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上司とハンバーグ食べに行った話

先日、仕事中に上司のひとりからこんな誘いがあった。

「美味しいハンバーグ屋見つけたんだけど、今夜一緒に行かない?」

この上司は自分の倍以上の年齢であり、仕事には実直であるものの、同僚の多くから「変わった人」と評される人物である。

普段は気さくで話しやすい雰囲気なのだが、いざスイッチが入ると強く持論を展開する、いわば自分の中に譲れない価値観がしっかりとあるタイプの人だ。

ちなみに飲みも含めて、この上司から食事に誘われたのは今回が初めてである。

その記念すべき初回がハンバーグかぁ……と思ったのだが、
「いいですね!行きましょう!」と即答した。

仕事場から歩いて10分の距離で行けるとこにあるらしい。
車で行っても良かったのだが、一緒にそこで飲みたいとのこと。

ハンバーグ屋で飲むのか……
しかしそんな穴場スポットが近くにあったなんて……

と思いながら、お腹もかなり空いていたので、少し期待に胸を膨らませ、暗い夜道を上司と二人で歩く。

しばらく歩いた先に建物が見えてきた。

外観がごつごつした茶色い建物が明かりに照らされている。

………………ん?

なんか…………


見たことあるような…………


どんどん近づいていく


えっ…………


これって…………



びっくりドンキーやん笑


ウソやん……と思わず心で呟いた。
もしかしたら唇も動いてたかもしれない。

さすがにここは通りすぎるだろ……
そうだ、そうであってくれ……!!



────入店。


ギャグやん

「美味しいハンバーグ屋を見つけた」
「そこで一緒に飲みたい」

って発言を受けて、びっくりドンキー想像する人、全国でこの上司しかおらんやん

もしかしてM-1王者のミルクボーイみたいに、
「びっくりドンキーやないかい!! 完全にびっくりドンキーやがな!!」
ってツッコミ待ちしてる……?

いやそういうタイプの人じゃないんだよな……

これが周りから「変わった人」と評される所以なのだろうか?
いや人の価値観はそれぞれだからな……

様々な想いが交錯する中、「でもこれ絶対後輩と話す時のネタにできるな」と、一周回って自分が置かれた状況が少し楽しくなってきた。

「ここ、来たことある?」
「いやぁ〜初めてですねぇ、気にはなっていたんですけど」

2〜3回は入ったことがある。
トイレの場所も鮮明に把握してる。

しかしここは上司を立てる、嘘も方便だ。

席から周囲を見渡すと、家族連れやカップルばかり。
スーツ姿の青年とおじさんの席はここだけである。
そりゃファミレスだからな、と自分にツッコミを入れた。

他の上司とも飲みに行く機会があるのだが、その場で必ずやることが3つある。

①メニュー表を上司に提示し、「何を飲みますか?」と質問する
②上司のコップの飲み物が5分の1以下になった瞬間、①を再度行う
③食後、上司の前につまようじを置く(場合によっては冷水と新しい手拭きの注文)

この3つの工程は欠かしたことがない。
誰に言われるでもなく、自然に身に付いた自分なりの気づかいだ。

仮に自分が「上司の信頼を得る方法」という本を書いたとしたら、上記三点を入門編として載せたい。

ファミレスの安いアルコールを口に入れながら、言葉を交わす。

「○○君は趣味はなんかあるの?」

「スポーツ観戦が一番好きですね。サッカー日本代表の試合とか」

「日本強くなったよね。遠藤も冨安もプレミアでスタメンだし、あと最近バイエルンに入った、あれ名前なんだっけ?」

「伊藤ですね」

「そうそう!伊藤!彼確かレフティだったよね」

めっちゃ詳しいやん笑
伊藤がレフティとか、サッカー好きしか知らんやん

上司と出会って数年経つが、まさかこんなにサッカー好きだったとは思いもよらなかった。

自分がいかに身近にいる人のことを何も知らないのだと気付かされる。

しばらくしてハンバーグが運ばれてきたが、知っていた通り特段美味しいものではない、ごく普通のハンバーグだった。

それから約2時間ほど店内に滞在したのだが、仕事についてはお互いの口からひとつも話題が出なかった。

仕事と飲みの場を切り分けている。
なるほど、これが上司なりの気づかいなのだ。

上司がなぜ突然自分を誘ったかは分からないし、聞こうとも思わなかった。

だが、年の差や立場を忘れた、いい飲み会、ハンバーグ会だった。

「ハンバーグ屋かぁ」
「びっくりドンキーやん笑」
と萎えていた数時間前の自分を叩き直したい。

飲みは人対人、場所がどこだろうと関係ないのである。

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