月の女神と夢見る迷宮 第十九話
進化するのは嬉しいんだけどさ
「ラパン、アナタ凄いわっ!」
「本当、ラパンは役に立つね」
「ここまでやるとは思わなかったな」
「まさに電光石火よね」
「頼りになるヤツだとは思っていたが……」
みんなが口々に褒める……いや褒め殺す。ミントの魔法の凄さをみんなが褒めたことで拗ねてた姿を見てるからさ、ライトさんさえ空気を読んだのだ。
ラパンは耳をピクピクさせながら、フンフンと得意気に鼻を鳴らす。ホンモノの兎っぽい仕草が、いやもう可愛い過ぎる。
「ところで……あの攻撃は何なの?」
お嬢様が核心に触れた質問をした。みんなの関心はまさにそれ。じっとラパンを見つめ答えを待つ。
「ミント……これくれた……つかいかた……きいた……」
どうやらミントがラパンにこの武器を託したらしい。
「ミント、これは何?」
私が聞くとミントは曖昧な言い方ながらも説明を始めた。
ミントが言うのには、その武器は最初に説明したようにゴブリン妖精からドロップしたそうだ。使い方は──ここがミントにもよく分からないみたいだけど──手に持った瞬間何となく分かったそう。
「恐らくは古代のアーティファクトだな……」
「だとしたら凄い発見よっ!」
古代のアーティファクトというのは、古代文明の忘れ形見であり、失われてしまった技術によって作られた遺物だ。主にダンジョンや遺跡から産出する。これを手に入れる為に、日々大勢の冒険者がダンジョンに潜っているのだ。その事からも、いかに貴重なアイテムかが分かるだろう。
でも、そんな超レアなアイテムがゴブリンのような低級のモンスターから出るものだろうか? 普通宝箱とかから出るんじゃないの?
「あれはライトニングでもなかったですね。ホーリーランス?」
ヨシュアが尋ねるとミントが答えた。
「うん、ほーりーらんす? わたしの手から出るのとはちがうよ。わたしはそっち使うからラパンにあげたの」
つまりミントは自前のライトニングがあるから、ラパンにこの武器を譲ったということね。なんて尊い関係なの。
「わたし、ままも好きだけど、ラパンも好きだもん」
ま、ママ? ……マ? 私はいつの間にかミントの母親的存在になっていたらしい。うーん……
「取り敢えずは分かったわ。その武器は引き続きラパンが使って」
「これ……剣にもなる……」
ラパンがそうやって筒を振ると、一条の光がその先から伸びた。
「うわあっ、光の剣だーっ!」
余りの衝撃にお嬢様が幼児退行してしまった。誰もが光の剣に魅入られてしまっていた。あー、こういうのライトさんも欲しいわよね、きっと……
しばらくの間、時が止まったかのような空気が流れていた。
「と、とにかく……そろそろ先に進まないか?」
その雰囲気打ち破るかのように、ミズキさんがそう言った。
ここが安全でないと分かった以上、ここに留まるのは危険だ。そうミズキさんは言いたいのだろう。
「ちょっと待って……あそこに何か見えない?」
お嬢様が指差すのはラパンが倒したスケルトンの消えた後だ。
「宝箱?」
そう呟いて近寄ろうとするヨシュアにライトさんが静止をかけた。
「待て、不用意に近寄るな。ダンジョンの宝箱には罠が仕掛けられている事がある」
「ミミックという可能性もあるからね」
ミズキさんもそう付け加える。ミミックとは宝箱に擬態するモンスターで、近寄った生き物を食べるという凶悪なヤツだ。
鑑定持ちがいれば鑑定できるんだけど……。鑑定とは文字通り様々な物品を鑑定できるスキルだ。人によっては人物の鑑定も出来ちゃうらしい。
その時私の視界がいきなり切り替わった。これは……ミントの視界? ミントはいつの間にか宝箱に近寄り、じっとそれを見つめていた。
すると私の頭中に『宝箱 罠なし』の文字が浮かび上がった。
「え?」
まさかミントって鑑定持ちなの?
「ううん、ミントなんにも分かんない。観てただけー」
あれ? じゃあ気のせいかな……。そう思っていたらラパンがスッと宝箱に近寄り、その蓋を開けた。
「ちょっと、ラパンっ!」
思わず声をあげる私。開けるなら私の方が適役なのに。何かあってもヨシュアがいるし。
「しーな感じてたよ……わな……ないって」
えっと……。つまり鑑定持ちなのは私? ミントじゃなく?
「何? シーナって鑑定持ってたの?」
お嬢様が不思議そうに聞いてきた。
「そんな……今までそんなの感じたことなかったです」
シャロン家でも美術品の価値とか全然分からなかったもの。もしそんなスキルを持っていたら、冒険者より商人の道を進んでいたかも知れないわ。
「シーナはテイムでかなりレベルアップしてるからね。新たに鑑定のスキルを獲得したのかも知れないね」
ミズキさんがそう言った。
冒険者が強くなる方法は2通りある。1つは魔物を倒すことで経験値を得て、レベルアップする方法。この場合はほとんどが身体能力のアップだ。
もう1つは固有スキルを多様する事で、スキルを身につける方法。例えば魔法使いが魔法を多用すれば、新たな魔法を覚えたり魔力が上がったりする。
大抵の冒険者はこの2通りの方法を平行して行い、レベルを上げて強くなるのだ。そしてここが特筆すべき点だけど、レベルがあがった時に、全く固有スキルとは関係ない新たなスキルを覚える事がある。ミズキさんが言ったのはその事だ。
「いいなぁ、シーナは。何かどんどん進化してくよね。置いてかれる気分だなぁ……」
お嬢様が溜め息をつきながらそう言った。そんなつもりはないんだけど……。ごめんなさい、お嬢様……。でも私、戦いでは全然役に立たないんですけど。
そんなやり取りがあった後
「宝箱の中身は何だった?」
ライトさんがラパンにそう聞いた。
「これ……」
ラパンが差し出したのは大剣? それは普通の剣のように金属で出来ている物ではなく、固い骨のような物で出来た剣だ。
「ボーンソードだな」
「両手持ち? かなり大きい……とっても重そうな剣ね」
「切るより叩き潰すのに敵した剣だからね」
その重量で敵を叩き潰して倒す武器。射程の長いメイス……どっちかと言うとフレイルに近いかな。
「これは私たちでは重すぎて使えないわね。ミズキかライトが使って?」
お嬢様がそう言った。
「僕は盾で手一杯だから、ライトが使った方がいいよ」
盾自体も重いものね。どう考えても片手で使えそうな剣ではないし。
「いいのか?」
ライトさんが周りを見回しながら言うと、全員が肯いた。
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