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災害時に本当に使える日常からの情報共有とは?-第10回だれ一人取り残さない防災研究会(ゲスト:総合在宅医療クリニック市橋亮一さん)

みなさんこんにちは。チャレコミ防災チームの瀬沼です。
今回は2月20に開催した第10回の勉強会の様子をお伝えしたいと思います。

ゲストのご紹介

今回ゲストにお越しいただいた市橋亮一先生は在宅医療分野のトップランナーのおひとり。「最期まで住み慣れた場所で暮らせる『まち』とその仕組みを作る『ひと』を、地域はどのように育て、支えていくか?」という問いの下、訪問看護師や医療関係者だけではなく、行政や関連団体など業種を超えた人々とともに様々な活動をされています。
今回の研究会にお越しいただいたのは、災害時には大きな避難所に医療体制が偏ってしまいがちですが、小さな避難所なども含め地域の中で適切な医療マッチングができないかについても検討されていたため。研究会メンバーのテーマでもある「だれ一人取り残さない」に対して、在宅医療という視点からどのように関わっていらっしゃるのかを伺いました。

災害時の在宅医療の役割とは

総合在宅医療クリニックがあるのは岐阜県羽島郡。
当然ながら在宅医療は自宅で診療を行っているため、災害時の対応も患者さんの自宅へお伺いする必要があります。
現在は遠隔診療のためのシステムなども取り入れながら日常の診察も行っているとのこと。例えばベッドサイドに置かれたモニターをつけて、ライトがついて看護師さんにつながる体制をつくり、遠隔でモニタリングできるので一人で住んでいても安心な環境づくりにも取り組んでいらっしゃいます。
また新型コロナウイルスの流行以降、施設に入ってしまうと感染防止の観点から家族でさえもなかなか会えなくなってしまいます。そのため可能であれば自宅で亡くなりたい、という思いの方も増えているそうです。

総合在宅医療クリニックホームページより

エリアによる対応方法の違い

災害が起こったときに想定される被害はエリアによって異なります。
総合在宅医療クリニックのある岐阜は海なし県。
そのため津波の被害はありません。そのため南海トラフなどで大規模な地震が起こったときには岐阜に逃げてくる人もいるのではないか。ということを想定して、岐阜県内に拠点を整備しているとのことでした。

電気ガス水道が無くても動くような設備を整えながら、有事の際には名古屋と三重のサポートに岐阜を拠点に動いていきたいと思っているとのお話で、現在の社屋「かがやきロッジ」の災害時の拠点設備についてもご紹介いただきました。

中長期的な支援を実現する市橋先生の構想”Homat”とは?

みなさんは「DMAT(ディーマット)」という言葉を聞いたことはありますか?
厚生労働省のホームページには以下のような説明があります。

「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており※、災害派遣医療チーム Disaster Medical Assistance Team の頭文字をとって略して「DMAT(ディーマット)」と呼ばれています。
医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期(おおむね48時間以内)から活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チームです。
※平成13年度厚生科学特別研究「日本における災害時派遣医療チーム(DMAT)の標準化に関する研究」報告書より

厚生労働省DMAT窓口より
http://www.dmat.jp/dmat/dmat.html

しかし、大規模な災害が起こった際に備え、思いのある医療従事者の活動から長期的・広域での相互支援の枠組みが必要なのではないか。との問題意識から市橋先生たちが構想していらっしゃる取り組みです。

市橋先生プレゼン資料より抜粋

またこの仕組みに加えて「予備役システム」を構築することで、外部支援の現場に行く方々の日常業務を担う後方支援も行えるようになります。
この後方支援を行う人材には現場を求めている大学生チームが活躍するのではないかとのことでした。
これまで思いある方々が持ち出しで集まってきていた取り組みは限界がありましたが仕組みにしていくことで、より多くの方々にケアの手を届けたいというのが思いでもあります。

声を発せない人たちの情報をどう集めるか

これまでの避難所の物資支援でも同様のことが起こっていましたが、大規模な避難所には、ボランティアなどの人的資源も物資も多く集まります。
しかし小規模な避難所や在宅避難の方など、なかなか情報がないところが一番困難を抱えている場合もある。情報がない方たちが声を上げる仕組みがないと、物資と同じことが人的資源にも起こるのではないかと危惧されていました。
災害は受け入れる側にも体力や受援力が必要になります。物資・宿・移動などについて新しく人が来るたびに説明をすることが必要になってくる。長期でいられる人がいないと「情報共有」だけで膨大な時間と労力がかかってしまうなどの問題もありました。
さらに、個人情報をどのように取り扱うのか?という問題は切っても切り離せません。
そのため、総合在宅医療クリニックの活動エリアでは、あらかじめ協議会をつくって「もし災害が起こったらどのように動くのか?」を日常から共有しているとのことでした。

毎年更新されるハンドブックと研修会を起点に地域の防災力を高める

協議会は災害が起こった際に動くことになる自治体・消防・警察・学校・福祉施設・病院などの関係者とともに運営しているそう。
ハンドブックをつくり、そのリストを更新したり、日常的から定期的に勉強会を開催することで個人情報の取り扱い方を決めたり、有事の際の動き方をシミュレーションしているとのことでした。
例えば、行政が持っている物資のリストも行政担当者のかたが万が一動けない状況になってしまっては分かりません。
そうしたものもあらかじめ洗い出して記載し、有事があった場合に当日確認すべき質疑応答関係者内で共有することを毎年確認を繰り返しているとのことでした。
こうした取り組みを繰り返しながら、協議会で出た質問内容をまとめて持って帰ってもらい、それぞれの主体が持っている情報を協議会に持ち込んでもらうことで日々アップデートされているとのことです。
研究会当日は数十ページにわたる実際のマニュアルも共有いただきました。

在宅医療に関わる以上、災害が起こったときの災害弱者を担当することが義務付けられている。災害が起こったときの命を救うためにはここまでやるしかない。という市橋先生の言葉がとても印象的でした。

こうした地道な取り組みや地域内での情報共有が何かあった際に関係者が動けるかどうか、そしてそれがどれだけの人の命を救えるのかに直結しているのだと感じられた勉強会でした。


次回の勉強会は、3月20日(月)に開催予定です。

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「だれ一人取り残さない」防災研究会とは…
①災害が起こったときには日常からのつながりが重要になる。そのために、日常から学びあい、つながりをつくること。
②研究会に参加するそれぞれの主体が自分たちの防災・災害支援に対しての実験を相談したり実際にやってみたりする機会にすること。
を目的に毎月第3月曜日(祝日の場合は翌日)に研究会を開催しています。ご関心のある方は以下のフォームからお問合せください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdBa7sljKtAXvjGJp9VvAgICc9rc2E1iC6JGmUZiWTNoRIUjg/viewform


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