マガジンのカバー画像

自作詩(こうだたけみ名義)

39
こうだたけみ名義で書いている詩。たまに朗読
運営しているクリエイター

#オマージュ

円滑水槽

円滑水槽

 苦渋に満ちたその顔を男は上げられず、休息をとるためとはいえ、瓶に詰めて保存していた〈暫くの間〉を使い切ることになるとは思いもよらず。さらにと求めて手探るが、あるのは潮の香ばかり。車体は喘息持ちの子供の胸の音のように、セイセイと隙間風。
 だが、もうじきである。身体は重く両肩は下がるが、男の胸は高鳴った。焦がれた街並、人の波。陽を照り返すアスファルトと歪みを映す高層ビルの鏡窓。他を拒みつづける渋滞

もっとみる
「穴。」

「穴。」

昔から演劇ぱ人生の縮図なんて申しますが。こと歌舞伎というのぱこの世の似姿。舞台にぽっかり空いた穴なぞ傑作じゃございませんか。人ぱそれを【奈落】と呼ぷのでございます。その奈落の底に待機するのぱ奈落番と申しまして。せり上がったり飛ぴ込んだりする役者を首尾よく助けるのでございますが。またの名を穴番と申します。さて。世間にもまた数多の穴がございまして。村上某の井戸や安部某の砂の穴など脚色ものならぱ小説に見

もっとみる