魔性のミキちゃん
僕も僕の友人も好きだった「魔性の女ミキちゃん」を、ある日とうとうデートに連れ出すことに成功した!しかも僕と二人っきりだ。抜け駆けだ。デートの口実は正直覚えていないけど、二重にも三重にも適当な理由を付けてこぎつけたと思う。外堀を一人で勝手に埋めたのだ。
ミキちゃんは、かわいくて東北弁のナマりが強くて歌が上手くて、いつも眠たそうにしていた。本当は化粧が薄い日はあまりかわいくなかったけど、”かわいい”に変換されていたのは好きだったからなのかもしれない。きっとミキちゃんの周りにいる男達もそんな理由で、どんどん彼女を好きになっていった。
僕が”連れ出した”はずのデートは実際は頼み込んだ形に近く、2時間かけてミキちゃんの住んでる街へ向かっていた。押しかけだ。デートが始まったらわざとらしく時間をかけてお昼を食べ、自分が知らない場所だからと言っておすすめスポットを案内してもらった。もし相手に好意がなかったら迷惑極まりなかったかもしれないけど、笑っていたからそう思わないようにした。
だんだん暗くなってきて、実家暮らしのミキちゃんは帰らなくてはいけない時間になった。ドラマや漫画しか見たことのない僕は「ここしかない」と思い、勇気を出して告白した!
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デートした日は日曜で、次の日は学校で授業があった。僕も僕の友人もミキちゃんもそこで顔を合わせ、いつも通り半分授業を受けて半分おしゃべりをしていた。ミキちゃんは昨日あった出来事を”なかったこと”にしてくれていて、僕は救われたような気持ちになった。
オッサンになった今思い出してみても、人生の中で一番気持ちよく振ってくれたのに良い思い出しかないミキちゃんは、やっぱり魔性の女だと思う。もう会うのは恥ずかしいけどね。
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