見出し画像

月の女神と夢見る迷宮 第十三話

広がる夢は無限大よねっ!

チャイム

 ラベンダーが空腹を満たし動けるようになると、私たちはチャイムの案内で移動した。ここはラベンダーの苦手な匂いが充満してるからね。
 
 チャイムについてしばらく歩くと、やがてラベンダー畑を抜け、向日葵の花が咲く丘に出た。そこからしばらく進むと湖があり、その畔には小さなログハウスが建っていた。
 
 「綺麗でいいところね」
 お嬢様が感心したように言う。すると
 「この家はチャイムが建てたのかな?」
 ミズキさんが不思議そうに尋ねた。
 
 「うん、こーゆーのは得意なの」
 チャイムが自慢げに話す。森の木をその鋭い歯で切り倒し、みんなで運んだんだとか。意外と力があるみたい。また1つ、ナイトラビットの生態が明らかになったわ。
 
 ログハウスの中を一通り案内して貰った後、改めて私たちは外に出た。まだラベンダーの体調が完全ではないのが、ここまでの道程でも感じられたからね。庭に出ると、ラベンダーのことをラパンが面倒みていた。

ラパン

 「ラベンダー、これも食べる?」
 私たちはミズキさんのマジックバッグに入っていたお肉をラベンダーに与えた。チャイムたちの前で獲物の肉を出すのはちょっと躊躇ったけど、これも自然の摂理だ。今のラベンダーには動物性のタンパク質が必要なのだ。ラベンダーはお肉をひとしきり食べ、満足したのかその場で眠りについた。
 
 「さて、今後のことだけど……」
 お嬢様が話し始めた。
 「チャイムたちはどうしたい? 一応私たちはアナタたちと交渉するために来たんだけど」
 
 「うーんとね、村に住むのは無理かなぁ」
 チャイムには私たちが村人から受けた依頼内容が伝わっていた。まあ、話すまでもなく私の記憶が共有されてたわけどけど。
 
 「なんで? 鶏を盗んだ事は事情を説明すれば大丈夫だと思うけど」
 私がそう言うとチャイムは
 「まだここを離れるわけには行かないから。セージとローズマリーはまだ幼いし、ラベンダーもいるし」
 
 「なるほど、確かにラベンダーを連れて行くわけには行かないわね」
 「体調が回復して山に入れるようになったら自分で餌も探せるでしょ。それまでここで面倒見ようと思うんだ」
 
 その時ヨシュアが話に割り込んだ。
 「テイムされた魔物や動物って主人から離れて暮らせるんですか?」
 
 それは私も気になっていた。もしチャイムたち全員とラベンダーを連れて旅をするとなると大変な事になる。シーオーシャンの街中に入るのも難しいだろう。
 
 「しーちゃんとウチらは別に主従関係じゃないからねー。契約はしてないからさぁ、心の通い合ったマブダチみたいなもん?」
 となると、ここでそのまま暮らすのは問題ないと。それなら……
 
 「じゃあさ、ここに作ればいいんじゃないかな? チャイムたちと触れ合えるテーマパークを」
 私がそう言うと、ミズキさんも肯きながら
 「この辺りは美しい自然に囲まれた所だからね。それも売りになるだろうね」
 と言ってくれた。

ライト・ラブノゥ

 「だが人が大勢来るようになれば、それだけ危険も増える」
 とライトさんが言った。相変わらずぶっきらぼうだけど、チャイムたちを真剣に心配している事が分かる意見だ。
 
 「まあ、その辺は村の人たちと相談して、管理人とかガードマンとか置いて貰えればいいんじゃない? ラベンダーもいるし何とかなると思う」
 とチャイム。
 まあ、それなら大丈夫かな? チャイムたちもそれなりに自衛の力はあるみたいだし。
 
 「ウチらもさ、人間と触れ合うことでメリットがあるのよ。人型に変身するのには、人間をよく知らないとさ……」
 セージとローズマリーは、これから人型になる事を覚えるつもりらしいしね。
 
 「そうだ、鶏。ここに放し飼いの養鶏場を作るのもいいんじゃない? 卵を販売したりすれば、村の特産品になるかも」
 「いっそのこと牧場にする? 牛とかも飼えばミルクもとれるわよ」
 「卵とミルクでアイスクリームもできそうですね」
 「武道大会を開くのもいい」
 みんながそれぞれ思った事を言い始め、話は盛り上がる。

ミズキ・カサハラ

 「どれが実現できるか分からないけど、村長さんに提案してみよう」
 最後にミズキさんがそう締めくくり、話は終わった。
 
──こうして私たちは当初の目的であるナイトラビットとの交渉に成功し、村に帰ることにした。
 
 「じゃあ近いうちにまた来るから」
 私がチャイムたちにそう別れを告げると
 「何か新しい進展があったら教えてねー。村までなら余裕で繫がるはずよ、しーちゃん」
 チャイムがそう言った。
 
 最後に『脳内会話でね』という言葉が頭の中に浮かんだ。
 
 チャイムたちの元を離れた私たち6人は、ラベンダー畑を抜け、村に向かって歩いていた。ん……6人? 一緒に歩くパーティーメンバーをよく見ると、1人だけ兎の耳が付いている。
 
 「ラパンっ!? アナタ、ラベンダーのお世話をしなくていいのっ?」
 驚いた私がそう言うと、ラパンはこう返事をした。
 
 「ラベンダー……わたし……しーなで……つながる……」
 私って中継機にもなれるのか。何か便利なアイテムになった気分だわ。
 『便利よねー』『『べんりー』』
 すかさずチャイムたちの言葉が頭の中に。
 
 「ラベンダー……こまる……すぐ……かえる……」
 そっか、ラパンにすればすぐ帰れる距離だもんね。ラベンダーに何かあったら帰ればいいのか。
 
 「それに……ラパンつかまった……たいほ……」
 ん? 逮捕?
 「しーなのとっつぁん……ラパン……たいほした……ラパン……にげられない……」
 
 ラパン、アナタ……宿の漫画を読んだわね?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?