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月1読書チャレンジ #4

すべりこみ4冊目です(11月)

推し、燃ゆ

宇佐見りん(2020)『推し、燃ゆ』河出書房新社

「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」

河出書房新社HP https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309029160/


▶選んだ理由

推しを持つものとして、いつか読まねばとは思っていた。いつか推しが燃えたときの備えにしようと思って…(?)


▶感想&所感(ネタバレあり)

読み始めてから、「ああそういう感じね?」と思った。

純文学初心者なので、主人公が「推しのいる高校生の女の子」というのはとっつきやすい。あっという間に読めた。

<前半>

くるしい。

あらすじの「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」というのは書き出しで、私は昔ミステリーを好んだせいか、「この事件の真相が明らかになるんだろうな~」と思って読み始めた。

ところが待てど暮らせど、真相に触れる気配がない。半分読み終えたところで、作中の時間は「推しがファンを殴る事件」から一年経過していた。

そして主人公は、「(これまでの推し本人の発言から)そんなことする人とは思えない」として推し続けている。

私はこのへんで「あっこれは真相に触れないまま終わるぞ」と思い、苦しくて一度読むのをやめ、3日ほどおいてから続きを読んだ。


主人公は、「有象無象のファンの一人」であることを望む人で、推しのありとあらゆる発言を集めて推しを「解釈」している。

だから推しが穏やかな人ではないが理性を保つ人で、ファンと一定の距離をとると公言していることを知っている。

知っているから、「推しが人を殴るとは思えない」として、推し続けていた。(本当に殴っていた場合でも推し続けていたのかはわからないけど)


推しを推すかたわら、それ以外の日常生活(学校、バイト、家族など)はうまくいっていない様子で、ついには高校も中退した。(後半、病院で「普通じゃない」と言われた、ともある)

生活がうまくいかないから、すがるように推しに注ぎ込むのか。

ただ、推しがいなくなっても生活がうまくいくようになるわけではないので、推しがいることは「救い」なんだよな~。


<後半>

地下ドルを推している友達が繋がりオタクになって苦しい。繋がるな。

いや別にいいと思うけど。創作の中のオタクすぐ繋がるじゃん。

推しの炎上は2山めがあり、1度目はファンを殴ったこと。

2度目は所属するユニットが解散するとき、前日にインスタライブで情報を漏らしたこと。解散会見で結婚指輪らしき指輪をしていたこと。

TwitterらしきSNSで、賛否両論悲喜こもごもの意見が飛び交う様子が、「こうなるよね」って感じでまた苦しい。

私だったら、恋愛禁止ユニットではないし結婚指輪はかまわないけど、前日にインスタライブで情報漏らしたらめちゃくちゃ怒っちゃうな。


主人公はなにげなく散歩に出かけて、特定されていた推しの住むマンションに向かっていた。(読み進めながら、「え?もしかしてこれ推しの家に向かってる?」と思ってゾッとした)。

アイドルをやめた推しの生活は、これからも続いていく。それが現実。

主人公は推しがただの人間に戻ることを理解して、傷ついて、「推しが人になった」「だからもう解釈し続けることはできない」という。そして推しを失った自分はもう死んだのだと。

推しがファンを殴った真相はわからないけど、理性的な人が、大切なものを自分で壊すことをわかって、それでも殴った瞬間に思いを馳せる。

そして、自分も壊そうとする。

その衝動とか、エネルギーとか、そういうものがわーーーーと伝わって、綿棒のケースを床にたたきつける。急に静かになる。

読んでいて、これが最後の解釈なのかも。と思った。わからないまま、気にかかったままだった「推しがファンを殴った」を、解釈し終えて、(自分のすべてである推しを推すことができなくなり)死んだのだ。


でも、まだ生きているから、骨を拾うことができる。

這いつくばりながら、「当分はこれで生きようと思った。」と、最後にちょっとだけ前を、推しがいなくなった未来に目を向けて作品は終わる。


<箇条書きでいろいろ>

  • この作品は結局、主人公が推しの真相を知ることはなくて。一方的に推しを推して苦しんで生きてる様子を描いているのに面白いのでそれはすごいのかもと今思った。

  • 作中、突然「推しは引退したり、卒業したり、あるいはつかまったりして急にいなくなる」とかいう文言が現れて、ウッとなった。

  • 「常に平等で相互的な関係を目指している人たちは、そのバランスが崩れた一方的な関係性を不健康だと言う。」という表現がすごくしっくりきた。なるほど!推し活を不健康だという人は平等で相互的な関係こそが良いものだと思っているのね。(一方的だから気楽でいいんだけどね)

  • 読んで「うわ!面白い!!!!」となったのはクライマックスが近づいてからなんだけど、そこまでは「推し活あるある」的おもしろさで読んでいたかもしれない。

  • 「推しを解釈する」のはオタクしぐさかもしれない

  • 文章がうめえ、と思う瞬間がたびたびある。作中、生活の中で出会ったことが、そのあと推しと自分について考えるときの表現に活用されるのが「リアルな人間の思考」らしさがあり面白かった。

  • 録音すな。でもそんなことをするくらい追い詰められている状態としてはよかった。結果うまくいかないのも良かった。でも録音はすな。


▶推し活について

わたしは物心ついたころには既にオタクで、推し活がもてはやされるようになる前から推しを推している。

でも、身を滅ぼすような推し活をしてはいけない、と思っている。私の人生は私のもので、推しのためのものではないことを忘れずにいたい。

この作品の主人公みたいに、自分のすべてを削って削って推しに注ぎ込む、というスタイルも憧れではあるけど、なれない。だけど「解釈する」のは良いなと思った。

いつかもし万が一にも推しが燃えたとき、自分なりの解釈があったほうが、受け止められると思うから。推しが法に触れたら推すのをやめる、と常々思ってはいるけれど、判断に迷う感じになるかもしれないし……。

他の人々の意見に惑わされないように、自分が納得できるように、推しを解釈したいな、と思った。そしてインタビューを真面目に読んだりしてみている。



久々に小説読んで「やっぱすきだな~」になった。


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