田舎の猫 街に行く 番外編 我が麗しのグリーンフィールド
田舎の猫 夏の終わりに
「でもさぁ、まさか女王様が来るとは思わなかったよね……」
夏休みが明けた生徒会室。私たちシルフィードの面々は、夏祭りコンサートの反省会をしていた。ま、反省会って言っても単なるお茶会なんだけどね。
「びっくりしましたぁ。前に私のお母さんがぁ、お城の舞踏会でぇ、お会いした事があるそうなんですけどぉ、その時と見た目がぁ、ほとんど変わってないってぇ、言ってましたぁ」
この子のしゃべり方って長い台詞には向いてないわね。でも、メイのお母さんと同じくらいの歳って……マ?
「取り敢えず全員無事に学校へ来られて良かったです。あれだけの乱闘事件を起こしておいて、お咎め無しっていうのは女王様のお陰ですね」
と、生徒会長。
あの後威信軍団は解体。パワハラ知事の権勢も弱体化したと風の噂で聞いている。なんでも知事の座を息子に譲り、蟄居隠棲生活を送っているそうだ。
万博フェスティバルについては延期して、無理のない運営方法で再開という話になったそうだ。女王様は中止にすると言っていたけど、流石に鶴の一声で国家事業を無に帰すのは外聞が悪すぎるからね。
「ま、権力には権力をぶつけるのが一番やからな」
アオちゃんが言った。みんなの視線がアオちゃんに集まった。まさか……
「アオちゃんがパトリシア女王呼んだの?」
「この業界、コネって大事やからね。普段の営業努力の成果やね」
「コネって……営業って……まさか、枕っ!?」
「しとらんわっ!」
アオちゃんがつばを飛ばしながら言った。
「枕ってなんですかぁ……?」
メイの問いかけに生徒会長が顔を赤らめた。生徒会長って意外とムッツリーニね……
「観光大使の仕事でな、たまたま王城に行くことがあったんや。そんでな、女王様にチケット渡して『機会があれば是非』って言ったらな、たまたまあの日においでになったというわけや。パワハラ知事達と出くわしたんはホント偶然やで」
「でも、王都からグリーンフィールドまではかなり距離があると思うんだけど?」
「そんなん私がひとっ飛びしてん。女王様も最近のグリーンフィールドの賑わい聞いててな、夏祭りに参加したいって連絡が来たんや」
なるほどなぁ。アオちゃんが任せておけって言ったのはこういう事かぁ……
「ま、力はより大きな力に潰されるって事やな」
アオちゃんの言葉が私の心にストンッと落ちた。だから数は力なんて妄想に囚われるヤツらがいるんだね。自分に力がないヤツ程、自分が潰されないよう群れたがる。でも烏合の衆がどれだけ集まっても、鷹や鷲にはなれないんだよね。
こうして真夏のお祭り騒ぎは幕を閉じたのである。
「迎えに来たよ、アオちゃん」
「……マイちゃん……」
「アオちゃん、帰ろう? みんな待ってるよ」
「私、私な……いや、何でもない」
グリーンフィールドにある湖の底には忘れ去られた遺跡がある。その遺跡を介して私たちの世界とこの世界は繋がっている。
最初、この世界に来た時は遺跡の存在に気付かなかった。何故ここに飛ばされたかも分からなかった。
でも、メイちゃんがこの湖に魔法を撃ち込んだ時、遺跡が光り輝くのを私は見た。そしてそれが時空の門であると私には分かった。何故なら、このグリーンフィールドに来た時に私が潜(くぐ)った門と同じだったから。そして時空の門の中に見えたのが、私の元いた世界だったから。
「もう少しここにいたかったけどな……」
グリーンフィールド……私の第二の故郷。アオイ・グリーンフィールドの名前が馴染むようになって随分と経つ。
でもお別れだ。あちらの世界にも私を待っている人たちがいる。町の観光大使の任期も終わり、帰れると分かった以上帰らないという選択肢はない。でも、一度戻れば再びグリーンフィールドに戻れるという保障もないのだ。私は揺れ動く心に翻弄されていた。
そんな私の心を見透かしたかのようにマイちゃんが言った。
「大丈夫、いつでも戻って来られるよ。私が来られたのがその証拠」
「うん……」
だからさよならは言わない。メイちゃん。アマネさん。生徒会の人たち。そして……音子ちゃん……
私はマイちゃんと湖の底に潜り、時空の門を閑かに潜(くぐ)った。
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