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署名を始めた人に聞いてみよう。声をあげた瞬間のこと。 [第6回 ロッシェル・カップさん]

このインタビューでは、今までChange.orgで「キャンペーン」と呼ばれるオンライン署名活動を立ち上げたことがある方に、その頃の気持ちやエピソードを振り返ってお話しいただきます。

第6回目は、東京都が計画していた東京オリンピックのパブリックビューイングの施設を作るための木の剪定と、パブリックビューイング自体の中止を求め「キャンペーン」を立ち上げた、ロッシェル・カップさんにお話を伺いました。10万以上の賛同が集まり、結果的にパブリックビューイングは中止され、木の剪定も最小限に止めることができました。

何かを必要とする時にじっと待つのではなく自分の口から声に出すことは、人生に必要なスキルだと話すロッシェルさん。声をあげることに対するハードルがまだまだ高い日本で、ロッシェルさんが感じることを伺いました。

■ロッシェル・カップさん プロフィール  
異文化コミュニケ−ションと人事管理専門の経営コンサルタントであると同時に、ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティングの創立者兼社長。アメリカ出身ながら、大学で日本語を学び、日本とアメリカの両国でビジネスを展開している。2021年5月、Change.orgにて、オリンピックパブリックビューイング施設の建設及び、木々の過度な剪定に反対するオンライン署名を立ち上げる。趣味はヨガ、カヤックとハイキング。

公園の木の枝をたくさん切って、パンデミックの真っ最中にたくさんの人を集めるのは、本当におかしいと思いました。

ーー最初に現状に違和感を感じたきっかけを教えてください。

私はよくTwitterを見ます。Twitterで代々木公園の利用者が投稿したツイートがバイラル(大きな話題を呼ぶこと)になって、私もその様子を見ていました。どうして公園の木の枝をたくさん切るのか、なぜパンデミックの真っ最中にパブリックビューイングを行ってたくさんの人を集めるのか私も疑問に感じて、これは本当におかしいと思いました。

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ーーもともとオンライン署名を立ち上げるきっかけとなったのは、木の枝を切ることに対する憤りか、パブリックビューイングを開催することに対する憤りか、どちらだったのですか?

東京都の計画では、木の『剪定(せんてい)』という言葉が使われていました。木を丸ごと切るのではなくて、木の枝を切るということだったことが理由で『剪定』という言葉が使われていたようでした。しかしこの言葉は誤解を招く表現で、普通は剪定とはそもそも木の健康を保つために毎年行われる、ある種必要な「手入れ」な訳です。今回の『剪定』というのは、この企画がなければ切るはずのない枝をたくさん切る、要するにパブリックビューイングのための施設を作る上で邪魔になってしまう枝を切ることだったんです。そしてさらには会場に入る運行トラックがぶつかってしまう恐れのある、邪魔になる枝を切るということでしたので、木の健康のために行われる『剪定』ではなく、木を害してしまうようなものですよね。

そこで、代々木公園に貼ってあったその知らせを見た公園の利用者が心配してそれについてTwitterに投稿し、それをみた私は『あぁ、そういう風にたくさん枝を切るのは良くない』と思いましたし、それに全く不必要なパブリックビューイングのために木の形を変えてしまうのなんておかしいと思いました。

また、代々木公園に貼ってあった知らせに東京都が『剪定』という言葉を使っていたので私も(署名ページの本文では)その言葉を使いましたが、8メートル以下の枝を切るということでしたので、それって相当な高さですよね。8メートルよりも低い枝を全て切るのは、木のために必要な剪定とは到底言えないと感じました。

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Twitterで話題になるだけではなく、もう少し人の意思を伝えるための手段が必要だと感じた


ーー声をあげる手段はオンライン署名以外にもありますが、ロッシェルさんがオンライン署名を始めようと思われたのは何故ですか?

大きな話題になったそのツイートを見たとき、たくさんの人がリツイートやLike(いいね)していたようでした。それによってたくさんの人が関心を持っているテーマであることを確かめることはできましたが、しかしツイートするだけでは状況が変わらないのではないかと思い、もう少し人の意思を伝えるための手段が必要だと感じました。

また、(五輪中止を求める)宇都宮健児さんの署名活動もかなり日本で注目を浴び、過去よりは日本でオンライン署名運動の知名度が上がってきていると感じていましたし、日本の人々がこういった活動や手段に対してオープンな姿勢になってきている証拠だとも思いましたので、代々木の件に関して自分もトライしてみようと思いました。

ーー宇都宮健児さんのオンライン署名をきっかけにチェンジ・ドット・オーグのことを初めて知ってくれた人も多かったように思います。

そうですね。あの署名にはとてもたくさんの人が賛同しておられたので、より有効な道具になりましたよね。TwitterでLike(いいね)を増やすだけではなく、もう少し正式な形でみんなの意思を伝える必要があると思いました。チェンジ・ドット・オーグには、そういったプラットフォームを作ってくださったこと、とても感謝しています。

ーーそう言ってくださり、ありがとうございます。ロッシェルさんは普段からオフライン・オンライン問わずご自分の意思を表明されることに慣れておられるようにもお見受けしますが、署名活動を始められる前は不安な気持ちはありましたか?

