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月の女神と夢見る迷宮 第二十四話

絶望的な戦いをくぐり抜けて

ミズキ

 「ディアナさんとラパンは僕がっ!」
 「任せたヨシュアっ! ライトっ、左から回り込めっ!」

 ──時が止まってしまったような気がする。そんな風に感じながら、私は目の前の風景をじっと見ている。ただひたすらじっと……

 男の人たちと黒い塊が近づいたり離れたり。近づく度に「キンッ!」とか「ガンッ!」とか大きな音がして。その度に私は耳を塞ぐ。この音は気分を悪くする……

 「シーナっ! 前に出るなっ! 下がれっ!」
 ……下がる……なぜ……? どこに……?
 今のは誰……? ミ……ズキさ……ん……?
 ……分からない……何を言ってるの……?

 「ま…… ……ま! ままっ……!」
 ……ん? 頭の上で叫んでるのは誰……?
 え? 妖精……綺麗な子……

 「ままっ! ままっ! どうしたの、ままっ! しっかりしてっ!!」
 まま? 私はあなたのママじゃないわ。ない……よね……? あれ、違うよね? ……私って誰だっけ?

 「シーナっ! 何やってるっ!」
 あ、この人は分かる。ライトさんだ。でも、何で怒ってるの……? やだよ……怒らないで。悲しくなっちゃうから……

 「駄目だ、止められないっ! がっ!!」
 「ガインッ!!」
 黒い塊が大きく飛び跳ねて、ミズキさんに当たって。あ……ミズキさんが寝ちゃった……。そんなところで寝ちゃったら駄目じゃない。風邪ひくよ……? 

 「らいとにんっ! らいとにんっ! おねがい、たおれてっ! らいとにんっ!!」
 すごぉい……妖精さんの指からいっぱい光が飛び散ってる……

 「だめぇっ! たおれない、たおれないよぉっ!!」
 妖精さんの光が黒い塊に一杯当たって。弾けて消えて。とっても綺麗で……

 「シーナっ! 逃げろっ! ここから離れろっ!」
 黒い塊がこっちを見てる? こっちに来るの? 嫌だ、こっちに来ないで……

ライト

「ここは通さんっ!」
 ガキンッ!
 黒い塊がこっちに近づいて……ライトさんが受け止めて……

 「ままっ! にげてっ! おねがいっ! きゃあっ!!」
 妖精さんが黒い塊に飛びかかって……弾き飛ばされちゃった。

 「グォアーッ!」
 バキィッ!
 「ぐおっ!」
 今度は黒い塊から飛び出した長い何か。それがライトさんに吸い込まれて。え? ライトさん、血が出てる……? 大丈夫?

 「シーナ……逃げてくれ……頼む……」
 あれ? 血が出過ぎてない? こんなに血が流れたら……人は死ぬんじゃ……? 死ぬ
……? 死んでしまう?

 このままじゃ……このままじゃライトさんが死んじゃう。嫌だ……それは嫌だ。私は……私は……わ・た・し・は……

 「私は……を守りたいっ!」
 
 ──シュィーーーーーーン──
    ……Accept Order
    Guard Skill Open
 Attack Enemy with LABYRINTH……

 そんな声がどこかともなく聞こえ、突如として巻き起こった光の渦。それは全てを飲み込んでいく。そして──私の意識はそこで途絶えた。

────────────────────

 「……しーな……おきて……」
 「……まま……おきてよぉ……」
 うるさいな……まだ寝かせてよ……

ディアナ

 「シーナっ! 起きなさい、シーナっ!!」 
 うぇっ! お嬢様っ!? ごめんなさい、お嬢様より遅く起きるなんてっ! 従者失格だ。
 私は慌てて飛び起きて
 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
 寝ぼうした事を平謝りに謝る。

 「どうやら無事のようだね」
 あれ? ミズキさんも側にいたのね。少し恥ずかしいけれど、ミズキさんの優しい言葉にホッと息をつく。ん? でも無事って……

 「……本当に大丈夫なのか?」
 誰かの大きな手が私の頭に触れた。そしてそれの持ち主の黒い瞳が、私の顔を覗き込む。えっ? えっ! えーーーっ!? ち、近い近い近いっ。

 「だだだ、だいじょ……」
 な、何なの? 胸がドキドキする。ライトさんってこんなに優しい目をしてたっけ!?

 「それにしても何が起こったのかしらね……」
 「それなんだよね。ヨシュアは分かるかい?」
 「僕はディアナさんとラパンをヒールしてて……そしたら光に包まれて……気を失ったみたいです」
 「覚えてない……か」

 ああっ、思い出したっ!? 私たちは黒い人狼のボスと戦って。お嬢様とラパンが傷ついて。それから……それからどうなったんだっけ?

 「最後は俺もやられたと思う。この状況で生きてるのは不思議だな……」
 「そうね、私たちが目覚めたら敵はいないし全員が倒れていて驚いたわ。特にライトは酷い怪我だった。幸いミズキもライトもポーションが効いたから良かったけどね」

 「最後まで残ったのはシーナって事かな?」
 「えっと……私はお嬢様とラパンが跳ね飛ばされたところまでしか記憶がないです……」
 「そういえば、何を言っても通じてなかったみたいだったな。立ったまま意識を失ってたという事か……」

 そ、そんな器用な真似を私はしてたのっ!? 穴があったら入りたい気分よ……

 「ラパンとミントは?」
 「わからない……おきたら……みんな……ねてた……」
 「なんかねぇ、はびゅっとしたような気はするんだけどぉ……覚えてないなぁ……」
 『はびゅっと』ってのが何なのか分からないけど、彼女たちにも分からないみたいね。

 「取り敢えず今のところ危険はないみたいね。やれやれかしら?」
 お嬢様がそう言うと
 「うん……そばに……てきは……いない……」
 ラパンが耳を澄ませながらそう言った。

 その言葉に全員がホッと息をついた時
 「アタイは見たっ!」

 「誰だっ!?」
 木の陰から突然現れたのは、ズタボロの服を着た女の子だった。その娘は警戒しながら私たちに近づくと、もう一度言った。
 「アタイは見たんだっ」
 


    
    
   


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