宮本背水

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毎月短歌14 テーマ詠部門 選歌評

〈金賞〉 かくれんぼしようと言った母親はもういいかいと聞かずに去った/反逆あひる  怖いですねえ。こどもを残して母親が失踪したと受け取るのがしっくりと来る読み方でしょうか。起こりうる、もしくはどこかで実際に起きているホラーです。たまにドラマとかで聞く話なんですが、わたしの知人にも実際に似たような経験をしたひとがいます。  ところでホラーとは恐怖を意味する言葉ですが、そもそも恐怖とはいったいなんなのでしょうか。「恐怖とは典型的な情動のひとつで、有害な事態や危険な事態に対して

    • 毎月短歌13 自選部門 選歌評

      〈金賞〉 鏡面に写った僕のTシャツのゆるむ首元から梅雨が来る/てと  良い短歌ですね。ちょっと難解というか、シュルレアリスム的な雰囲気もあって、けれども結句の飛躍には非常に納得感があります。理屈ではなく感覚として、鏡に写る自分というシチュエーションとTシャツのゆるむ首元というアイテムが「梅雨」の訪れに対する言語的な説得力があるんですよね。読めば読むほど味の出てくる短歌です。この発想力というか、これが「歌として成り立つ」として詠んだ一首に対するバランス感覚がすばらしいと思い

      • さべつとぼうりょく

        まじめな話をしてしまう。 アカデミー賞におけるウィル・スミス氏のクリス・ロック氏への暴力事件についてだ。 ウィル・スミス氏の暴力の是非はひとまず置いておくとして、まず大前提としてクリス・ロック氏の発言はまごうことなき差別であって、けして容認してはならないものだ。 この暴言について、氏と、賞の主催者である米映画芸術科学アカデミーは反省して謝罪すべきである。 そして米映画芸術科学アカデミーには、彼をプレゼンターとして起用した責任がある。クリス・ロック氏の発言が団体としての総意

        • 変態は褒め言葉である!(後編)

          めっちゃくちゃ遅くなってしまったんですが、後編です。 世の中には変態が多すぎる。すばらしい。 クレヨンのどうせ捨てちゃうとこの黄をください 星を 星を描きたい/御殿山みなみ 実に変態である。なんだろう、この切迫した感じは。クレヨンの黄色、というのは、どうだろう、個人的にはそこまで不人気な色だとは思わないのだけど、でも、この主体にとっては「どうせ捨てちゃうとこの」って語られてしまうカラーなんだろうな。「どうせ捨てちゃうとこの黄」で「星」を描きたいと願うことの歪な感情。強い息

        毎月短歌14 テーマ詠部門 選歌評

          変態は褒め言葉である!(前編)

          先日、ツイッターで「#いいねした人の2018年の短歌から一首選んで感想を書く」というタグに反応して頂いた方の歌に感想を書かせて頂きました。 なお、評のなかに「変態」という言葉が多用されていますが、これはわたくしどもの界隈では最大級の褒め言葉であることを御留意いただければ幸いです。 後半は年明けになっちゃうかもなぁ……できるだけ早めにやりたいところです。 あと30年は元気でいられるよ いま飲み込んだきみの唾液で/平出奔 実に変態である。平出奔さんことヒライデホンさんは、口語

          変態は褒め言葉である!(前編)

          『歌集 ベランダでオセロ』を読む

          『ベランダでオセロ』を読みました。安直なコピーを付けるなら「新進気鋭の若手歌人による百首競詠」という感じのアンソロジーで、計四百首、非常に読み応えのある作品集でした。以下、一首ずつ歌を引きながら感想をちょろっと。 ★ 御殿山みなみ『テン・テン』 十首の連作が十個、また連作ごとに文体をいじっていることから「転々」にも掛けられたタイトルと思います。文体(というか、その元となる意識)の変遷は、おそらく冒頭に提示される平野啓一郎の「分人」の思想を反映したものかと思います(『私とは

          『歌集 ベランダでオセロ』を読む

          「歌人のふんどし」感想十首

          「歌人のふんどし」、とても楽しかったです。 その中から個人的に気になった作品のいくつかを引きながら感想を書いてみました。 「もう世界終わるね」「そっか」「終点の先をあなたに伝えて逝くね」/逢『終点の先。ちいさな惑星。』(題:郡司和斗) ・誌面でもトップを飾る歌。SFのような不思議な世界観。一首としては、この会話だけを覗き聴いているような、ラジオから漏れ聞こえてしまったような、遠く静かな世界の混線として響きます。連作として読者から触れ得ないところに確立される世界観が静謐で、

          「歌人のふんどし」感想十首

          自選短歌30首

          自選短歌30首 うたの日・塔短歌会誌・各種投降歌からまとめています。 うたの日より(10首) 寂しくてケーキを食べた 世界からケーキがひとつ減つてしまつた けれど僕らジャン・バルジャンを赦さずに石をぶつける人なのでした 「Attention! 全校生徒に告ぐ。今宵、盗まれた火星を奪還せよ!」 ゆふぐれのみづうみに浮く島がある おそらくおれのかなしみである だけど今ほrびゆく都市をテレビジョンで眺むrぼくへ咲きほこr花 ボールペンでひとは殺せる 胸に棲むチェ・ゲ