そうですね、チェンジ・ドット・オーグはすごく使いやすいので一人でもできる特徴もあると思いますし、私もこれはいつもの活動の延長線だと最初は思っていたんですが、完全に自分一人で立ち上げましたので、もし署名運動を始めても誰も気づかなかったり、関心を持ってくれなかったり、全く賛同が集まらなかったらどうしようとは思っていました。私は木が好きですが、代々木公園の木に実際どのくらいの人が関心を持つかは不安な気持ちはありました。その逆の結果になったのでよかったです。

ーーロッシェルさんは、東京都議会の龍円あいり議員に、集まった署名簿をとてもスピーディーに持っていくなど、実現に向けて戦略的に動いておられたように感じました。もともと龍円議員に持っていくことは計画にあったのですか?

いえ、そうではありませんでした。私が立ち上げたオンライン署名が少し話題になってから、渋谷区の議員の神薗 麻智子(かみぞの まちこ)さんに連絡をいただきました。彼女だけでなく他の渋谷区の議員が関心を持ってくれているということで、彼女が龍円あいり議員を紹介してくださいました。

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私が立ち上げたことでこの問題が注目を浴び、他の方も勇気も出して声を上げたことに繋がったかもしれない

ーー署名活動をされることに意味があったと感じますか?あれば、それはどのような意味があったとお感じですか?

はい。意味があったと思いますし、この活動はふたつの結果につながったと感じています。東京都がこの結果についてどれほど認めてくれるかは分かりませんが、この活動によってかなり世間の関心が高まったと思います。5月22日に立ち上げた時点では6月1日から『剪定』が始まると思っていたのですが、実は剪定活動は24日、つまりその2日後に始まるところだったんです。まずその時点でかなり報道していただけて、その結果、東京都の担当者から話を聞いた朝日新聞の記者が後にTwitterで報告したのは、東京都から担当の人が剪定現場まで赴き、最低限の木だけを切ることを厳しくチェックしていたそうです。その上、代々木公園を頻繁に利用しているその木々に詳しい人によると、実際に剪定された木の量は当初の予定に比べると、かなり少なくなったと聞いています。どちらにせよ結構剪定が行われてしまいましたが、ある程度世間の注目があったことで、担当者は気をつけていたと思います。これは署名活動の結果として証明しにくいですし、東京都は認めたくないと思いますが(笑) 

もうひとつは、やはりパブリックビューイングが無くなったことはとても大きいです。代々木公園だけではなく、この活動が波及して、上野公園や井の頭公園でも署名がチェンジ・ドット・オーグでオンライン署名が立ち上がり、結果中止になりました。パブリックビューイングの予定は、当時誰も気づいていないことだったので、注目されて話題になったことは大きかったと思いますね

ーーロッシェルさんが最初に声を上げなければ、もしかしたらどんどん進められていたかもしれませんね。

その可能性は非常に高いと思います。

ーー井の頭公園上野公園でもパブリックビューイング中止を求める署名活動に飛び火していったことはすごくポジティブな変化だったように感じます。一連の流れをどのように見ておられましたか?

やはり見ていて嬉しかったですね。私が立ち上げたことでこの問題が注目を浴びて、それを見た他の方が同じように勇気も出して声を上げたことに繋がったかもしれないですから。

ーーパブリックビューイングは中止になりましたが、ロッシェルさんはまだこの活動の「成功宣言」(チェンジ・ドット・オーグのサイト上にあるオンライン署名発信者向けの機能のひとつで、当初の目的が達成された際に署名活動を終了すると共に「成功」を宣言することができる)をしておられません。それには何か理由がありますか?

パブリックビューイングの施設は実際に作られてしまい、もしかするとパラリンピックの時にはまだ利用される可能性もあります。公園の利用者が秋までその空間を使えないということもありますし、完全にハッピーにはなれない状況です。公園の利用者にとってはかなり残念なことだと思いますし、私も実際に行って写真を投稿しましたが、ワクチン接種のために必要とされている規模に比べるとかなりの広さを使っています。いらない施設を建てるのにたくさんのお金が使われてしまった。なので、完全な勝利とは言いにくいなと感じています。

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日本には言いたいことを言える”筋肉”を作っていない人がまだ多い

ーー賛同・一緒に活動してくれる仲間をどのように見つけましたか?

日本語、ドイツ語、とフランス語版の用意に協力して下さった人がおられましたが、彼らは皆匿名のままでいることを希望しています。それ以外は一人で活動していました。その週はまあほとんどこの署名活動のことばかりに手を取られて、あまり仕事ができなかったですね(笑)特にこの活動に勢いがついたきっかけとしては、Abema Newsにインタビューされたことは大きく、助けになりました。


ーー日本には、声をあげることで目立ってしまうことを怖がってしまう人も多く、実際に目立つ人のことをよく思わない文化がまだまだ根強く残っているように思います。それに関して何か思うことはありますか?

