【500文字小説】妖精屋
「もしあの人が立ち直れていなかったら、お願いします」
「一年後ですね、承りました」
花見客で賑わう公園で酒に口を付ける。
「もう一年だろ。そろそろ新しい彼女でも」
「そんな簡単に言うなよ」
「あ、おい」
新しい彼女?馬鹿らしい、だって俺はまだ───
突然風が強く吹いて花びらが舞った。その向こうに見覚えのある後ろ姿。
「サユキ?」
思わず手を引いて、振り返った顔を見て驚いた。
「サユキだ!生きてたんだ」
「いいえ、私は」
桜の妖精です、と言い切ったサユキがふわりと微笑んだ。
ベンチに腰掛けて話していると、見た目は完全にサユキなのにふわっとした話し方をするこの女性が本当に桜の妖精に思えてきた。
「そうなんですね、彼女さんが」
「ああ」
「でも、彼女さんもこう言うと思いますよ」
『幸せになってね』
俺は、一年ぶりに声を上げて泣いた。
「今回の依頼はどうだった」
「テンプレート通りで通用いたしました。やはり技術班のメイクが秀逸ですので」
「そうか」
「でも、ご依頼主様の喜ぶ顔が見れないのはやっぱり切ないですね」
「そのサユキさんも天国で喜んでいるよ」
「そうだといいんですけど」
洗面室の窓の外では、春風に乗って桜の花びらが舞っていた。
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