月の女神と夢見る迷宮 第十四話
プレゼンはプレゼントじゃないのよ?
夜になって村に戻った私たち一行は、ニナの宿で待ち構えていた村人たちに事情を話した。
「茶色のナイトラビットは、私たちと協力することを約束してくれました……」
ミズキさんがチャイムの事を詳しく説明してくれた。何故村に現れるようになったか、何故鶏を盗んでいったかも含めて。
「なるほどのぅ……。村に現れるようになったのはスキー場のせいじゃったか。それはわし等にも責任がないとは言えん……」
スキー場の拡張は村人の総意だったのだそうだ。より多くのスキー客を呼びたいと願う余り、環境破壊の事まで頭が回らなかったらしい。
「鶏を盗んでいったのにはそんな理由が……。ナイトラビットは私たちの救えなかった命を救ってくれてたのね。それなのに怖がっていたなんて……」
ニナが申し訳なさそうにしながらラパンを見た。いや、それに関してはちゃんとコミュニケーションをとらなかったチャイムも悪いと思うんだけどね。まあ、誤解は解けたんだからいいか。
「そして、ここからは提案なんですが……」
チャイムのところで私たちが考えたことを、ミズキさんがプレゼンしていく。
チャイムたちを村に呼ぶよりも、チャイムたちの住む場所をそのままテーマパークとして開発するというプランについてだ。その方がより多くの観光客が呼べるのではないかというミズキさんの話に、村人たちは食いついた。
「素晴らしいとは思うけど、その場所まで道を造る必要があるのでは?」
という村人の意見には
「その道自体をテーマパークの遊歩道にしてしまうんです。大自然の中をピクニックのように歩くこと自体、売りにできると思うんですよね」
と私が答えた。
「それはいい考えじゃの。開発は出来るだけ控え、自然をそのまま生かす。それなら自然破壊も最低限ですむしの」
村長の言葉に村人もうんうんと肯く。
「後は牧場の建設かあ……。そっちは大変そうね」
というニナの呟きにラパンが言葉を発した。
「ぼくじょう……わたしたち……つくる……だいじょぶ……」
私を通してちゃんと話を聞いていたらしい。私もラパンたちが物作りに秀でていることを説明した。
近くには牧草の生える広大な土地があり、柵で囲むだけで放牧地として活用できる。それはナイトラビットたちなら2、3日で出来てしまう作業であり、厩舎も簡単に建てられるという事も付け加えた。
「そこまでしてくれるのか? でも、村には彼女たちに返せる物がないのだが……」
「何かプレゼントでも贈る?」
ニナがそう言った。
「そういう物は要らないそうです。彼女たちも人間との触れ合いを望んでいるので。一緒に何かができることが喜びというか……」
「なんだか申し訳ないのう」
「それなら鶏を分けてやって。チャイムたちは鶏と相性が良いみたいなのよ」
お嬢様が村人と交渉を始めた。
「自然の中で飼う方が鶏にとっても良いと思うの」
お嬢様は村人たちにそう説明し、鶏牧場の構想があることも話す。自然の中で育つ鶏が生む卵は、きっと他より美味しいはずだ。そう言うお嬢様の横顔は、いつにも増して輝いていた。
夜も次第に更け、プレゼンは無事終了した。そして、全てのプランが村人たちに承認された。もちろん、一度に全部行うことはできないので、段階を追ってということにはなるけどね。そして最後にミズキさんが提案する。
「これからナイトラビットたちと共生をするに当たって1つ問題があります。それは名前の問題です」
そう、帰り道でその話が出たの。ナイトラビットという名前は人間が付けたものであり、異形の怖い生き物だという噂が広まってしまっている。一度広まったものを払拭するのは難しい。ならば、新しい名前をつけてはどうか? と。
「確かに……。ナイトラビットは恐くないということを今更広めるよりも、フレンドリーな生き物だとして、新しく名を広める方が効率的じゃの」
村長が肯定する。
「どんな名前にするの?」
ニナが興味津々といった体で質問した。
「それに関してはこれから……」
私がそう言いかけると、脳内に言葉が浮かぶ。
『愛のウサギ、キューティーバニーよ!』
『ちょっ、チャイムっ! アナタ盗み聞き……』
『盗み聞きじゃないもん。プレゼンに参加してただけだもん』
どっちにしろその名前はダメだ。私は悪魔の力を食らいたくはない。
『なら、魔法使いバニーは?』
『アナタ魔法使えないでしょうがっ!』
『使えますう~。変身も魔法だもん』
この子もどっからそういう知識を……あ、私の記憶からか。
「どうした、シーナ?」
私が急にフリーズしたのを訝しんでライトさんが声をかけてくれた。
「あ、えっとですね……チャイムからの希望で『キューティーラビット』はどうかと」
ちゃんとキューティーを入れたんだ。文句はあるまい?
『え、それ大丈夫なの? それも引っかかってない?』
引っかかってると自覚してたのね。性悪兎め。
『意味としては可愛い兎だからね。そこら辺は固有名詞じゃないから勘弁して貰うって事で』
誰に言い訳してるんだろう、私……
「彼女たちの希望であるならば異論はないのぅ」
ま、決めたのは私ですけどね。
色々あって疲れたけど話し合いは無事終わり、明日からの予定を確認して村人たちも解散した。何も落ちはないよね? そう自問自答してふと気づいた。
私たちっていつまでこの村にいなきゃいけないんだろう……?
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