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北朝鮮で家を建てた話 #27

私が小学校の時は、団地の4階に住んでいました。
もちろんエレベーターはありません。

外には倉庫がありましたが、物を置いておくとすぐに盗まれるので、自転車は毎日4階まで担いで登っていました。

両親が40代後半に差し掛かった頃、このような生活が苦痛になってきたのか、一軒家を建てようという話になりました。

私が住んでいた地域で、最も立地の良い場所に100〜150㎡ほどの古い家付きの土地を購入しました。

購入と書きましたが、北朝鮮では土地や建物はすべて国のものになるので、本来は売買など許されません。なので、密かに取り引きが行われているのが実情です。

私はこの方面について詳しくないのですが、個人宅の交換となると、多少は許容される部分があるようです。
表向き“交換”という体裁を整え、ある程度のお金を渡して取り引き成立です。そして、地域を管轄する保安員に賄賂を渡すことも忘れずに。

しかし、日本のように、住宅メーカーや工務店があるわけではありません。

北朝鮮で一軒家を新しく建てるためにはどうすれば良いのでしょうか?

やはり、そんな時に頼りになるものは“アレ”しかありません。そうです。ここでも賄賂です。

大きな工場のトップにお願いし(賄賂を渡し)て、家を建てる技術を持っている工員数人をしばらくの間、貸し出してもらいます。
その人たちは職場で過酷な労働に従事しても、家を建てるために働いても、受けられる配給は同じ(※)です。
(※当局に見つかればタダでは済みません)
一方で、個人の家づくりに動員されると、1日3回の食事付きで、手土産などももらえるのでとても喜んでいる様子でした。

そういった下準備を済ませて、4月くらいから古い家を取り壊し、新しい家の基礎作りを始めました。1994年の話です。

そして、現実を知ることになります。

セメントやブロックなどの建築資材を(賄賂で入手して)いろいろなところから運んでくると、翌朝にはかなりのものが盗まれてしまうのです。
夜間には(賄賂を渡して)警備をする人を付けていたにも関わらず、です。

今となっては笑える話ですが、警備をお願いした人たちが率先して盗んでいったことには驚愕したものです😭
こちらも(北朝鮮の価値観からすれば)悪いことをしている自覚があるので、泣き寝入りするしかありません。

それからは誰も信用できないという結論に至り、家族や親戚で交代しながら警備をすることになりました。

大小さまざまなトラブルに見舞われながら、基礎ができあがった同年7月8日のことです。

突然、、、金日成(キムイルソン)が亡くなりました。

当然のように家の建設はオールストップです。朝も昼も夜も、金日成の銅像の前で泣かなければならなくなりました。

そのような中、セメントを含めた建築資材は容赦なくは盗まれていきます。やむを得ず、(賄賂を積み増し)深夜に少しずつ作業を進めてもらうことにしました。

しかし、ある日、家の様子を見にきた保安官が「首領様が亡くなっているのに建設を進めるなどあり得ない」と言いながら、こっそり深夜に進めた部分を全部壊してしまったのです。
翌日、保安官に相談し(賄賂を渡し)たところ、夜間の作業には目をつぶってくれることになりました。

山を越え谷を越えて11月ごろ、なんとか屋根を乗せるところまでたどり着き、雨はしのげる状態になりました。しかし、いまだ窓もドアも付いておらず空洞になっていて、壁材が剥き出しの状態でした。

なんと、その状況で私たちは引っ越しをすることになったのです。

建設が予定より大幅に長引いてしまい、住んでいたアパートを引き払う期限が迫っていたためです。
また、私たち家族はともかく、親戚に警備への協力を継続してもらうことに限界が訪れつつあったというのも理由の一つでした。

北朝鮮の11月はとても寒いのです。
雪は降りますし、屋外の水は凍ります。

ダンボールやビニールで窓や玄関が収まるべき空間を塞ぎ、薪を燃やして暖を取りながら暮らしました。当時、とても辛い時期を過ごした記憶が今も蘇ってきます。

家が完成したのは翌年の夏頃でした。

両親は激しく疲弊し、白髪とシワが増えたようでしたが、立派な家が建ったことにとても満足げな様子でした。

家は3LDKで地下室も備えていました。

そして、立地が良かったためか、同級生の両親は朝鮮労働党の幹部が多かったです。立地によって住民の層が変わるのはどの国も同じなのかもしれません。

今は誰が住んでいるのでしょうか。
そもそも家は残っているのでしょうか。

私が生きているうちに一度でいいから行ってみたい場所、不動のNo. 1です。

今日もありがとうございました!

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