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エッセイ #19| 家の熱帯魚が毎日一匹ずつ減っていった話
小学生の頃、家で熱帯魚を飼っていた。
5cmくらいの小さいのがグッピー。
15cmくらいのがエンゼルフィッシュ。
玄関に水槽があって、グッピーは30匹くらい、エンゼルフィッシュは2匹くらいいたと思う。
グッピーは赤と水色が混ざったとても綺麗な色をしていて、水の中を泳ぐ姿を見るの時間は楽しかった。グッピーたちの泳ぎに見惚れてしまったのは、僕が泳げないからかもしれない。
そう、僕は泳げない。
小学3年生くらいの頃、学年の泳げない子たちが夏休みに学校に招集された。目的は、泳げない子供たちを泳げるようにさせることである。
その教室の名は「めだかっ子クラブ」。
サッカーが上手くてワールドカップ日本代表に招集されるのとは訳が違い、"あなたは泳げないので学校のプールに来てください"と言われて招集されているため、めだかっ子クラブの子供たちはほとんど乗り気ではない。
そういえば、なぜめだかっ子クラブなのだろうか。小学生がめだかのように小さい魚に例えられたのだろうか。
考えてみると、これが「本マグロクラブ」であれば"練習したってマグロみたい上手になんて泳げないよ!"と思って心が折れてしまっていたかもしれないし、「タツノオトシゴクラブ」であれば"プカプカ浮くだけの自分たちを揶揄しているのだろうか?"と悲観的になってしまっていたかもしれない。そう考えると、めだかっ子クラブという名前は言い得て妙である。
めだかっ子クラブの当日、色黒で体育が好きそうな先生から、集まっためだかたちにそのルールが告げられた。
「今日は25mプールをみんなに泳いでもらいます!25m泳げた子から帰れるんでねーっ。みんな頑張りましょう!」
「えっ。」
めだかたちは目が泳いだ。
なんと、めだかっ子クラブは25mプールを泳ぎきった者から順に帰宅できるという、水曜日のダウンタウンの企画にありそうなストロングスタイルだったのである!
尚、めだかっ子クラブの一角を担う僕は、息継ぎができない理由から泳げないと申告して招集されていたのだが、早く帰りたい一心で息継ぎをせずに25m泳ぎきって早々に帰宅することとなったため、めだかっ子クラブに入門した意味がまるで無い。
早く帰れたのは嬉しかったが、結局息継ぎができないという問題点は解消されなかったため、小学生ながら"なんだかなぁ"と思いながら自転車を転がして帰った。あれから20年経った今でも泳げない僕はさしずめタツノオトシゴである。
「ただいまー!」
めだかっ子クラブから家に帰った時、ある異変に気づく。
いつものように水槽の熱帯魚に目をやると、なんだかグッピーの数が少ない気がするのだ。
"…あれ、なんかグッピー少ないかも…"
直感的にそう思ったはものの、元気のないグッピーが水槽の底に沈んでいるわけでもなく、水面に浮いているわけでもなく、みんなスイスイと泳いでいる。
"…気のせいかなぁ…"
そう思って靴を脱ぎ、玄関を上がった。一応、3つ上の姉にグッピーの件を報告する(当時、姉には絶対服従だった)。
「別に減ってないやろ!気のせいやろ!」
一蹴された。
しかし、僕が感じた違和感は徐々にその輪郭を帯びてゆく。
めだかっ子クラブの試練を潜り抜けた僕は、やはり来る日も来る日も美しく泳ぐ熱帯魚たちを眺めた。
だが、やはりグッピーが少ない。なんなら、毎日毎日だんだん少なくなっている気がする。たまらず、ばあちゃんに報告した。
「ばあちゃん、グッピー減ってるわ!」
「嘘やあ。」
(水槽を見にいく)
「少ないのぉ!食べられたんでねぇんか!」
!?
食べれられた…!?
衝撃であった。
5cmくらいの小さいのがグッピー。
15cmくらいのがエンゼルフィッシュ。
ばあちゃんの推理では、エンゼルフィシュ2匹に、グッピーたちが食べられているのではないか?というものだった。
めだかの僕は震えた。
赤と水色が混ざった綺麗な色のしたグッピーが、このでかい魚(15cm)に食われている。そう考えるとエンゼルフィッシュが憎くなった。
それから僕は張り込み捜査を始めた。
エンゼルフィッシュが限りなく黒に近かったが、冤罪はよくない。現行犯でないと、めだか警察は動けないのである。張り込み中、後輩のめだかがいればあんぱんや肉まんなどでも頼めたものであるが、あいにく小学3年生の僕は一匹狼であった。じとーっとした目で水槽を見張る。
そしてばあちゃんからの有力なタレコミがあった翌日、早速ヤツは動いた。
パクっ。
「確保!確保ーっ!!!!!」
現行犯であった。
エンゼルフィッシュは、本当にグッピーを食べていた。
どうやら、異なる熱帯魚を同じ水槽で育てることを"混泳"と呼ぶらしい。そして、熱帯魚の種類によっては混泳をしてはいけない場合があるようなのだ。
弱肉強食…。残念ながらエンゼルフィッシュへの事情聴取は叶わなかったが、エンゼルフィッシュは悪くない。混泳させてはいけない熱帯魚たちを混泳させてしまった僕たちがいけなかったのだ。小学3年生の僕は、親近感が湧いていたグッピーたちに、申し訳ないなと思った。
事件発覚後、我が家に残されたグッピーたちとエンゼルフィッシュ2匹は水槽が分けられ、それからグッピーが減っていくことは無くなった。
こうして、家のグッピーが一匹ずつ減っていく奇妙な事件は幕を閉じた。
この事件のMVPは間違いなくばあちゃんだ。
ばあちゃんは泳げるのだろうか。
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