エッセイ #13| 歌姫とは言うがなぜ歌殿と言わないのか
たまたま見ていたテレビで歌番組をやっていた。
中学生くらいのときはMステを始めとする歌番組をよく見ていたが、今はネットでいつでもどこでもMVが見れるし、歌番組の数はきっと減ってるんだろうなぁ、などと考えていると、歌番組の司会者が
「いや〜まさに平成の歌姫ですね!」
と言った。
それを聞いてなんだか違和感を覚えてしまい、
「平成の歌姫…かぁ。」
と、50歳の管理職おじさんが平成の歌姫を懐かしむような声のトーンで、平成ど真ん中世代、28歳の僕は思わず部屋で一人呟いた。
単純な話だ。女性歌手は歌姫というのに、それと対になる男性歌手の呼称はなぜ無いのだろうか。
これを見て、いや、どうでもよくね。と思う人もいるだろう。その意見も分かる。分かるのだが、僕はこんなどうでもいいことに、なぜだろうと気になってしまう性分なのである。
平成の歌姫と聞いて思い出すのは、安室奈美恵や浜崎あゆみ、倖田來未や西野カナ、aikoにMISIAなど山ほどいるが、男性だってたくさんいるはずだ。例えば平井堅、槇原敬之や福山雅治などがそうだろう。
一つ言うなれば、スピッツ、ミスチル、ゆず、サザン、B'z、ポルノグラフィティなど、男性の場合グループやバンドとして活動するアーティストが多いため、女性のように"姫"と単独の存在を指す言葉が馴染まなかったのかもしれない。
なんとなく自分の中で腹落ちはしたものの、
「うーむ、平成の歌姫…かぁ。」
一人部屋で呟いたのと同時に、もし対になる言葉で男性を呼ぶのならなんて言うのだろうかと考えてみる。
…男性だと殿か。歌殿。
バカ殿がよぎるから無しだなこれは。
なんなマヌケっぽい。
…姫の反対だと王子かな。平成の歌王子っ!
うーんでもなんか語呂悪い気も…。
…姫といえば織姫。つまりその反対だと彦星か。
平成の歌彦?いや歌星?
分かりにくっ!
てか彦星の"ひこ"ってなんだよ!
…英語で王子はプリンスか。平成の歌プリンス。
略して歌プリとか?
お、いい感じっぽいかも。
いやでも女性もプリンセスだから略したら一緒になっちゃうな…。
えぇい!やめだやめだ!!!
ちょうどいい呼称が見つからないので、平井堅、槇原敬之や福山雅治たちのことを、"平成を代表する男性アーティスト"と呼ぶことにした。
"平成の歌姫"
"平成を代表する男性アーティスト"
少々強引であるがこれが一番分かりやすい。
と書き終えた今。
この歌番組を見てから数週間経っている今。改めて考える。そもそも、歌姫であろうが平成を代表する男性アーティストだろうが、そんな風にとある枠組みに入れてひとくくりにせずとも、僕は〇〇というアーティストが好きなのだ。宇多田ヒカルが好きだしアジカンが好きなのだ。性別は知らないがyamaも好きだ。
言葉を考えるのは面白いが、呼称としての歌姫、あるいは女子アナ、婦警、主夫、男前、みたいな枠で、相手をとらえないようにしたいなと思う。
"歌姫とは言うがなぜ歌殿と言わないのか"
呼びやすさを考えるとあってもいいが、そもそもそんな言葉はなくてよく、その個人にフォーカスする考え方が令和を過ごす上で大事なのかもしれない。