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【後編】アラフォーの味覚音痴のおっさんが、高級路線の店からほぼ無傷で生還した奇跡の軌跡

以前、USJで働く従業員のプロ意識の高さについて綴ったことがある。

3年前。
USJに行ったときのことだ。

4歳の長女が、
パーク内のゴミを軽やかに拾う清掃員の一挙手一投足をモノ珍しそうにジーッと見ながら
「お兄ちゃん何してるの?」
と尋ねた。

するとどうだ。
ボクのような斜に構えた社会人とは
まるで住む世界が違う、驚くべき深い回答が返ってきた。

その清掃員。

長女に近づいてニッコリと笑うと
「ハリーポッターの落とした魔法のかけらを拾ってるのだよ〜」
と言い放ったのだ。

おそらくその清掃員は、正社員ではない。

しかし
ハッキリと言えることは、この清掃員は、
‘’USJの世界観を創る集団の一員‘’
という自覚をもって仕事に向き合っているのだ。

どの業種、どの業界でも言えるが、お客様に最も近いところに位置するアルバイト(クルー)にまで社の方針や教育が行き届いている組織は強い。

コロナ禍の昨年の数値を除くと、USJの年間入場者数は年々増加し今や1400万人を超えている。

2001年のオープン当初5500円だった1DAYパスポートは、今や最大9200円と高騰化。

値上がりしてでも行きたい。

もはやアトラクションの楽しさだけではない。パークの雰囲気やクルー独自のコミュニケーションが混ざり合って、ボクたち来場者の一日をよりプレミアムなものにしてくれる、USJはそんな場所なのだ。

−−−−−−−−−−
さてさて…
接客の重要性。

つい最近も改めて考えさせられる経験があった。
高級路線のとあるお店に入って…

はい。
少し遅くなりましたが後編です。

【前編 アラフォーの味覚音痴が、高級路線の店からほぼ無傷で生還した奇跡の軌跡】

〈前編までのあらすじ〉
金晩(金曜日の晩)に、部下の一人に誘われ高級路線のお店に。
全席、和の完全個室で、お琴の心地よい旋律が店内を静かに流れる。メニューは鮮魚に、様々な産地のお米に豊富な日本酒がズラリと並ぶ。どこからどうみても‘’高級風‘’である。
しばらくしてやってきた上品な着物に身を包んだ店員さんからコース料理や店内の説明、一杯めの注文を聞かれた。
そして最後に料理の追加オーダーや、二杯目以降の注文からは
‘’タブレット‘’
を使うように指南されたが、
ボクらはここになんとも言えない違和感を覚えた。
果たして酒の味の分からないボクはタブレットだけで支障なく注文できるのだろうか…

日本酒の味がわからない。

全く分からない。
「甘口辛口」「深い味わい」「コクがある」「樽の味わい」

……何一つとして感じることが出来ない。
どうやらボクの「味覚」は、5歳の頃から進化していないようだ。

一杯目の生ビールを飲み干したボクらはタッチパネルの注文へと移った。

二杯目はボクの地元の特徴的な銘酒
獺祭だっさい
さすがにこれは慣れ親しんだ味。
わかる。旨いぞ、うまい。

次は三杯目。
「ゆづおさんのお好きなものと同じモノにします。」という部下のプレッシャーがボクを軽やかに追い詰めた。

タッチパネルに記載された
「日本酒のリスト一覧」
とは正に凶器そのものである。
日本酒の銘柄ごとに3行くらいの説明書きがあって、記載されたその字面だけ追ってはみるものの、どんなに凝視しても、何も分からないのだ。