これに関しては多少文化の違いがあるかもしれませんが、アメリカは文化が逆で、言いたいことを言うべき、”Speak Up” することが良いとされている文化なので、私自身は言いたいことを言うことには慣れています。それに私は経営コンサルタントであり、社外取締役としても仕事をしていますので、誰かにアドバイスをすることもあります。つまり職業柄自分の意見を言えないと価値がない仕事をしているので、慣れているという側面もあると思います。ただ確かに、自分が言いたいことを言えるかどうかという点では、日本ではそういった”筋肉”を作っていない方がまだ多いなと感じます。自分が言いたいことを言えるようになるには、こういった署名活動もそうですし、いろんな生活の場面においてすごく重要なスキルだと思います。それに慣れることは自分の人生を豊かにしますし、すごく重要だと思います。

思ったことを言わずに胸の中に溜め込んでしまうと、心の荷物になりがちですし、自分のストレスの原因になりますよね。言いたいことを言うことで自分の負担を減らすことにもなりますし、実際に変化を起こせることもあります。英語のことわざで “The squeaky wheel gets the grease”(「はっきりと自らの主張をすると(=きしる車輪)、その見返りが得られる(=油をさしてもらえる)」という意味。日本の「出る杭は打たれる」とは逆の意味のことわざ)という言葉があります。何かを必要とする時はただじっと待つだけではなくて、それを自分の口から声に出して、周りの注目をもらって、気づいてもらうことで、力になってくださることもあります。

周りがいつも気配りをしたり、思いやりを持って察したり、それらは日本の文化の美徳ですが、周りの人皆が必ずここまでするかどうかは保証できません。何か必要なものがある時は自分からそれを求めることは、人生に必要なスキルなのではないかと思います。ですので、自分の方から言うのは大切な第一歩だと思います。

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足を引っ張ろうとする人たちは、良いことをしている人を羨ましいと思っているのだと思います


ーー自分の意見を人に伝えるという“筋肉”を鍛えるということですね。そのためのトレーニングとして、何をすればいいでしょうか?

そうですね、自分で署名運動をする勇気がない人でも、まずは誰か他の人の署名に賛同し、またそのことをSNSに書き、自分の意思や意見を表明して慣れていくのはどうでしょうか?

ーー「出る杭は打たれる」という風潮が強い日本で声を上げることは、否定的な声や心ないバッシングが来ることもおありかと存じます。そういった否定的な意見を目にしたときの気持ちや、どのように気持ちを切り替えておられたか、教えてください。

私も実際以前からある一部の人たちから批判を受けたりもしています。10年前からとある媒体で記事を書いているのですが、それだけで私のことを悪い人だと思うグループがいるわけですね。今回のオンライン署名活動で私が(東京都と同じ表現である)『剪定』という言葉を使ったことに関しても、剪定と伐採の違いもわからないのかと批判を受けました。もちろん私はその二つの言葉の違いをわかっていますが、ただ人を批判することを喜び、それが趣味であるという人が残念ながらいるわけですよね。それが現在のSNS環境の良くない側面だと思いますね。

ーー批判やバッシングを受けることで、ロッシェルさんは傷つきますか?もしくは、あまり気にならない方ですか?

オンラインで中傷してくる人は、批判したいところを一生懸命探しているように思います。あまりそれをパーソナルに受け取るのは良くないと感じます。そのような攻撃の的になるのはもちろん不快ですが、皆さんにお伝えたいのは、遊びというか趣味として、そうやって人を攻撃したりする人もいるということです。そうやって足を引っ張ろうとする人たちがなぜそういうことをするかというと、いいことをしている人を羨ましいと思っているのだと思います。

そうやって批判している人の多くは、自分で署名を立ち上げて何かのために声をあげているでしょうか?建設的な方法で声を上げるのではなく、人を責めることが自分のアイデンティティだというのは、とても情けないことではないですか?

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ーー同じく声をあげたいけどまだ勇気が出ない方に対して、メッセージをお願いします。

ナイキの広告のようですが ”Just do it.” 是非やってみてください。と言いたいです。長く悩んでいるだけだと、永遠に悩んでしまいますから。そうならないように、とにかくやってみましょう!

ーー今後、この署名活動に関してご予定はありますか?

今のところは次の予定はないのですが、もしきっかけがあれば、またチェンジ・ドット・オーグを使ってまた声をあげたいと思いますね。オンライン署名はすごく良い道具ですし、使いやすいし、日本人の間の認知も上がってきましたよね。何があれば一つの有効な手段であることは、すごく嬉しいことですね。

ーー最後に読者の方に伝えたいことはありますか?

署名してくださった皆さん、取り上げてくださったマスコミ、SNSでシェアしてくださった皆さんに対して、応援してくださったことを深く感謝したいと思っています。