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月の女神と夢見る迷宮 第二十五話

大逆転の真相?

 「ラパンっ! もう敵はいないんじゃなかったのっ!?」
 「てき……ちがう……これ……しろ……」
 白? この娘は白い人狼族の生き残りなの?
 
 「でも、まだ味方と決まったわけじゃ……」
 「アタイ、悪い狼じゃないよっ!」
 いや、そんなスライムみたいに言われてもさ……

 さっきまで死ぬかも知れなかった戦いを人狼族と繰り広げていたのだ。そうは簡単には信じられない。

 そんな私の不安をなだめすかすかのようにミズキさんが言う。
 「まあ、とにかく話だけでも聞いてみよう。何か知ってるみたいだしね」
 その言葉にお嬢様も
 「流石にそんなボロボロでは戦えないでしょうし」
 と賛同する。

 「そう……ですね」
 私はまだ少し怯えながらも賛同の意を示した。

 フィーナ

 「まずは助けてくれてありがとう。アタイはフィーナ言います」
 そっか、この娘って最初に保護しようとした白い人狼族なのね。でも、もう1人いたような……

 するとフィーナは悲しそうに
 「生き残ったのはアタイだけです……」
 と呟いた。ヨシュアも首を横に振っている。ヒールが間に合わなかったのか、男だったかのどちらかだろう。

 「その事については残念だったとしか言えないけど、そもそもどうして争っていたの?」
 お嬢様が単刀直入に切り込んだ。

 「それは……」
 フィーナの話をまとめるとこういう事だった。
 
 元々黒の人狼族である『黒狼族』と白の人狼族である『白狼族』は長年にわたり縄張り争いを続けていたそうだ。勢力的には均衡していて、表だった争いはしばらく起こってなかったのだが、最近になってそれが崩れた。白狼族の長が病に倒れたのだ。

 その隙を突いて黒狼族が攻めてきたのである。白狼族も勇敢に戦ったが、黒狼族の長の前には無力でしかなかった。あえなく敗走した白狼族はこの地まで追い詰められ、フィーナを残して全滅してしまったのである。

 「もしかして、あの巨大な黒狼族が長だったの?」
 「そうです。アイツがみんなを……」
 フィーナの瞳から涙が零れた。

 「それなんだが……」
 ライトさんが口を開いた。
 「ヤツはどうなった? お前は何か見たんだろう?」
 そう、フィーナは最初にこう言った。「私は見た」と。

 「うん、アタイは見たよ。白い光の渦の中から白い髪の女と緑の龍が現れて……」
 「はびゅっと?」
 ミントが口を挟む。

 「そうそう、龍はそんな感じの音を出しながら空を飛んで」
 「それが黒狼族の長と戦ったの?」
 「うん、めちゃくちゃ強かった。アタイ毛が逆立っちゃったよっ!」

 フィーナはその時の戦いの様子を熱く語った。それによると、その白い髪の女と緑の龍の戦い方は圧倒的だったそうだ。

 長の攻撃はことごとく龍の鱗に阻まれ、女が持つ光の剣が毛皮ごとヤツを切り刻んだそう。最後は龍が放った雷の矢が長の腹を貫き、長はよろめきながら逃げて行ったらしい。

 「それで、長が逃げた後にまた光の渦が巻き起こってさ……」
 その光の渦が収まると女と龍は消えていたらしい。

 「今の話だと黒狼族の長は死んでないという事だな……」
 「ああ、傷ついてはいるみたいだけどね」
 「もし次に遭遇したら……」
 「勝てないわね。こっちの攻撃が通じないんだから」
 「その女の人と龍を味方にできないですかね?」
 「そう何度も都合良く行くとは思えないわ。そもそも何処の誰かも、どうして助けてくれたのかも分からないし」

 そもそももう一度逢えるかどうかよね。
 「このままだと次に遭遇した時、打つ手がない。今度こそ全滅する可能性がある」
 「一度村に戻るか?」 
 ライトさんの言葉にミズキさんが応える。

 それが現実的な判断かも知れない。フィーナの保護という観点も含めるとね。

 「アタイに考えがあるんだけど……」
 フィーナがおずおずと話し出す。
 「黒狼族の里には、人狼族にとって弱点になる武器があるはずなんだ」
 「どういう事だ?」
 「元々その武器は白狼族の里の物だったんだけど……」

 フィーナの話では、その武器は人狼族の弱点となる魔銀の弾丸を撃ち出す物なのだそう。白狼族の長がそれを管理していたのだが、病に倒れたどさくさに紛れて黒狼族に盗み出されてしまったらしい。

 元々争いを好まない白狼族が黒狼族に攻め込まれなかったのは、それが抑止力として働いていたからだったのだ。けれどそれが盗み出されてしまった事で力関係が崩れ、一気に攻め込まれてしまったわけだ。

 「その武器を手に入れられれば戦えるというわけだね?」
 「うん、今は黒狼族の長も傷ついていて、守りが手薄になってるはず」
 今がチャンスというわけね。でも、簡単にその武器を手に入れられるかどうか……

 傷ついてるとは言え、そこには黒狼族の長が待ち構えているだろう。その傷の深さもフィーナ視点だから不確かな部分が多い。そして、まだ少なくない黒狼族が里には残っているはずだ。普通に考えれば分の悪い賭けだと思うんだけど……

ライト

 「俺は行く……」
 ライトさんがボソリと言った。
 「だが危険だ。シーナたちは戻れ」
 なっ!? 何を言ってるの?
 「……1人で行くつもりなのかい?」
 「俺は出来うる限り早く剣聖にならなければならない。その為にはこの先に進む必要がある」

 「ライトにもきっと事情があるのよね。だけど……」
 そうよっ! お嬢様、ライトさんを止めて下さい。死んじゃったら剣聖にだってなれないんだから!

 「アタシにもあるのよね。進まなきゃならない事情ってヤツが」

 ええっ!? まさか……

 「だから1人で行かせるわけにはいかないわ」
 
 そ、そんなっ……
 お嬢様の言葉に私はガックリと膝をついた。
 
 


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