もうワケが分からないから、日本酒のうんちくを語る部下に一任してしまえ。

彼の説明する難解な日本酒の銘柄の特徴を聞いてフンフンと頷き、
「じゃ、オレもそれで」
と同じものを注文することにした。

やってきたグラスに注がれた日本酒をゴクリ、と。

あれ??
さっきの獺祭だっさいと、ほとんど同じ味じゃねーか。

自分の味覚が多少音痴であることを差し引いても、日本酒の銘柄間における細かな違いに関しては認識することができない。

「うわあ、この日本酒、獺祭だっさいとは全然違うね。この‘’甘口あまくち‘’が魚に合うわ」

飲んだ後にナニか言わなければならない空気に負けて一丁前にウナってみせた。

辛口からくちだった。

「あ、これ辛口です。」
部下の声が、込み上げる笑いを押し殺しながら震えているようだった。

「獺祭が辛口だから、次は違う風情ふぜいのものを」
と言ってタッチパネルを押したので、
「きっと甘口を注文したのだろう」
という謎の先入観による痛恨のミスをしてしまったのだ。

僕たちは高級店にナニを求めているのか

たとえば身近な例で言うと1000円カットと、5000円の美容室でのカット。

(※初めに言っておくとボクは毎月1000円カットを利用するヘビーユーザーであり、どっちが良いか悪いかを述べたいのではございません)

洗髪の有無で4000円の価格差に納得する客はいないだろう。じゃ、利用者の多くは技師のテクニックの差に4000円分の差額の価値を見出しているのだろうか。

たしかにカット技術に差があるのかもしれないが、美容室での経験を経て1000円カットで働いている技師も多くいるだろうし、カット数の経験値でいうのであれば回転数が高い1000円カットの技師の方が豊富のような気がする。

もっと究極を考えてみる。
お気に入りの美容師が1000円カットで働きだすと貴方あなたはそこに行きますか?
という質問に「行く」と果たして即答できるだろうか。

おそらく美容室を利用している多くの人が
「NO」
のような気がする。

……それはなぜか。
だって、人は相対的にみて高級なサービスを利用するとき
「お金をかけた分、他人がわざわざ自分のために時間と労力を使ってくれる」
ことを自然と期待しているからだ。

