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防災科学技術研究所 第31回共創考究会参加報告

2024年8月23日(金)、茨城県つくば市で防災科学技術研究所(以下、防災科研)の第31回共創考究会「データにより加速するマルチモーダルAIの防災減災活用」が開催されました。

弊社(以下、TdR)は過去から防災・減災領域のR&Dテーマの一つとしてAI活用を進めています。
企業財産本部では社会経済物理・データサイエンスを専門とするTdRの矢野 良輔を中心に産学連携の研究活動を深めています。

第31回共創考究会では、防災科研の山下拓三氏と宮島亜希子氏のご協力の下、矢野が自身の研究活動で接点のある 佐藤知正氏(東大院情報理工学系研究科 名誉教授) と 高安美佐子氏(東工大情報理工学院教授) に依頼して、お二人のご講演が実現しました。

防災・減災に関わる広い学際領域の研究者を招聘し、マルチモーダルAIなど生成系AIをはじめとする新技術をいかに防災減災に活用していくかを60名を超える参加者で議論するインフォーマルながら大変盛況な会となりました。


生成AIにより強化されたこれからのコ・ロボットへの期待

佐藤知正氏は、国内のロボット工学をけん引してきた日本を代表する研究者です。
従来の災害ロボットという枠組みを超えて、生成系AIによって人との協調機能を向上させた「コ・ロボット」が、災害領域でどのように浸透していくかについてご紹介いただきました。
ご講演では、無人農業バスの災害利用など、より広義なロボットの災害活用に向けた提言を頂きました。ロボットを地域コミュニティにおけるビジネスの一部に組み込んで平時に浸透させるシステムを構築することが防災活動上重要であることを実感しました。

企業取引ネットワーク構造に基づいた自然災害の経済的影響の推定

高安美佐子氏は、経済を物理学とのアナロジーから研究を行う第一人者で、サプライチェーンネットワーク上の企業間資金の流れの評価をはじめ、これまで、様々な経済問題に取り組まれています。
ご講演では、サプライチェーンリスクの解析例として、企業間取引データから推定した企業ネットワーク構造と、企業の取引額を推定する物理モデルから2016年の熊本地震による企業の損害を評価、予測値が実測値と同程度であったことをご紹介頂きました。
加えて人流を評価する新しい物理モデルを用いて、災害によりインフラが停止した場合の人流についてのシミュレーション結果をご紹介頂きました。
統計物理学、ネットワーク理論といった最先端の物理理論が、防災・減災分野においても大きな威力を発揮することを改めて知る貴重な機会となりました。

災害復旧を支援するための画像とAIを活用した建物被害状況把握モデルの開発

防災科学技術研究所の内藤昌平氏からは、災害後の建物被害を衛星写真や航空写真などの画像から判別するAIの予測精度をご紹介頂きました。
建築物の半壊、全壊分類など、保険査定の側面からもAIによる自動化が望まれる領域においても、その研究進捗をご共有頂きました。

まとめ

総括として、臼田裕一郎防災情報研究部門長から、今後のマルチモーダルAIの防災減災活用に向けた統合的データ環境構築の重要性についてご指摘頂きました。


総合討論の様子:左から、佐藤(TdR)、内藤主任研究員(NIED)、工藤(TdR)、山下主任研究員(NIED)、金子(TdR)、高安教授(東工大)

災害対応は、様々な学術領域が含まれる複合領域である一方、その取り組みを研究者が共有する機会が少ないという問題も存在します。
災害に関わる研究者が多岐にわたる研究の最前線を共有する場として有意義な会であり、今後もこのような機会を持つことが重要です。

次回の第32回共創研究会もTdRが参加予定であり、より具体的な議論を深めていく予定です。

TdRはこのような社会課題の多角的解決に向けて、今後も産学の連携を進めていきたいと考えています。