          自選短歌30首

          角川『短歌』投稿欄掲載歌まとめ

          葉の月と呼ばれたるもの去りぬれば曼珠沙華こそ野辺に咲くらめ 惜しみたる夏の別れに野良猫は野薔薇にキスのごとき小便 〈ユートピア〉を生きる僕らの叛逆の証としてのネコ耳である 駅前でボブ・ディランとか弾いてゐる陽気な外国人におやすみ わたくしの青空を翔く一篇の詩であることの白亜の記憶 残業の夜に火星の影を追ふサラリーマンの銀縁メガネ たくさんのスーツの人が終電に たくさんの僕がゐる世界です 曇り夜の惑ふひとりの晩酌を咎めるやうに麒麟が睨む はじめての冬にとまどふ猫

          角川『短歌』投稿欄掲載歌まとめ

          #ふぁぼされた数だけフォロワーさんの短歌を紹介する

          先日やった#ふぁぼされた数だけフォロワーさんの短歌を紹介するのまとめです(宮本背水編) 1 NO RAIN NO RAINBOW . うつくしい再会のため降る雨がある/冨樫由美子 2 すぐそこに海、僕たちは知つてゐる青は進めと云ふ決まりごと/千葉優作 3 町はもう魔法少女の夢のなか 大人のいない戦争がある/たくあん 4 病室に閉じ込められた君のため画像フォルダを桜で満たす/えんどうけいこ 5 声がまだ発明されていないころ何処にいたのかぼくらの歌は/雀來豆 6 ♪

          #ふぁぼされた数だけフォロワーさんの短歌を紹介する

          塔2018年4月号感想⑤(終)

           気がついたら5月号が届いている!  急いで最終回をアップします。 ★作品2欄 小林幸子さん選歌欄から 児の歌を冷泉流に読まれをり神の御前に昇殿をして/三浦智江子 自分が詠んだ子供の歌、と取りました。神社への奉納短歌で入選されたのでしょうか。冷泉流の披講のなか、歌を通してお子さん自身がまるで神と対面しているような非日常性とひそかな誇らしさを感じさせる歌ですね。 みえざるを何か啄むセキレイのセキレイこそがまぼろしだらう/千村久仁子 哲学的というか、どこか衒学的な雰囲気

          塔2018年4月号感想⑤(終)

          塔2018年4月号感想④

          ★作品2欄 江戸雪さん選歌欄から 西国のをみなは柑橘煮るだらうわがストーブに林檎が煮ゆる/加藤和子 秋田の方の歌。地方の特産となる果実を煮る……きっと遠くに住むひともそうしているであろうと想像を働かせること。見も知らぬ遠国の人と、おそらくは普遍的と思われる行為を持って繋がる瞬間の不思議と心地よさを、冬のやわらかな景色とともに広げてくれる歌です。 しづかなる海は真夏のゆうぐれの永遠に触れ得ぬよこがおを見る/田村龍平 これはちょっと変な読みなのかもしれないのですが……この

          塔2018年4月号感想④

          塔2018年四月号感想③

          続きを書いていきます。 やっぱりこうやって見ると誌面に載っている短歌の量はすごいですね。 ★作品2欄 花山多佳子さん選歌欄から 子の生るるとき満つるごと梅の花夜道に香りをたどりてゆけば/岡本潤 全体にただよう格調が梅の香りを読み手にまで匂わせてきますね。なにより「子の生るる」という初句の、その祝福をするかのような景が祈りのようでうつくしいです。 ふくらはぎあらはにいでしをとめにも吹きすさびをり暮れの北風/足立訓子 あえてここを切り取って歌にするという視点が、なんかも

          塔2018年四月号感想③

          塔2018年4月号感想②

           だいぶ遅くなってしまいましたが、続きの感想を書いていきます。 ★作品1欄 永田和宏さん選歌欄より 新月に採られし材に建てしとふ法隆寺はなほ息を吐きをり/河崎香南子 法隆寺ってそうなんですね。まずその意外性から掴まれたのですが、その後に「新月」の静けさと「なほ息を吐きをり」の擬人法が格調を持たせています。 「採られし」と「建てし」の「し」は、文法的には厳密には「ける」の方が適切だと感じるのですが、短歌の世界では古くから許容されている用法です。このあたりの話は長くなるので

          塔2018年4月号感想②

          塔2018年4月号感想①

           塔に入会してはやいもので一年が過ぎました。  実をいうと仕事にかまけて結社誌の歌をすべて読むことができないようなときもあり、また読むにしても漫然と字面を追っているだけになってしまっていたりと、これではいかんと反省しきりで、なにかしら対策しなければならないというところで、とりあえず誌面で気になった歌だけでも書き留めていこうと思い立ちました。  毎月となると難しいかもしれないので、まずは隔月ぐらいで試みてみようと思います。 逆光に耳ばかりふたつ燃えてゐる寡黙のひとりをひそかに

          塔2018年4月号感想①

          あみもの第三号 感想十首

          ひとりのみアセチレン・ランプ夜店番こっちを見てる金魚のひとみ/笛地静恵 ・どこか昭和情緒のかおりの漂う連作。この歌には「不忍の梅は蕾か漕げボート」という端書がある。上野の夜店か立ち暖簾の、戦後日本の原風景としての、しかしどこか闇を含んだ描写がうつくしい。 寿司屋でのインターフェースは人であれ ちちはははもうパネルを見ない/松岡拓司 ・寿司屋でもタッチパネルでの注文方式の店がある。ひとによっては手軽だし、管理も楽なのだろう。けれど「ちちはは」は昔ながら対面の注文しかしない

          あみもの第三号 感想十首