1000円カットが
「伸びた邪魔な髪をスッキリさせるための場所」だとすると

美容室は
「クライアントの要望に見合った見た目を良くするための場所」だと言える。

1000円カットでの髪型の相談はものすごくシンプルである。「どれくらい髪を切るか」をざっと伝えると、無駄な会話もせずに黙々もくもくと髪を切り始める。

対して美容室では「どんな髪型にするか」を美容師と相談して決めていく。

スマホで髪型を検索して見せたり、ヘア雑誌を見ながらイメージをすり合わせ、ナニかを聞けば答えてくれるし、希望を言えば適した髪型を提案してくれる。

時には「美容師におまかせ」にすることもできるし、髪の毛のことで困ったことがあれば相談に乗ってくれる。

つまり美容室を利用する多くの人はそういうサービスを含めて期待し、そして美容室は、その期待に応えられる仕組みとスタッフを用意しているのだ。

飲食店ではどうだろう。
高級なホテルのレストランでは、テーブルごとに担当がついて各料理の説明をする。

「歯が悪いから食べやすい肉がいい」
と言うお客様に、
「小さく切りましょうか」と提案したり、

「これってどれくらい辛い?」
と聞かれたら、
「辛さ控えめもできますよ」と説明する。

高級路線の飲食店は、最後までお客様とのコミュニケーションを図りながら丁寧な接客をし、

そして客は料理のクオリティもさることながら「他人がわざわざ自分のために時間と労力を使ってくれる」
ことにコストパフォーマンスを感じているのだ。

つまるところ飲食店における
「注文の時間」とは、
お客様とのコミュニケーションをとりあえる大切な瞬間である。

ボクはnoteでも幾度となく綴ってきたとおり‘’時短論者‘’であり、家事は機械でできるものは全部ぶん投げてしまったら良いと思っている。

しかし高級路線を売りにしてビジネス展開をする飲食店において
「注文」という顧客のニーズを聞くことができる唯一の時間を

機械(タブレット)にぶん投げてしまっても良いのだろうか。

開店に向けて四苦八苦する高級焼肉店の話

今やテレビで見なくなった、とある芸人さんとその取り巻きのアドバイザーが、高級焼肉店をオープンしようと奔放する中で

「食材の原価をあげるために人件費を下げる」と発言した。周囲の「それはまさしくブラック企業の典型例ではないか」

という指摘に真っ向から反論する形で

「デジタル化。iPadで注文して頂いたりとか、そういう仕組みをいくつか取り入れて、その分働いている人たちの負担を減らす」

と、言い放ったのだ。

果たしてこれは反論になっているのだろうか。

仕事の効率化は、先進国で最低の生産性の日本においては最大の課題であることは間違いない。しかし、コミュニティに関わる部分の効率化は、高級路線でいくのであれば最もやってはいけない悪手ではないだろうか。

こればかりは一方向から
「時間コスパ」
だけを考えて取り組むことではない。

‘’高級路線‘’と‘’コミュニティの効率化‘’は
相性が最悪である。

なぜUSJは高騰化しても人気なのか?
1000円カットではなく美容室に行く理由は何か?

そこにはメインディッシュの品質だけでなく
「他人がわざわざ自分のために時間と労力を使ってくれる」
というプレミアム感が既にコスパに組み込まれているのだ。

その考えは
「おっさんの古い思考」とか
「今どきのITを駆使したコミュニケーションを活用すべし」

として、否定派は一蹴するかもしれないが、
高級店がコミュニティの効率化を図ったことで、料理はそこそこ美味しいけど
「機械化された大衆飲食店」
に成り下がる可能性があるかもしれないということは、頭の片隅にでも置いておく必要があるんじゃないの、ってね。

採用した奇策が功を奏した

日本酒の甘口辛口も分からない味覚の持ち主の開き直った男は、もはや酔ったフリをして、ゲラのキャラに変更してみせた。

このときすでに部下は日本酒のうんちくは一切語らなくなった。

なんとボクのゲラのノリに合わせる方向に、かじをきったのだ。

「きんばん」のときだってそうだ。
酒の味覚も含めて
「無知識のくせに知ったかぶりするオッサン」だと彼の中でボクをそう認定してしまったのだろう。

しかしこうなると雰囲気は一変する。

さっきまでの部屋の静けさがウソだったかのように二人の酔った勢いの会話と笑い声で充満した。

それから次々とタッチパネルで部下が無作為に銘柄を選び運ばれてきたが、

コメントをする度に変な地雷を踏む自分を猛省し、

どんな場においても「ヤバい」と「エモい」で逃げられることを以前に学んだボクは、「ウマい」もそれらの仲間にいれた

絶妙コラボレーション
を駆使する策を繰り広げたのだ。

どのようにエモいのか、ウマいのか、どこがヤバいのかというディテールは伏せ、あくまで抽象的に「ヤバい」「エモい」「ウマい」という単語をただ並べ換えて連呼する。

「原料米を栽培する産地のエモい情景が浮かぶね」

「こりゃ、ヤバい口当たりだわ。」

「樽の香りがあるようでないような、そんなウマさがあるわ」

「うっま~。」「エモ~っ」「やっば~」
言語を獲得した輝かしい人類進化の歴史を否定するほどにボキャ貧の極みを披露。

その事実に反してベテランならではのテクニックで乗り切った感でご満悦気分に浸るオレ。

グイっと飲んでは、タブレットで注文。
そしてボキャ貧。
顔はご満悦。

一糸乱れずにそれを繰り返したアラフォー男。

そんなこんなで、興奮したりテンパったりしているうちに2時間の食事はあっという間に終わってしまった。

……23時過ぎ。

子ども達が寝静まった寝室に、ボクはなんとほぼ無傷で帰還した。

子どもの寝顔を見ながらつぶやいた。
酔っ払っているせいか、なんだか良い気分。

「パパ、ハリーの魔法よりも、人生を生き抜くために有効な魔法を獲得したYO」

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