で、宗教の面倒な話をなんとか解決しようと粘り強く接し続けているんだと思います」
親が子どもを思う気持ちと、子どもが思う気持ち、その両方の愛情を宗教組織は利用している。親を使って子どもを束縛させ、構造的に子どもの自由と人権を奪う。その裏には宗教組織がより多くのお金を集めて信者の数を増やしたいという目論みがあり、そのために子どもたちが犠牲になってしまっていると高橋さんは指摘する。
「両親は何十年もかけて信仰を積み上げてきた信者なので、彼らを説得することは不可能に近い。宗教組織が信者とお金を確保するために作り上げている教義や仕組みによって、多くの子どもたちが苦しんでいる。そんな宗教組織の事情に子どもを巻き込まないでほしいです」
■身内にも外にも本心を話せない。誰にも頼れない子どもたち
宗教2世の子どもたちに共通する大きな問題のひとつは、その悩みを周りに相談できないこと。教団の外の人に話すには理解を求めるのが難しく、もし偏見や差別的な目で見られたらどうしようという不安もつきまとう。たとえ相談できて相手がなんとか手を差し伸べようとしても、家庭内のことや宗教の問題には口を出しづらい上に、抜本的な解決は望めない。
高橋さんには、同じ旧統一教会で育った幼馴染の友人もたくさんいるが、信仰に関わることは話しづらい雰囲気があるという。とある友人の話では、幼馴染に秘密の相談をしたところ、実は相手がものすごく信仰熱心で、その内容を教会組織に報告されて大問題になったこともあった。一緒に育ってきた友人や実の兄弟ですら、誰がどれくらい深く信仰しているかを推量ることは難しい。下手に相談をすれば教会組織に報告されて、自分の居場所がなくなってしまう。
本来であればそんな深刻な悩みこそ親に相談したいところだが、問題の元凶である彼らには到底話せない……。藁にもすがる思いで行政機関に相談した宗教2世からは、「宗教の問題には対応できない」と門前払いされたという体験談も多く聞こえてくる。助けを求める術もわからず、誰にも頼れないまま1人で苦悩し続けている子どもたちが、世の中には多く潜んでいる。
■「#宗教2世に信教の自由を」オンライン署名を立ち上げた理由
宗教も環境も異なる多くの宗教2世が、同じように宗教組織に苦しめられてきたことを知った高橋さんは、旧統一教会に限らず、あらゆるカルト宗教2世の子どもたちの自由と権利を守るために、Change.orgでオンライン署名を立ち上げた。
宗教組織によって多くの子どもたちが虐待の被害を受け、誰にも相談できずに孤立してきたという事実が世の中に広く知られてほしい。そして、問題の解決に向けて、子どもたちを守るための法律や行政の仕組みを整備し、子どもたちがSOSを出せる環境を整えたいというのが、署名を通して実現したい未来だ。
実は高橋さんは、2年前にも同様の署名を立ち上げていたが、当時は100筆あまりしか賛同が集まらず、断念してしまったという過去がある。世の中には色々な問題が蔓延っている中で、マイノリティーがいくら声を上げても社会にはなかなか響かない……。半ば諦めかけていた高橋さんにとって、安倍元首相の事件は大きな転機となった。
「今までは、宗教2世が注目されることも、その悲痛な声が社会に届くこともありませんでした。統一教会の問題が話題になっている今こそ声をあげないと、宗教虐待の問題を社会に提起するチャンスは永遠にないと思い、思い切って署名活動を再開しました」
それは長い間孤独に苦しみ続けてきた宗教2世みんなの願いでもある。これまではSOSを出すことすら難しかった彼らが、今SNS上で声をあげ始めている。高橋さんが立ち上げたオンライン署名も、匿名の宗教2世たちに数多くシェアされている。今こそ声をあげてこの問題を可視化することで、なんとか解決の糸口を手繰り寄せたいという必死の思いから、少しずつアクションの輪が広がっている。
■子どもたちの力では解決できない。求められる社会の変革
子どもたちが背負わされてしまっているこの問題は、彼らだけの力では決して解決できない。だからこそ、「家庭内の問題や宗教の問題には干渉しない」のではなく、きちんと国や社会が介入して、然るべき対策を講じ、子どもたちを支援する仕組みを作ることが求められている。
児童相談所に相談しても、「宗教の問題には対応できない」「信教の自由を侵害できない」として取り合ってもらえなかったという宗教2世の声が、高橋さんの元にも度々聞こえてくる。宗教が原因である場合でも、虐待としての基準を満たすものであれば虐待として対処されべきであり、親の側だけでなく子どもたちの信教の自由も守られるべきはずだ。長年見過ごされてきた根深い問題を解決することを目指して、まずは行政に児童を救済できる体制作りを求める。長期的には、宗教が組織的に行う虐待を規制するための法整備を働きかけていくことを目指していく。
高橋さんは今、旧統一教会に限らずさまざまな宗教2世らとオンラインで繋がり、彼らの話にも耳を傾けながら、共に情報発信を続けている。今までは自分の意思で選ぶことができなかった人生だったからこそ、今回は自らの手で変化を起こしたいと力強く語る。
「人生というのは、教団や神様が決めるのではなくて、自分で選択していいものですよね。自分が本当の意味でやるべきだと感じる。心から幸せを感じられる。そういう人生を自分の手で掴み取りたいし、同じ宗教2世の方には、一緒に掴み取ろうと伝えたいです。そして、この変化を実現できる時が来たら本当にうれしいです」
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変化を起こすのであれば今しかない。
旧統一教会に関する事実を全て解明し、問題を収束させるにはきっと長い時間を要するだろう。しかし、今この瞬間にも虐待に苦しむ宗教2世の子どもたちが助けを求めている。一刻も早い問題解決のためには、旧統一教会の問題とは切り離し、子どもの人権問題として、宗教組織による虐待被害に的を絞った対策が必要だ。
そのための社会の仕組み作りや法整備への道のりも、きっと一筋縄ではいかないだろう。それらを実現するために、政治や社会全体を後押しするのは、世論、一人一人の国民の声だ。賛同として積み上がった数字は国民の意思の強さを表し、その数は世論として政治家や閣僚たちへのプレッシャーや追い風となる。そして、賛同と共に署名ページに届く応援メッセージは、高橋さんや他の宗教2世の人たちにとっての励みとなり、政治家や意思決定権を持つ人たちを動かす原動力にもなるかもしれない。
自らの意思とは関係なく、出自によって自由も人権も奪われてしまった子どもたちが、1日も早く孤独な闇から抜け出せるようになるために。彼らが自らの手で変化を起こし、実現したい未来を掴み取ることを心から応援したい。
オンライン署名の詳細、賛同&応援メッセージはこちらから👇
【統一教会・人権侵害】宗教虐待防止のための法律制定を求めます。#宗教2世を助けてください #宗教2世に信教の自由を #StopReligiousChildAbuse